昨日から修士二年の Technique d’expression écrite et orale という新しい演習が始まった。昨年度までの五年間は Technique d’expression écrite という科目名だった演習に取って代わる演習である。取って代わるといっても、内容が大きく変わるわけではなく、学生それぞれが現在作成中の修士論文の一部に相当する内容を日本語で4000字前後の小論文として書かせるという最終目的に変わりはない。この演習の開設以来ずっと担当してきているので、小論文作成プログラムのほうはすでに十分に練れていて特に変更すべき点はない。それに今年度から口頭表現力の訓練が付加される。そこで、小論文作成作業の経過報告を毎週日本語でさせることにした。
その報告は必ずしもまとまっていなくてもよい。生成AIを使って体裁だけ整っている中身のない報告はいらない。作成過程で突き当たった問題、迷っていること、うまく表現できないでもどかしい思いをしていることをそのまま言葉にしてくれればよい。自分のなかで今生まれ出ようとしているものを、うまく言えなくてもいいから、言葉にしてほしい。
そう学生たちに伝えてから、聴解練習もかねて、このブログでも今年何度か話題にしたNHKドラマ『舟を編む ~私、辞書をつくります~』第二話の一部を視聴させた。自分の言いたいことがうまく言葉にできなくてもどかしい思いをしている岸辺みどりに向かって馬締光也は次のように言葉をかける。
うまくなくていいです。それでも言葉にしてください。いま、あなたのなかに灯っているのは、あなたが言葉にしてくれないと消えてしまう光なんです。
これは原作小説にもない台詞で、このドラマの脚本を書いた蛭田直美さんのアイデアなのであろうか。とても素敵な言葉だと思う。最初に視聴したときから深く印象に残った。
そして、これは今回の演習に参加する学生たちへ贈りたい言葉でもあった。このシーンの少し前から耳を傾けていた学生たちの表情がこの台詞を聴いた瞬間、少し輝いた。心に触れるところがあったのだろう。
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