ボクが吉田美奈子さんの存在を知ったのは、マクセルのカセットテープの点数を集めるとオーディオグッズがもらえるというパンフレットだった。
そのパンフレットは、「狭いながらも楽しい我が家(Byエノケン)」のどこかにはあるはずなのだが、消息不明。
そのパンフレットには、大貫妙子さん・ラジ・そして吉田美奈子さんの3人の肖像がモノクロームカラーで横に並んでいた。
このときの、マクセルのCM曲が大貫さんの後世に残る教授との相乗効果を発揮した名曲「黒のクレール」だった気がする。
***
本格的にアルバム全曲を通して聴いたのは「ライトゥン・アップ」というアルバムだった。
ボクは早速このアルバムをカセットテープに落として、磨り減るほどに聴いた。
そのカセットテープのインデックス・カードは、雑誌「写楽(しゃがく)」のグラビアで、朝もやのたゆたう中、通りを横切る少年(中学生の帽子をかぶり・白いシャツに・ズボンをはいた)の【当時は(!)憧れていた】中国の風景のショットを切り抜いたものだった。
このアルバムは、タイトルの「ライトゥン・アップ」の勢いある曲で始まるが、自分がこの1982年から繰り返し愛して聴いているのがA面2曲目の『頬に夜の灯』である。
***
常に孤独で、愛に飢えて40数年生きてきたが、寒い冬の街に佇んでいると、行きかう楽しげな家族、仲の良いカップルが闊歩し、心までが寒くなりそうになるが、そんなとき。
この曲を頭の中のPLAYボタンを押すと、そんな孤独な自分をほんわかと包んで救ってくれる。
元々吉田美奈子さんはきっちりと歌詞がわかる歌の歌い方が出来る人だが、長く愛した分、歌詞がすっかり自分のカラダに染み込んでしまった。
どんなにも孤独な街に佇み・放浪しても、暗い中に「ポッ」と希望のようにまたたく電飾・明かりさえあれば、ボクはこの曲を思い浮かべて、暖かい気持ちになれる。
それは、突っ張りでも・やせ我慢でもなくて、本心である。
結果、みんな一人で死んでいかなければならない孤独を背負った中、寒い季節には自殺者が多く出るが、ボクには、ささやかな光とこの曲があれば十分しあわせになれる。
たぶん、この曲も、ボクの死までの伴走者の中の大事な1人なのだ。
【吉田 美奈子 「頬に夜の灯」 作詞・作曲:吉田美奈子】
灯ともし頃ならば 街も華やいで
急ぐ足を止める 夜に飾られて
すれ違う人 色とりどり
輝く灯に頬を染めたら
一番好きなあなたのため
わずかだけど 愛をおくろう
灯ともし頃ならば 少しはにかんだ
うつむきかげんでも 恋はかなうはず
孤を描く 星たちのまたたきが
終わらぬうちに
時をそのまま 止められたら
なんてステキ あなたのために
恋をかなえる夜の街に
頬を染めて愛をおくろう