1月10日 日
冬至あたりに比べれば、春に向けて陽は長くなってきた。師走にはすでに湯島やこの島で梅が咲くのが見られた。
それでも日の長さは短く、早い時間に外に出ないと、陽はあっという間に沈んでしまう。
外に出る出だしが遅れた。歩き過ぎで足も傷んでいるので(休みは乗らないよう努めている)電車でショートカット。
祝日法が無理矢理結合した世間の連休。
この日もどこと決めずに歩き出し、十条から板橋のあたりへ。
正月の余波が続き、神社仏閣も祭り一色のやかましさ。ノイジーな御利益場とその周辺があるばかり。しかし、そこを離れれば、ちゃんと昔とつながった変わらぬ空気がある。
五輪を口実にした東京の破壊が進行する中、北区・板橋区あたりは人肌感ある場所が多く残っている。いつも一息つかせてもらっている。
歩く最中聴く音楽は、クリムゾン、フリップ、ボウイ、NoNukesにおけるYMO、クラフトワーク、ボズ・スキャッグス、陽水、砂原さんと移り変わっていく。
その日の旅が終わりつつある陽が沈んだ夜道では、昨年出会えたガウシアン・カーヴの「Clouds」。
街の放浪は幼い頃からの癖だが、ここ数年は極端でやり過ぎてしまい足を傷めることが多い。
音楽をより多く聴くのは、インドアから街を放浪しながらの方へ、より傾く。あてない通りに佇むとき、音楽は余分な装飾をとっぱらい丸裸で聞こえ、それが放浪の中での伴侶となり解放感を生む。
行くたびに常に新しい顔をして待っていてくれる街のありさま。それを視てシャッターを切り歩くことが、今のボクの楽しみであり生きる喜びとなっている。その視聴覚ないまぜの瞬間瞬間はいつも自分を励まし、よく気分が落ち、疲弊と掴み難い鬱感に包まれていく自分を、生き生きした方向へ軌道修正してくれる。
1月11日 月
この休みも歩いていた。ある地点まで快調だった。
1月12日 火
朝、寝起きラジオを点けるとボウイの曲が流れていた。DJはヴァンスKさん。
室内がやけに薄暗い。パソコンを点けニュース・ページに行くと、雑誌・女性自身みたいな見たくもない記事とコメント。見ないふりしてすぐ消す。一切の情報を閉ざし、いつも通り緑茶とパン、そして朝風呂と一式終えて外に出る。
雨が降っていた。冷え込みからこの冬初めてのコートを着込む。
仕事場に断りをいれ、待ち合わせ駅で兄と落ち合い、親の転院先候補の病院に行く。
朝から何杯もコーヒーを飲んだ。行きがけの喫茶店、一仕事終え病院を出て別の喫茶店と。
兄と途中駅で別れ仕事場に行くと、じぶんのためにインターFMが点けてあった。そんな同僚たち。
1月13日 水
雨はやみ空は晴れたが、東京はこの冬初めての氷点下。
午後から仕事で地方都市に向かう。その車中「ザ・ネクスト・デイ」を聴き、車窓を流れる風景に眼を凝らす。時折シャッターを切る。たっぷりの日差しと音は気分をハイにさせる。
情報を遮断した中で、死んだなんてウソであるように現実のリアリティは遠ざかる。そこに果たして事実から逃れたい脳の働きがあるか?音楽は相変わらず踊りたくなるような鮮度を呈している。
わだかまりと不自然さと整理付かなさと。
ローカル線の駅でタバコ吸いぼうっとしているうち、たまにしか来ない電車に乗り遅れた。電車は行ってしまった。そのおかげで約束の時間に間に合わず。
昨日次から次へボウイの曲が流れたが、そこには普段通り音楽としての良さで、感慨深いというよりも良い時間が流れていた。いつもどおり。だからと言ってくたびれ果てて帰った後、音楽棚から引っ張り出して聞く力はなかった。
まるでフリップ&イーノの「イブニングスター」、そんな美しい日没を視る。
その後と帰路の冷え込みはさらに厳しかった。帰ってはおでんを煮る。
1月14日 木
夜、食材を買って帰る。ノイズの無い島と空間。
がさごそカセットテープの山を探索し、1982年「ソニー・サウンドマーケット」を見つけた。繰り返し聴いた大好きなカセット。
マンハッタンのイーノを立川直樹氏が訪ねたインタビュー。CMをカットし、ダビングを行って編集したが、それによって音質は相当劣化した代物。
まだちゃんと回ってくれた。イーノと仲間たちという中盤、別の機会に立川氏がボウイにインタビューした録音が挟まる。
立川氏「レコーディングの間に、どんなことをしていますか?」
ボウイ「Sometime i get up・・・hahaha!・・・。
起きた時に2つ3つ頭の中で考えることを決めて、その日でその考えがまとまれば、その一週間はうまく行くし、うまくまとまらないとその一週間は、その考えをぐしゃぐしゃ考え続けて嫌な一週間になってしまう。
考えが浮かばないときは、イーノに電話して考えを借りる。
彼は自分では使い物にならないアイデアを2つ3つ貸してくれる(周囲の笑い声)。」
■ボウイ&イーノ 「アフリカン・ナイト・フライト」1979(アルバム『ロジャー(間借人)』より)■
イーノが描いたプリペアド・ピアノのループをベーシックトラックにして、その上にボウイのラップ等々の音が乗っかってくる。2人のコンビネーションから産まれたこの曲が持つエネルギーと革新性。他にはどこにもない音像。未だに大好きな一曲。
こんなときほど自らに向かい合うために同調せず、個人としてちゃんと眼耳を澄ませたい。
そうして情報を遮断した中、数少なく手に入れたものと言えば渋谷さんのブログから教えられたこと、そして長い友であるくもおさんのコメントとブログ。「同調せず」と言いながら、共に熱く、共に情動を掻き立てられ、そこに惹き込まれてしまった。
明日夜は渋谷さんの「ワールドロックナウ」。
こんなヘヴィな状況下で、いったい渋谷さんは、こんな「ナウ」に対してどんなことを話されるのだろうか?