四 弱者淘汰政策(続き)
脱社会保障政策
2050年代ファシズムの「社会強靭化計画」と密接に関連するもう一つの政策は「脱社会保障政策」である。これは、その名のとおり、国が社会保障政策から撤退することを意味する。もっとも、社会保障の全否定ではないが、伝統的な社会保障制度の根幹部分は否定されている。
その土台となるのが、改憲である。すなわち昭和憲法のように社会権条項の筆頭に生存権を置くのではなく、筆頭にまず勤労の義務が置かれる。これを前提として、国に生活の最低限度支援―「保障」ではない―を努力義務として課す―従って、これは権利ではない―という規定に変更される。ここから、いわゆる生存権も否定され、国民は原則として自らの稼得によって生計を立てるべきことが基本的な義務となり、社会保障という制度理念の根幹が否定されるのである。
具体的には、まず公的年金制度が現役時代の所得水準に照応した完全な所得比例型年金に移行されている。無収入者も包摂する国民基礎年金も現行の半額の月額3万円程度に縮減されている。他方、年金受給開始年齢は一律70歳に繰り下げられるが、70歳を越えて勤労した人にはプレミアムの報償的な勤続年金が上乗せして支払われる新制度が設けられている。
健康保険の分野では、「社会強靭化計画」に関連して先に触れたように、遺伝子検査と必要に応じた特定検診及び保健指導の義務付けにより医療費を削減する施策が導入されているほか、後期高齢者医療制度は廃され、一律に原則4割負担とされている。
介護保険の分野では、いっそう進行した少子高齢化と介護費用削減名下に、介護保険施設の新設が禁止されている。その結果生じ得るいわゆる介護難民に対しては、株式会社形態も含む民間介護施設が受け皿となっている。こうした営利的介護施設には利益至上の劣悪施設も少なくないが、行政の監督は緩い。その点の説明として、ファシスト与党の厚労相が「それは老後の貯蓄と介護予防を怠った要介護者への天罰だ」と発言し、野党からは「暴言」との非難を受けたが、この発言にはまさに政府の本心が現われている。
ちなみに、こうした脱社会保障政策の象徴として、社会政策を担当する部門は労働政策部門と合わせ、厚労省の外局として設置された労働福祉庁に移管されている。これは業務の専門性を高めるとの名目で、実際上は福祉行政を厚労本省からくくり出し、機能を縮小したものとの見方が強い。