集団的安保法案をめぐる大衆デモのうねりが内外で注目を集めた。福島原発事故後の反原発デモの頃から、こうした大衆行動の再生が見え始めており、今回の反安保デモも唐突に生じたわけではない。
とはいえ、55年前、安倍首相の母方祖父・岸首相を退陣に追い込んだ1960年日米安保条約改定当時のデモに比べれば、政治的な成果はほとんどなかった。今回のデモを契機に安倍首相が退陣する可能性はない。
デモのうねりを「革命」になぞらえた知識人もいるが、それは真の革命については何も知らないと言っているのと同じである。近年のデモ行動の世界的な傾向性として、現政権の退陣を要求する「反政権デモ」の形態をとることが多いが、現政権が退陣すれば満足して終息してしまうのは真の革命ではなく、一過性の抗議行動にすぎない。
反安保法デモを来年以降予定される国会選挙での「落選運動」につなげようという「戦略」もあるようであるが、しかしこれも「反安倍政権デモ」の延長であり、革命ではない。野党が断片化した現状では、落選運動自体の効果も限定的にとどまるだろう。
多数党支配を本旨とする議会制自体が今回のような超憲法的立法をも許すのであるから、革命というなら、反政権ではなく、反議会制を掲げなければならない。もちろん、その先にあるのは議会制を超える民主的な政治体制の構築であるが、それは議会制と地下通路でつながっている資本主義の廃止とも結合していなくてはならない。
60年安保闘争が終息して以降の日本国民は、続いて始まった資本主義的経済成長の果実である「所得倍増」という麻酔薬で政治的に眠らされてきた。同じように安倍政権も「成長戦略」の麻酔を追加すれば、政治的に目覚めかけた国民を再び眠らせることができるとたかをくくっているようだ。
現状はまだ半覚醒状態にとどまるので、再び麻酔が効いてくる可能性は高い。政権も麻薬の追加注射を急ぐだろう。しかし「成長戦略」が失敗すれば、完全覚醒もあり得なくない。そういう微妙な転換点に来ている。
【追記】
安倍政権は「所得倍増」の代わりに、「GDP増大」を打ち出した。そして新たに持ち出されたキャッチフレーズ「一億総活躍社会」とは、国民総生産拡大のための新たな勤労総動員である。安保法とほぼ同時成立の改悪派遣法が、その梃子の役割を果たすだろう。国民総体の非正規労働狩り出しで、所得倍増どころか、所得半減となりかねない麻薬である。