NATOが中国を仮想敵と見定めたのに続き、今度はアメリカのナンシー・ペロシ下院議長の訪台により、中国が台湾への軍事的威嚇を強めたことで、第二次冷戦はいよいよ本格化したと見てよいであろう。
それにしてもなぜ、この時期に米下院議長の訪台なのか。
大統領継承順位第二位の下院議長によるこの時期の訪台が「一つの中国」テーゼに固執する中国を刺激し、緊張を高めることを理解していなかったとすれば、あまりに外交音痴であるし、理解しながらあえて訪台したとすれば政治的な挑発行動である。
ワシントンの古株で政治に長けたペロシ氏にとって名誉な推測は後者であるから、後者の前提に立って改めて今般訪台の狙いを我流に推測すると━
御年82歳のペロシ氏は来年の退任が見込まれているため、言わば「卒業旅行」として訪台を選んだように見える。物議を醸し、世界の注目を集めるからである。職業政治家は注目を引くためならどんなことでもするものだ。
一方、御年79歳のバイデン米大統領も支持率低迷が続き、今年11月予定の下院中間選挙では与党民主党の劣勢が予想されていることもあり、民主党の下院議長をあえて台湾に送り込み、中国を挑発して緊張を高める一種の瀬戸際政策で政権浮揚を図ろうという政治的打算も窺える。
立法・行政双方のトップ老人の思惑が一致しての「卒業旅行」となった―。そのように見立てることができる。第二次冷戦を回避するどころか、助長することで個人の実績作りや政権浮揚に利用する。党派政治家の考えそうなことである。
当然ながら、西側では中国の軍事的威嚇を非難する合唱が起きているが、挑発による場合は挑発した側が第一次的な責めを負う。現実に台湾海峡で軍事衝突が起きれば、それは「おばあちゃんの挑発的卒業旅行」が招いたことになる。
しかし、今や西側は衝突を望んでいるようにすら見える。日本も例外でなく、「台湾有事」は故・安倍氏が進めた安保法制の最初の発動事例となり得るので、手ぐすね引いて待っているかのようである。
「おばあちゃんの挑発的卒業旅行」は、平和を希求する世界民衆にとっては、迷惑極まる旅行であった。
[付記]
日本共産党が中国の台湾への軍事的威嚇を非難するのは理解できるが(参照声明)、それがペロシ氏の挑発的訪台を契機としていることを批判しないのは片面的であり、日本を含む西側諸国の公式立場と径庭ないものである。