旅倶楽部「こま通信」日記

これまで3500日以上世界を旅してきた小松が、より実り多い旅の実現と豊かな日常の為に主催する旅行クラブです。

ベルベデーレのアポロ

2011-11-02 15:37:09 | イタリア
午後の飛行機にのってローマから帰国の途へ。

昨日の大混雑のヴァティカンにて、おひとり足の遅い方があったので、小松はその方と休み休み歩いていた。ふたりでベルベデーレの中庭にいると、たくさんのグループがガイドさんに連れられてやってきて説明を聞き、感嘆し、ひとしきり写真を撮っては移動していく。私だってそうしてなんどもこのアポロをみてきた。

しかし、こうしてゆっくりとただ対峙していると、そのあまりの完璧さに引き込まれていく気がした。

この彫刻が発見されたのは15世紀。1489年に枢機卿ジュリアーノ・デッラ・ローベレの所有となっていたが、彼がユリウス(ジュリオ)二世として法皇に即位し、ここへ持ってこられたのである。以来、ダ・ヴィンチも、ミケランジェロも、ルーベンスも、カノーヴァも、たぶんローマを訪れた法皇の賓客のほとんどがこのアポロの前に佇んできたことだろう。彼らの時代、ここに入れる人は限られていただろうから、静かななかでゆっくりと対面しただろう。ベルニーニなんか一日中眺めていたに違いない。

現在、観光シーズンのただ中にあっては、そんな昔のような対面をできるはずはない。しかし、こうやってたった十分でもよいから、解説を聞くのではなく、ただ自分の心で対峙する時間を持つべきなのではないだろうか。すくなくともこのアポロにはその価値がある。

オリジナルは紀元前四世紀後半、レオカレス作のブロンズ作品だとされる。左手に弓、右手には矢を持っていて、今しも矢をつがえんとしているように見える。これは紀元後二世紀の大理石コピーになるわけだが、それにしてもなんという完璧さ。古代美術の父といわれる18世紀のドイツ人ヴィンケルマンは「現代に生き残ったおそらく最上の彫刻作品」と評しているそうな(ヴァチカンの解説板より)。
コメント
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