踊る小児科医のblog

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BSE問題にみる日本人の非科学的なリスク感覚

2006年01月22日 | 禁煙・防煙
アメリカからの輸入牛肉再開1か月にして「危険部位が除去されていない」牛肉が国内に持ち込まれたとして輸入中止になったという問題。
アメリカの管理体制のお粗末さとか、小泉内閣の対米言いなり路線の帰結とか、それはそれでいずれもその通りだと思います。
ただし、今回のことで鬼の首を取ったようにマスコミもブログ界も大騒ぎをしているのをみると、正直言って「何だかな~」と白けた気分になります。

要するに、世の中にはありとあらゆるリスクが溢れているわけですが、その中で政治・行政が優先的に対処しなくてはいけないのは、簡単にいえば次の2つ。(例えば感染症の場合)
1)罹患した場合に重症度が高いもの
2)流行した場合に頻度の高いもの


この図は私のおおよその感覚でにわか仕立てに作ったもので、何ら定量的な評価はできていない感覚的なものですが、この2つを座標軸にとってみて、左下から右上に向かって緊急性と重要性が増すわけです。これでみると国内で優先的に対策をとらなくてはいけないのは『新型インフルエンザ(パンデミック)、タバコ、自殺、インフルエンザ、交通事故、麻疹』などであり、BSEは国内において1例も発生しておらず、通常の牛肉摂取において急激に大規模な感染が起こる可能性は極めて低いことから、未然に予防しなくてはいけないものであることは確かにせよ、リスク管理の概念からすれば上記『』内の疾患・問題に比べれば優先順位はずっと下に位置するわけです。
この図は日本国内を想定して書いたものですから、当然国によって変わってきます。トップがAIDSだったりマラリアだったりするでしょう。

簡単に書けば、日本人が「ものすごく危険だ」と考えているアメリカ産の牛肉をアメリカ人や米国在住の日本人は日常的に食べているわけですが、米国内でも牛肉摂取によるBSEは1例も発生していない(確認していませんがそのはず)。その一方で、日本人の多くが「大人が吸うのは当たり前」だと思っているタバコによって、喫煙者が毎年11万人以上、受動喫煙で2万人以上が現在進行形で死亡している。
日米のBSE対策の違いにより、これこれの疾病発現率が変わったというエビデンスは当然のことながら一つもない。
米国産牛を現在の米国の基準で食するよりも、ファミレスのナンセンス分煙で受動喫煙を蒙る方がずっと危険なのは明らかなわけです。

こういったバランス感覚をマスコミが持ってくれればいいのですが、、期待は全然していません。(米国産牛が約束を破って何の対策もなく輸入解禁されるのが良いと言っているわけではないので、念のため)