◎ インフルエンザの治療薬…先に選択肢をあげて簡単に説明しておきます。
□ タミフル(抗インフルエンザ薬)…飲み薬・1歳以上
□ 麻黄湯(漢方薬)…飲み薬・全ての年齢
□ リレンザ(抗インフルエンザ薬)…吸入薬・年長児以上
□ 特別の薬は使用せず、対症薬(咳・ハナミズの薬や解熱鎮痛剤)のみ
その他に、シンメトレルというA型にだけ効く抗インフルエンザ薬もかつて使われていましたが、副作用の点で使いにくい薬なので、現在は処方しておりません。麻黄湯は昔から使われているいい薬で、タミフルと比較して大差なく熱の期間を短縮することがわかってきました。リレンザの使用経験は当院ではありませんが、上手に吸入できればタミフルと同等の効果があるとされています。インフルエンザウイルスに抗生物質は効きませんが、気管支炎・肺炎などの合併症を起こしている場合には追加で処方することはあります。
何も使わないで経過をみた場合でも、ほとんどの方は自分の力で治っていくわけですが、有熱期間が長いだけでなく、咳などの症状や全身倦怠感など、それなりにつらくなることが多いと思います。B型はA型よりも軽く済むことが多く脳炎・脳症などの合併症も少ないことが知られています。
タミフルは2-3回服用すると自覚症状も熱もピークを過ぎて楽になってくれる、これまでのインフルエンザの“常識”を変えた薬で、新型インフルエンザにも効果があるはずなので、その特効薬として位置づけられています。
昨シーズンまでの数年間、日本では多くの患者さんにタミフルが処方されてきましたが、世界的には日本の使用量が突出して多いという事実もあります。
タミフルについては次に説明しますが、当院ではインフルエンザ確診例にはタミフルまたは麻黄湯を、インフルエンザ疑い例には麻黄湯を、保護者の納得と合意の上で処方することを基本として今シーズンは対応したいと思います。
◎ タミフルに関する小児科医と厚労省の見解
昨シーズンのタミフル副作用に関する調査結果については前号でも紹介しましたが、タミフル服用群で副作用が多いという関係は認められていません。タミフルは全国で多くのインフルエンザ患者に処方されている薬であり、今年も1万人以上の大規模な調査を継続して実施しているところです。
それでは、今年の2名の痛ましい転落死事例についてどのように考えていけばいいのでしょうか。現時点では断定的なことは言えませんが、まず厚生労働省の見解を紹介しておきます。
1)転落死の事例については情報を収集し十分な検討を行う。
2)タミフル使用と精神・神経症状に起因するとみられる死亡との関係については否定的で、現段階でタミフルの安全性に重大な懸念があるとは考えていないが、更に詳細な検討を行うための調査を実施している。
3)タミフル服用の有無に関わらず、インフルエンザによる異常言動の発現(約10%)が認められており、まれに脳炎・脳症を来すことがあるので、万が一の事故を防止するため、小児・未成年者の診察の際には次の2つを求めています。
(1) 異常行動の発現のおそれについて説明すること
(2) 少なくとも2日間、保護者は小児・未成年者が一人にならないよう配慮すること
インフルエンザの中でもA型は脳炎・脳症を発症することがあり、その経過の中で、意識障害、痙攣、異常行動、譫妄(せんもう)などの精神・神経症状が認められることは知られていました。また、そこまで進行しなくても高熱が続く1~2日目にうなされたりわけのわからないことを言ったりすることがあり、これが脳炎・脳症の初期症状なのか区別がつきにくいため、心配な様子なら夜間でも急病診療所(23時まで)か救急病院(輪番制=当番病院は消防に問い合わせ)を受診することもやむを得ません。
◎ 因果関係(原因→結果)とは別に症状を修飾した可能性
薬の効果や副作用の関係を調べるには「疫学」という統計学的な手法が使われます。例えば、喫煙本数が多いほど肺がんや喉頭がんの発生率は数倍から数十倍にはね上がることから、タバコと肺がん・喉頭がんの間には強い相関関係が認められると結論できます。
ただし、今回のタミフルと精神・神経症状との関係のように、多数例の調査をしても差が認められなかったり、ごくわずかの差しか出ないことが予想される場合、個々のケースについて因果関係(タミフルが転落死の原因)を確定することは非常に困難ですが、全体の頻度としては差がなかったとしても、そこにタミフルが加わったために症状が修飾された可能性は否定できません。
つまり、タミフル服用の有無に関わらず異常行動が同じくらいの割合で起きたとしても、タミフルを服用していなければうわごとを言ったり徘徊する程度のものが、タミフルを服用したために転落という特異な症状になったのではないかという推測です。今回のケースは小児科医の間でも議論になっていて様々な意見が飛び交っており、その中でこのような仮説も出てきたわけですが、確かなものとしてお伝えする材料はありません。いずれにせよ、マスコミのセンセーショナルな報道だけに惑わされることなく、きちんとした情報に基づいた判断をしていただきたいと思います。なお仙台市の男子中学生の場合、昨年もインフルエンザでタミフルを服用したが特別な症状はなかったとのことです。
八戸に何度も来ていただき講演してくれている国立感染症研究所の岡部信彦・感染症情報センター長は、「すぐに使用を禁止すべきだというほど服用と異常行動に強い関連があるとは思わないが、服用者は多く、調査が必要だ」との見解を示した上で、「タミフルは病状を早く楽にする薬で、飲まなければ命を落とす薬ではない。副作用を心配するなら、その不安を押し殺して飲む必要はない」と話す一方で、新型インフルエンザ流行時については「もし致死率が高く、タミフルが効くなら、不安に耐えてでも飲むべきだ。今のインフルエンザとは別問題だ」とコメントしています。
現時点での判断としては「インフルエンザにかかったからといって全員がタミフルを飲む必要はなく、漢方薬など他の選択肢もありますが、自覚症状が重くてつらい場合などは服用することで早く楽にすることができます。タミフル服用の有無に関わらずインフルエンザでは異常行動のおそれがあるので注意して看病して下さい」ということになります。
□ タミフル(抗インフルエンザ薬)…飲み薬・1歳以上
□ 麻黄湯(漢方薬)…飲み薬・全ての年齢
□ リレンザ(抗インフルエンザ薬)…吸入薬・年長児以上
□ 特別の薬は使用せず、対症薬(咳・ハナミズの薬や解熱鎮痛剤)のみ
その他に、シンメトレルというA型にだけ効く抗インフルエンザ薬もかつて使われていましたが、副作用の点で使いにくい薬なので、現在は処方しておりません。麻黄湯は昔から使われているいい薬で、タミフルと比較して大差なく熱の期間を短縮することがわかってきました。リレンザの使用経験は当院ではありませんが、上手に吸入できればタミフルと同等の効果があるとされています。インフルエンザウイルスに抗生物質は効きませんが、気管支炎・肺炎などの合併症を起こしている場合には追加で処方することはあります。
何も使わないで経過をみた場合でも、ほとんどの方は自分の力で治っていくわけですが、有熱期間が長いだけでなく、咳などの症状や全身倦怠感など、それなりにつらくなることが多いと思います。B型はA型よりも軽く済むことが多く脳炎・脳症などの合併症も少ないことが知られています。
タミフルは2-3回服用すると自覚症状も熱もピークを過ぎて楽になってくれる、これまでのインフルエンザの“常識”を変えた薬で、新型インフルエンザにも効果があるはずなので、その特効薬として位置づけられています。
昨シーズンまでの数年間、日本では多くの患者さんにタミフルが処方されてきましたが、世界的には日本の使用量が突出して多いという事実もあります。
タミフルについては次に説明しますが、当院ではインフルエンザ確診例にはタミフルまたは麻黄湯を、インフルエンザ疑い例には麻黄湯を、保護者の納得と合意の上で処方することを基本として今シーズンは対応したいと思います。
◎ タミフルに関する小児科医と厚労省の見解
昨シーズンのタミフル副作用に関する調査結果については前号でも紹介しましたが、タミフル服用群で副作用が多いという関係は認められていません。タミフルは全国で多くのインフルエンザ患者に処方されている薬であり、今年も1万人以上の大規模な調査を継続して実施しているところです。
それでは、今年の2名の痛ましい転落死事例についてどのように考えていけばいいのでしょうか。現時点では断定的なことは言えませんが、まず厚生労働省の見解を紹介しておきます。
1)転落死の事例については情報を収集し十分な検討を行う。
2)タミフル使用と精神・神経症状に起因するとみられる死亡との関係については否定的で、現段階でタミフルの安全性に重大な懸念があるとは考えていないが、更に詳細な検討を行うための調査を実施している。
3)タミフル服用の有無に関わらず、インフルエンザによる異常言動の発現(約10%)が認められており、まれに脳炎・脳症を来すことがあるので、万が一の事故を防止するため、小児・未成年者の診察の際には次の2つを求めています。
(1) 異常行動の発現のおそれについて説明すること
(2) 少なくとも2日間、保護者は小児・未成年者が一人にならないよう配慮すること
インフルエンザの中でもA型は脳炎・脳症を発症することがあり、その経過の中で、意識障害、痙攣、異常行動、譫妄(せんもう)などの精神・神経症状が認められることは知られていました。また、そこまで進行しなくても高熱が続く1~2日目にうなされたりわけのわからないことを言ったりすることがあり、これが脳炎・脳症の初期症状なのか区別がつきにくいため、心配な様子なら夜間でも急病診療所(23時まで)か救急病院(輪番制=当番病院は消防に問い合わせ)を受診することもやむを得ません。
◎ 因果関係(原因→結果)とは別に症状を修飾した可能性
薬の効果や副作用の関係を調べるには「疫学」という統計学的な手法が使われます。例えば、喫煙本数が多いほど肺がんや喉頭がんの発生率は数倍から数十倍にはね上がることから、タバコと肺がん・喉頭がんの間には強い相関関係が認められると結論できます。
ただし、今回のタミフルと精神・神経症状との関係のように、多数例の調査をしても差が認められなかったり、ごくわずかの差しか出ないことが予想される場合、個々のケースについて因果関係(タミフルが転落死の原因)を確定することは非常に困難ですが、全体の頻度としては差がなかったとしても、そこにタミフルが加わったために症状が修飾された可能性は否定できません。
つまり、タミフル服用の有無に関わらず異常行動が同じくらいの割合で起きたとしても、タミフルを服用していなければうわごとを言ったり徘徊する程度のものが、タミフルを服用したために転落という特異な症状になったのではないかという推測です。今回のケースは小児科医の間でも議論になっていて様々な意見が飛び交っており、その中でこのような仮説も出てきたわけですが、確かなものとしてお伝えする材料はありません。いずれにせよ、マスコミのセンセーショナルな報道だけに惑わされることなく、きちんとした情報に基づいた判断をしていただきたいと思います。なお仙台市の男子中学生の場合、昨年もインフルエンザでタミフルを服用したが特別な症状はなかったとのことです。
八戸に何度も来ていただき講演してくれている国立感染症研究所の岡部信彦・感染症情報センター長は、「すぐに使用を禁止すべきだというほど服用と異常行動に強い関連があるとは思わないが、服用者は多く、調査が必要だ」との見解を示した上で、「タミフルは病状を早く楽にする薬で、飲まなければ命を落とす薬ではない。副作用を心配するなら、その不安を押し殺して飲む必要はない」と話す一方で、新型インフルエンザ流行時については「もし致死率が高く、タミフルが効くなら、不安に耐えてでも飲むべきだ。今のインフルエンザとは別問題だ」とコメントしています。
現時点での判断としては「インフルエンザにかかったからといって全員がタミフルを飲む必要はなく、漢方薬など他の選択肢もありますが、自覚症状が重くてつらい場合などは服用することで早く楽にすることができます。タミフル服用の有無に関わらずインフルエンザでは異常行動のおそれがあるので注意して看病して下さい」ということになります。