万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

天皇陵発掘調査とDNA鑑定の意義

2019年10月24日 15時15分29秒 | 日本政治
 宮内庁は、これまで、歴代天皇陵の発掘調査には極めて消極的でした。しかしながら、この態度はどこか矛盾していますし、日本国民に対していささか高飛車のようでもあります。宮内庁は陵墓を‘神域’とみなし、発掘調査は皇祖皇霊に対する不敬や毀損行為に当たると考えているのでしょう。しかしながら、神社の修繕等の際に行われるように、神事によって皇祖の御霊を一時的に他所に移すこともできますので、この説明は説得力に欠けております。矛盾と申しますのは、天皇陵の指定は明治期に行われているために間違いが多く、それこそ皇霊を蔑にしておりますし、高飛車と申しますのは、天皇陵は、皇室の私的財産でも宮内庁の独占物でもなく、日本国民の共有財産であるからです。

 国民には知る権利がありますので、自らの来歴を知ることも国民の重要な権利の一つです。この点、天皇陵の発掘調査と現皇族に至るまでのDNA鑑定の実施は、実のところ、皇統の継続性の科学的検証に加え、日本国や皇室の来歴を国民が知るという重大な意義があります。何故ならば、DNAの解析データは、今日に伝わる史料からでは分からない歴史の謎を解くための重要な鍵を提供するからです。否、諸説が入り乱れ、歴史学上において学説が対立する際に、唯一、これらの論争に決着を付ける証拠となるケースもあるかもしれません。DNA解析で得たデータとは、天皇家をめぐる歴史的な事実、即ち、日本国の歴史の一端を明らかにする情報が詰まった貴重な宝庫なのです。

 日本国の土壌は酸性であるため、御骨が埋葬時のままに残っている可能性はそれ程には高くはないのですが、戦前に発掘された中臣鎌足の墳墓とされる阿武山古墳のように、保存状態がかなり良好な骨が発掘される場合もあります(ミイラ化?)。古代天皇陵から骨片でも出土すれば、人類の遺伝子の分布マップに照らして天皇家の由来や騎馬征服民族説等の真偽を確かめることができます。また、仮に歴代天皇の間でY染色体の継続性がなく、客観的なデータによって万世一系説が否定されたとしても、何故、そのような事態が起きたのか、文献史学の成果を踏まえつつ検証することもできます。持統天皇や淳和天皇のように火葬に付された天皇の場合もありますが(損傷のためDNAの採取が難しいかもしれない…)、少なくとも継体天皇、後白河天皇、後醍醐天皇といった皇統の危機や時代の転換点に生きた諸天皇、並びに、江戸初期の後水尾天皇から昭和天皇まではみな土葬で埋葬されています。盗掘されている陵墓もありましょうが、スパコン等の能力からすれば、相当に精緻なDNA解析が可能なはずです。歴代天皇の御骨は、テクノロジーの力を借りて2000年以上に亘る日本国の歴史を語り始めるかもしれないのです。

 皇統に対する疑義が呈される今日、最も国民の関心を集めるのは、何と申しましても万世一系説の真偽となりましょう。この場合、DAN解析と云うよりも親子関係を確認するDNA鑑定と表現した方が適切であるかもしれません。調査結果は今後の日本国の国制の在り方に多大なる影響を与えることとなりましょうが(仮に万世一系が証明されたとしても、天皇の国制上の在り方については見直しを要するかもしれない…)、その結果が如何なるものであれ、日本国民には事実を知る権利があります。事実を直視する国民の精神的なタフさ、あるいは、それを受け止める柔軟な心こそ、閉塞感に覆われている日本国の現状を打破する力となるのではないかと思うのです。

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コメント (6)
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