万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

量子通貨‘goo’が最強の通貨となるのか?

2019年10月30日 16時47分57秒 | 国際政治
先日、アメリカのIT大手のグーグル社の研究チームが量子超越性を実証する実験に成功したとするニュースが全世界を駆けめぐりました。量子コンピュータを用いれば、スーパーコンピュータが1万年かかる計算を僅か3分20秒で解いてしまうのですから、この技術が人類に与える衝撃は計り知れません。アナログからデジタルに移ったばかりなのに、そのデジタルも旧式になりそうなのです。

 時代が急速にデジタルから量子に向かうとしますと、現在、リブラやデジタル人民元といった民間企業や国のレベルで発行が検討されているデジタル通貨も、その誕生を見る前に、政治ではなく技術的な理由によって‘お箱入り’となる可能性もあります。ビットコインに始まる仮想通貨とは、ブロックチェーンといった暗号技術によってその価値が支えられていますが、量子コンピュータが実用化されれば、量子通貨の発行も当然に現実味を帯びてきます。

上述したグーグルの実証実験において最も懸念されたのは、既存の暗号化されたデータが全て解かれてしまうリスクです。このことは、反面、量子通貨が発行されれば、同技術を有さない以上、国であれ、民間企業であれ、デジタル通貨を発行しても、その信頼性や安全性はもはや維持できないことを意味します。グーグルによる実験成功の報が伝えられた途端、ビットコインの市場価格が急落しましたが、それは、現行の仮想通貨システムへの信頼が大きく揺らいだためです。技術上の信頼性の高さを評価基準とすれば、量子通貨には、最強の仮想通貨の地位が約束されているとも言えましょう。

そして、ここでもう一つ考えるべきは、量子通貨とデジタル通貨との管理体制の違いです。現行のブロックチェーンの特徴は、誰もが‘台帳’をチェックできる分散型データベースにあり、管理者のいないフラットなシステムが広く支持を集める要因ともなってきました。そして、この分散性とオープン性こそが、データの改竄や不正等を防ぎ、通貨としての信頼性をあたえてきたのです。その一方で、量子コンピュータが実用化され、かつ、量子通貨が発行されれば、発行された同通貨は全て中央集権型データベースによって一元的に管理されるかもしれません。量子コンピュータは、全世界におけるマネー・フローの管理に耐えうる能力を有するからです(もしかしますと、全世界のビッグデータの一元的な管理も可能であるかも…)。言い換えますと、量子コンピュータ技術が確立すれば、もはや分散型のデータベースを用いる必要性は低くなり、国家レベルとは別の次元の中央管理型データベースによる通貨発行が行われるに至るかもしれないのです。

量子通貨の優位性からしますと、現時点において、最も量子通貨の発行体として有力視されるのは、他に先んじて量子超越性の実証実験に成功したグーグル社と云うことになりましょう。グーグル社が発行する通貨の名称は‘goo’であるかもしれません。フェイスブックのリブラよりも、量子コンピュータを擁するグーグル社の方が遥かに信頼性の高い通貨を発行することができますし、IT事業の世界では他に先んじてネット空間にプラットフォームを構築した企業が独占的な地位を得ることもできます。‘goo’こそ、グローバル通貨に最も近い位置にあると言えましょう。

 もっとも、グローバルレベルでの‘goo通貨圏’の成立を、金融・通貨覇権を狙う中国が黙認するとも思えません。分散性とオープン性に注目すれば、中国の習近平国家がブロックチェーン技術において世界最先端を目指すのは矛盾しているようにも思えますが、実のところ、ブロックチェーンには、分散性とオープン性を特徴とするパブリックチェーンとは別のプライベートチェーンと呼ばれる形態があり、中央管理型データベースは現状でも可能なそうです。デジタル通貨発行のシステムはマイニングを要するビットコインとは異なりますので、中国は、デジタル通貨であれ、量子通貨であれ、ブロックチェーンを全通貨の取引データのトレースのためにのみ応用するかもしれません(ハッシュ値を次のブロックに埋め込む際に何らかのマーキングを行う?)。ましてや量子コンピュータであれば、最小単位に至るまで取引履歴のデータをリアルタイムで収集し、全マネー・フローを把握することもできましょう。

 グーグル社の量子コンピュータ開発はNASAとの協力の下で行われていることから、あるいは、アメリカの‘仮想(隠れ・クリプト)国家プロジェクト’であるの可能性もないわけではありません(この意味では、中国の仮想通貨も同国をコントロールする勢力のクリプトかもしれない…)。あらゆる分野において新たなテクノロジーが、支配の道具となるリスクを伴いながら否応なく既存のシステムを揺るがし、人々の生き方をも問う今日、既成事実に押されることなく、先端的なテクノロジーの使用目的については、国際レベルでの議論と幅広い合意の形成が必要とされているように思えるのです。

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コメント (2)
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