ディープラーニングの登場を機に急速な発展を遂げたAI。今日、コロナ禍を踏み台にして、活躍の場をさらに広げそうな勢いです。人と人との接触はウイルス感染のリスクを高めますので、低感染社会を実現するために、人類は、ロボットと並んで機械であるAIに頼らざるを得ないかもしれないからです。
とは申しますものの、AIがあらゆる問題に対して人以上の能力を発揮するとも思えません。大量データをも瞬時に解析するAIといえども万能ではありませんので、転ばぬ先の杖としてその限界について知っておくことは、AIの適切な利用対象や範囲を見出すためにも基礎的な作業ともなりましょう。そこで、AIの限界を見極めるに当たって、‘AIは嘘を見抜くことができるのか’という真偽判別の能力を問うてみたいと思います。
同問題を提起する理由は、今日の政治の世界は‘嘘’に塗れているからです。先日、NHKは、アメリカのケネディー大統領暗殺事件に関する番組を放送しておりました。一部CIA犯行説を軸として作成された同番組の中で特に強く印象に残ったのは、元CIA高官が述べた‘カバー・ストーリー’という言葉です。情報機関は、時にして大衆に対しては虚偽のストーリーを‘事実’として語り(事実らしく見せるために様々工作も実行…)、真の目的と実際に起きた出来事はその裏側に隠している、という意味です。ウォーレン委員会はオズワルド単独犯説を政治的な結論としたものの、全世界の人々が、今なおも同委員会の報告書を以って事件が解決されたとは見なさず、未解決事件の一つに数える理由は、政治の世界には‘嘘’がまかり通っている事実があるからに他なりません。
そして、今般の新型コロナウイルス禍に際しましても、政治を舞台とした‘嘘’によって、全人類に想像を絶する災難が降りかかることとなりました。中国、並びに、その下部組織と化したWHOによる誤った情報発信が同ウイルスのパンデミック化の原因となり、国境を超えたウイルスの拡散を助長してしまったからです。その後も中国は、米軍起源説を唱えるなど、自らの責任を回避するための‘カバー・ストーリー’造りに勤しむのですが、過去の見解との間に齟齬や矛盾も生じ(当初の見解は野生動物起源説であった…)、さらに疑惑を深める結果ともなったのです。
結局、この一件で中国は信用を落とし、誰もが中国発の情報を疑うようになったのですが、それでは、AIは、こうした情報の真偽を的確に判断することができるのでしょうか。AIについては、あらゆる感情や利害関係から中立的であるために、政治分野での利用も取沙汰されています。人ではなく、AIが判断すれば、政治的忖度の一斉を廃して感染症のパンデミック化を上手に防ぐことができるのでしょうか。
この問いかけは、AIによる判断の正確さは、インプットされたデータの正確さに比例するという側面に注目すれば、自ずと答えを得ることができます。データの取捨選択や入力の作業は基本的には人によって行われますので、判断材料となる情報を外部からの入力に依存するAIは、それがたとえ虚偽の情報であったとしても、これを自らの意志で拒絶することができないのです。客観的な観察によって得られる科学的なデータとは異なり、特に人の意志が介在する政治の分野では、データの内容には主観が入り込みます。入力データに一つでも虚偽が混じっていれば、AIの判断は当てにならないのです。今般の感染症のケースであれば、中国やWHO発の情報をそのままインプットすれば、AIも判断を誤ることでしょう。たとえ中国がAI技術において世界のトップクラスの地位を得たとしても、同国が世界に誇るその最先端のAIは、インプットされた情報の問題によって、中国共産党の主観的な見解しか語らない、という非科学的な現象が起きてしまうのです。
それでは、虚偽の情報のインプットを拒絶し得るAIを作り出すことはできるのでしょうか。この作業をし得るAIが存在するとすれば、それは、全宇宙の全てを見通すことができる神の領域に達したAIの登場を意味します。すなわち、情報の真偽を判断するAI側が、インプット者による情報の恣意的な取捨選択や偽情報のインプットを無視して、真偽判断対象に関わる事柄にかかわるすべての正確な事実・情報を完全に知り得るようになって初めて、当該AIは、虚偽の情報を拒絶できるようになるからです。
地球に限定したとしても、各国の情報機関は先史時代から今日に至るまでの全人類に関する情報を掴んでいるわけではない点を考えますと、そこには自ずと限界があるのであり、自己へフィードバックによってAIが人類を超える知的存在に進化するとするシンギュラリティ―の概念も、虚偽の事実の混入という問題が壁となってその実現が阻まれるか、あるいは、フィードバック過程における虚偽の増幅によりあらぬ方向に‘進化(退化?)’するかもしれません。
以上に述べたように、人によって作られた虚偽の情報は、AIにとりましては致命的な意味を持つことになりそうです。もっとも、人であっても、AIであっても、情報の正確さが判断の的確さを支えるという点にあっては違いはありません。AIが普及するにつれ、人々が情報の正確さの重要性に目覚め、事実に基づく情報をより強く求めるようになるとすれば、それは、人々が正常な判断を誤る原因として嘘を嫌い、虚偽の情報を排除してゆく一つのきっかけとなるのではないかと思うのです。