先日、オンライン会議の形式で開催されたWHOの年次総会では、台湾のオブザーバー参加が認められず、残念な結果となりました。この件に関して、日本国の茂木外相は、25日の参議院決算委員会の席で不満を漏らし、「オブザーバー参加はWHOの事務局長が決められる。呼びゃあいいんですよ、極端に言えば」と述べたと報じられています。
同外相の発言から伺えるのは、‘WHOの参加国に関する決定権は、事実上、事務局長にある’という点です。国際機関への加盟には、加盟を希望する国が同機関に申請し、事務局等による提案を経るとしても、総会での決議によって決定する、という手続きを一般的には踏むものです。1971年10月にかの中国が国連に加盟し、台湾を事実上追い出したのも、国連総会におけるアルバニア決議の採択によるものでした。
今般の台湾の参加問題については、正式加盟というよりもオブザーバー参加という、より‘緩い’形式であったためなのかもしれませんが、全加盟国が当事者となるメンバーシップに関する問題が、事務局長の一存で決定される現行の制度は、同職に権限を与えすぎていると言わざるを得ないのです。仮に、今般のWHOの総会にあって台湾の参加問題が採決に付されたとしましたら、賛成多数で認められたことでしょう。上述した外相の発言からすれば、日本国政府も、総会にあって参加賛成に一票を投じた、あるいは、挙手しことは疑い得ません。
ここで台湾のオブザーバー参加に一貫して反対していたのが中国であることを思い起こしますと、テドロス事務局長が独断で不参加を決定したとは考え難く、氏の判断の背後に同国の意向があったことは容易に想像できます。テドロス事務局長には、WHOの最高責任者として台湾の参加を拒む合理的な理由はなかったはずなのですから。WHOの使命は全人類の健康を護り、公衆衛生を向上させることにあるのですから、台湾を排除する行為こそ、同機関に委ねられている役割に背くこととなります。あるいは、過去における台湾による対WHO批判を根に持っていたのかもしれませんが、これでは、同事務局長が個人的な私怨を公職に持ち込んだことになり、公平中立を旨とする事務局長としての職務規範に反する行為ともなりましょう。
そして、今般の一件は、中国が、WHOの組織全体を掌握するために事務局長の座に狙いを定めた理由もわかってきます。おそらく、同国は、様々な事項の決定権限の所在などWHOの組織上の脆弱性を調べ尽くすと共に、事務局長の候補者についてもその経歴から性格まで精査し、最も御しやすい人物を選んで‘チャイナマネー’の後押しで同職の椅子に座らせたのかもしれません。国際機関のトップに中国が自国出身者を送り込むケースが近年増加傾向にありますが、非中国人という点だけで安心してはならないようです。他の諸国の出身者であったとしても、傀儡となるリスクがあり、WHOの事例はまさにこのケースに当たります。エチオピア出身のテドロス事務局長の就任も、中国が推進している世界戦略の一環なのでしょう。
WHOが中国の傀儡機関に堕した現実をかくも見せつけられますと、これを反省点とした今後の改革の方向性も自ずと見えてきます。少なくとも、オブザーバー参加の是非といった組織全体に関わる重大事案を、事務局長が単独で決定し得る現行の制度は見直しを要しましょう(公正でオープンな加盟手続きの確立…)。新型コロナウイルスのパンデミック化は、WHOの存在意義までもが根本的に問われることとなりましたが、制度改革なくしてWHOが信頼を取り戻すことは難しいのではないかと思うのです。