未だに世界各国が新型コロナウイスの脅威に直面している中、その発祥地である中国は一早く封鎖措置を解除し、習近平国家主席の掛け声の下で経済の正常化に邁進しています。V字回復どころか‘焼け太り’さえ目指すとされていますが、この目標、中国政府の思惑通りに達成できるのでしょうか。
医療物資の買占めや輸出規制にも見られたように、今般のコロナ禍により、各国とも、自国経済が中国に依存するリスクを嫌と言うほどに思い知らされました。しかも、疑惑に満ちた武漢のウイルス研究所に対する国際調査を求めたオーストラリアに対して政治的な‘報復関税’を科すなど、正義を踏みにじろうとする悪辣な手法には誰もが嫌悪感を覚えることでしょう。中国の目に余る横暴ぶりからしますと、コロナ禍は、以前からその兆候のあった中国離れを加速化こそすれ、中国の野望の実現を援けるとは思えません。実際に、国内生産化やサプライチェーンの組み換えによる海外企業の中国脱出も始まっており、中国のV字回復には、早、黄信号が灯っています。
実体経済において脱中国の傾向が強まる一方で、金融においても異変が生じつつあります。報道によりますと、アメリカの連邦職員の年金基金を運営するFRTIBは、中国の株式市場への投資を中止する旨を発表したそうです。同基金の中国株での運用は2018年に始まっていますので、投資額としてはそれ程までに大きくはないのでしょうが、この方針は、コロナ禍に関連して対中批判を強まるトランプ政権の意向を受けたものであることは確かなようです。言い換えますと、同基金の決定は、トランプ政権による対中投資の‘引き揚げ宣言’にも等しく、官民を含めた他の米系基金が追随すれば、雪崩を打つかのような中国の金融市場からの資金流出が引き起こされるかもしれないのです。
また、トランプ政権は、アメリカに上場している中国企業に対する調査も命じていますので、多額の対外債務を抱える中国企業の外貨調達手段も先細りが予測されます。加えて、中国は、コロナ禍の責任を追及される立場にあり、巨額の損害賠償を求められる可能性があります。中国が支払いに応じなくとも、在外中国資産が差し押さえられれば、中国経済へのダメージは計り知れません。中国に対しては、アメリカによる内外両面からの‘兵糧攻め’が迫りつつあり、中国のV字回復は、黄信号から赤信号に替わりつつあるようにも見えてきます。
中国政府の‘計画’では、コロナ禍によって暴落した海外企業の株式を安値で買占め、経済覇権へのステップとしようとしたのかもしれませんが、事態が逆転してしまう展開もあり得ます。オセロ・ゲーム(リバーシ)に例えれば、黒の石が一瞬にして白の石に替わってしまうかのように…。上海市場といった中国証券市場での連鎖的な株価暴落も予測され、仮にこうした事態に陥れば、中国における倒産件数が激増すると共に、中国企業が外資に根こそぎ買い取られるかもしれません(もっとも、証券市場の閉鎖や政府による株式買取など、中国政府が強権を以って対応する可能性も…)。その一方で、米資本が中国から国内に回帰するとなれば、乱調気味のニューヨーク証券株式市場も一息つくことができるでしょうし、還流資金がアメリカの国内生産への投資に向かえば、むしろアメリカ経済のV字回復も夢ではなくなります。
状況を見渡せば、中国は、他国に先んじたV字回復を狙うよりも、自国経済の崩壊を真剣に憂慮すべき局面に置かれているように思えます。そして、この問題は米中二国間に留まらず、当然に同盟国である日本国にも多大なる影響を与えることでしょう。GPIFについても、外資系金融機関に運営を委託していることから、間接的に中国株を運用している可能性もあるのですが、日本国政府も、コロナ禍の被害国、そして、アメリカの同盟国として、金融面での対中投資を見直すべき時なのではないかと思うのです。