新型コロナウイルス禍によるマイナス影響が経済のみならず、社会全体にも広がる中、同ウイルスの発生源をめぐる論争もヒートアップしています。主たる対立軸はアメリカが主張する武漢研究所起源説と中国が唱える武漢海鮮市場起源説にあるのですが、第三の説として中国外交部の趙立堅副報道局長が仄めかした米軍起源説も燻っています。
中国の武漢に設置されていた諸ウイルス研究所のレベルや過去の研究内容など(レベル4のウイルス研究所もあり、有毒ウイルスの遺伝子操作も行われていた…)、同ウイルスを取り巻く状況証拠からしますと、武漢研究所起源説が最も有力な説です。実際に、中国で実施された民間世論調査でさえ凡そ7割が同説を支持しており、同様の設問があれば、日本国を含む他の諸国の世論調査でも、国民の大多数が武漢研究所起源説を支持することでしょう。
とは申しますものの、状況証拠では限りなく‘黒’であっても、決め手となる証拠がなければ有罪に追い込むことができません。‘疑わしきは罰せず’となり、事件は迷宮入りともなりかねないのです。この点、今日の状況は、中国側に有利とも言えます。何故ならば、アメリカ側に決定的な証拠を握らせないようにすれば、自らの無罪を証明するに至らずとも、公的機関による意図的散布、あるいは、過失に因る漏洩の責任を負わなくとも済むからです。中国は、初期段階での行為怠慢の責任からは逃れられないものの(アメリカは、既に動かぬ証拠のあるパンデミック化責任を責めるべきかもしれない…)、少なくともウイルス研究所からの流出でなければ、罪は一段軽くなると期待しているのでしょう。
しかも、嫌疑をかけられているウイルス研究所は中国の管理下にあります。同研究所爆破説が信憑性をもって流布されたように、半年もあれば、研究所内に残されていたあらゆる証拠を隠滅したり、責任者や研究員に口裏を合わせるように圧力をかける、あるいは、‘処分’してしまうこともできます。こうした中国側の不審な隠蔽工作こそ武漢研究所起源説の補強材料となるのですが、初期段階おいて中国側が、アメリカからの同研究所への調査団受け入れ要求、並びに、WHOの派遣団による現地調査を拒んだのは紛れもない事実です。
それでは、ウイルスの起源をめぐる論争は、米中間の水掛け論に終わってしまうのでしょうか。同ウイルス禍の真相究明は、全ての諸国が当事者となる国際社会の重大事件です。真相が藪の中のままともなれば、米中のみならず何れの国も納得しないことでしょう。否、国際社会には同事件を解決する責任があるとも言えますので、こうした局面においてこそ、国際協力が求められるともいえましょう。そして、ここで注目されるのは、オーストラリアによる武漢の研究所に対する国際調査団の派遣案、並びに、WHOによる武漢生鮮市場の調査要求です。
前者については、現状ではオーストラリア政府一国による提案ですが、中立的、かつ、独立的な調査団を派遣すべきとする声は、同国に限ったわけではないそうです。否、コロナ禍に見舞われた凡そ全ての人類が望んでいる解決手続き上のステップと言っても過言ではありません。全世界の人々には、自らに関わる重大事件の真実を知る権利があるのですから。今のところ、中国は、オーストラリアの調査団受け入れ要求を拒絶しておりますが、同国一国ではなく、有志の諸国、あるいは、国連安保理や総会等にあって調査団派遣の提案がなされれば、中国と雖も無視を決め込むわけにはいかなくなるはずです(受け入れ拒絶は、自らの疑惑を立証するようなもの…)。なお、国際世論の圧力にも期待したいところなでなのですが、マスメディアにはチャイナマネーの影響もありますので効果の程には不安があります。
その一方で、WHOの専門家であるピーター・ベン・エンバレク博士が、武漢生鮮市場に対する追加調査の必要性について言及したと報じられています。仮に、同博士の発言がテドロス事務局長の意向を受けてのものであれば、追加調査の実施組織は中国政府となり、真相解明は望み薄です。おそらく、中国に対して‘カバー・ストーリー’を実現させる時間とチャンスを与えるに過ぎなくなることでしょう。一方で、科学的見地からの真相究明を目的としたものであり、かつ、調査団の中立性と独立性が保障されるとすれば、同調査は、起源論争に決着をつける可能性があります。同博士は、調査の結果、「発生源だったのか、感染が拡大した場所だったのか、それともたまたま一部の症例が市場や周辺で確認されたのか」が判明すると期待していますが、これらの三つの疑問は、冒頭で述べた三つの説と凡そ対応するからです。
同市場で取引されていたとされるコウモリ等の野生動物から同種のウイルスが検出されれば、武漢生鮮市場起源説を裏付ける証拠となりましょうし、その一方で、同市場では宿り主となる野生動物は見つからず、‘感染が拡大した場所’であることが判明すれば、同ウイルスは、武漢のウイルス研究所を含む外部から生鮮市場に意図的に持ち込まれた可能性が格段に高まります。そして、‘たまたま一部の症状が市場や周辺で確認された場所’であれば、武漢研究所起源説に加えて、米軍起源説を含む他の諸国で既に発生していたウイルス性肺炎が、偶然、武漢で発見されたとする説を補強することとなりましょう。もっとも厳正なる調査の過程にあって、海外から持ち込まれた有毒ウイルスに武漢のウイルス研究所が遺伝子改変を施し(コロナ前にあって中国人研究者によるウイルス窃盗事件が頻発していた…)、武漢市内に流出させたという、三つの説を組み合わせたような予想外の新説が登場してくる可能性もないわけではありません。
以上に述べたことから、新型コロナウイルス禍の真相を明らかにするためには、武漢のウイルス研究所と武漢海鮮市場の両者の捜査や調査が不可欠のように思われます。前者の研究所にあって既に証拠が隠滅されていたとしても、今日の科学技術を以てすれば、復元できる証拠もあるはずです。日本国政府を含め、各国政府は、国際協力の下で中国に対して調査団の受け入れを強く要求してゆく必要がありましょう。ただし、その実施機関のスタンスによっては‘政治的な結論’に科学を装った‘もっともらしい根拠、’すなわち‘カバー・ストーリー’を与えてしまうリスクもありますので、全世界が真相を知るためには、これらの調査には極めてハイレベルの透明性が必要とされましょう。中国にとりましても、両者の調査は自国に対する嫌疑を晴らすチャンスともなるのですから、中国政府が同要求を受け入れるのかどうか、その態度が注目されるところなのです。