万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

免疫証明書は感染証明書になる?

2020年05月14日 12時01分30秒 | 社会

 報道によりますと、WHOにあって緊急事態対応を統括しているマイケル・ライアン氏は、新型コロナウイルスが感染者の体内において消滅しない可能性について言及したそうです。おそらく、治療を受けて完治したように見えるケースであっても、‘チフスのメアリー’のようにウイルスが体内に潜んでいる可能性を指摘したのでしょう。

 ライアン氏は、敢えて類例としてHIV(ヒト免疫不全ウイルス)を挙げておりますので、新型コロナウイルスには、人の免疫システムを害する作用があることが、既に確認されているのかもしれません(本当に自然な変異なのでしょうか…)。この点、通常の風邪やインフルエンザ、そして、チフス菌よりも遥かに恐ろしい存在なのですが、仮に、同ウイルスがHIVに類似する性質を持っているとしますと、抗体・抗原の両面の検査において一時的にはパスしたとしても、その後も、自らが再発、あるいは、再感染するリスクがありますし、他者への感染力をも有していることとなります。実際に、同説が強く疑われる事例が多々報告されていますし、料理人として働いていた‘チフスのメアリー’は、自らは無症状であっても、その生涯において凡そ30人の人々を感染させたそうです。

 新型コロナウイルスの潜伏性を考慮しますと、免疫証明書システム(免疫パスポート)も見直しを要するかもしれません。現在、世界の多くの国々でその導入が検討されております同システムにおける証明書の発行には、経済・社会活動への参加資格を証明する役割が期待されています。‘パスポート’とも称されますように、同証明書を提示すれば、如何なる職にも就けますし、様々な社会活動にも加わることができるのです。病院で治療を受けた感染者のみならず、無自覚、あるいは、発症せずに軽度で回復した人も含め、抗体が体内に存在さえしていれば、証明書が発行されるのです。このコンセプトが基礎となってワクチンの開発が急がれている面もあるのですが、仮に、体内に抗体を産生し得たとしても、ウイルス自身が体内のどこかで潜伏しているのであれば、証明書の役割を果たすことはできなくなるからです。

 そして、免疫証明の保持者自身の再発や再感染のみならず、仮に他者への強度の感染力が認められるとしますと、免疫証明書の意味合いは180度逆転します。免疫証明書は経済・社会への参加資格を証明しましたが、潜在的な感染力が高い場合には、その逆に、隔離的、あるいは、制限的な措置を要する人々であることの証となってしまうからです。‘免疫証明書’は、‘感染証明書’になりかねないのです(回復者に対してどのように対応してゆくのかは、公衆衛生と人権保護との兼ね合いもあり、今後とも難しい課題に…)。

 もちろん、過去の事例が示しますように、WHOの見解が常に絶対に正しいわけでありませんし、同ウイルスの有毒性に関する全容が解明されるには、今後の研究や調査の結果を待つしかありません。しかしながら、少なくとも、同ウイルスの性質を正確に把握しないうちに、短絡的に新たな政策や制度を導入するのはあまりにも危険である、とは言えましょう。スウェーデンでは、集団免疫の獲得を政策方針として国民に自然感染を促したそうですが、仮に、同ウイルスが体内から消えないのであれば、悲惨な結末を迎えてしまいます。免疫証明システムについても、その意味あいは当初の期待とは正反対となる可能性があるのですから(ワクチン開発も同様…)、拙速な導入は避けるべきではないかと思うのです。

コメント (6)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする