万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

習主席訪日は断念を

2020年05月23日 12時57分39秒 | 国際政治

 昨日、我が耳を疑うようなニュースが報じられました。それは、菅官房長官による政府発信の情報なのですが、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて中止された習近平国家主席の国賓待遇での訪日が政治日程に再浮上してきたというのです。

 中国側の狙いは明白であり、パンデミック化の責任を問われて国際社会において日に日に厳しさを増す対中批判を緩和すると共に、米中対立の最中にあって日米離反を促すことなのでしょう。中国にとりましての習主席の訪日は、日本国を踏み台にして国際社会に‘復帰’し、かつ、全体主義陣営に日本国を引き摺り込む一石二鳥、否、三鳥にも四鳥にもなり得る一手なのです。いわば天安門事件後の天皇訪中の逆パターンであり、上記の訪日日程の再調整は中国側からの打診なのでしょうから、何としても実現したいのは、習近平国家主席その人なのでしょう。

 その一方で、日本国側の習主席に対する感情は冷ややかどころか、怨嗟の的と言っても過言ではありません。今日、日本国民の多くはコロナ禍の最大の責任国は中国と見なしていますし、先立って日本国政府が中国からの渡航の全面禁止に二の足を踏んでいた理由も、習主席の訪日に配慮したためと指摘されているからです。日本国内には習主席を国賓として歓迎するムードなどどこにもなく、両国政府が訪日の前提条件としたような‘環境’など、整うはずもないのです。中国は、しばしば‘日本国は中国国民の国民感情に配慮せよ’と日本国側に要求してきましたが、今般のコロナ禍に際しては、中国が日本国民の国民感情に配慮すれば、国賓待遇による訪日など口が裂けても言い出せないはずなのです。

もっとも、日本国も一枚岩ではなく、習主席の訪日をめぐっては、日本国政府と国民との間に著しい温度差が見受けられます。昨今、検察庁法の改正にあっても、その主導者として菅官房長官の名が挙がっていましたが、同官房長官、自民党の二階幹事長、並びに、公明党の間には中国を介したラインが見え隠れしているように思えるのです。そして、これらの勢力は、日本国を中国型の全体主義モデルへと移行させるべく、国民にはそれとは気が付かせぬように、水面下にあって様々な‘改革’や公的な行事を画策しているようにも見えるのです。検察庁法の改正の意図も、権力分立体制から集権体制への転換にあったのではないでしょうか。

日本国政府も一枚岩ではなく、少数の親中派による国権の浸食が進んできたのかもしれません。今般の菅官房長官による習主席訪日再浮上のアナウンスも、あるいは、同官房長官を操る背後勢力の意向を受けたものであるのかもしれないのです。そして、日本国政府が親中勢力のコントロールの下に置かれている現状は、日本国民にとりましては民主主義の重大な危機とも言えましょう。全人口の数%に過ぎない少数の親中派が、日本国全体を支配することを意味するのですから。

ようやく開催された全人代では、習近平国家主席並びに李克強首相といったトップクラスのみがマスクを付けず、他の参列者は皆マスクを装着していたそうです。マスクの役割が他者への感染を防ぐことにあるとしますと、この奇妙な全人代の光景は、中国という国の体質を象徴しているとも言えます。何故ならば、国家のトップは他者を感染させることが許されても、他の全ての人々にはその逆が決して許されないことを意味するからです。一事が万事であり、中国の華夷秩序からすれば、‘上位’の中国が‘下位’の日本国を感染させても無問題である一方で、‘下位’の日本国が‘上位’の中国に感染させることは絶対にあってはならない、ということにもなりかねません(情報隠蔽体質を考えれば、中国の感染封じ込めも疑わしい…)。仮に日本国の空港に習主席が降り立つとしても、その顔にはマスクはないはずです(習氏に随行するであろう中国政府の大規模な代表団には、陽性者が含まれている可能性がある一方で、五星紅旗を振って‘お迎えする側’となる日本国には、全員マスク着用などの最高レベルの感染防止策が求められるはず…)。

海外諸国では中国の内政干渉に対する警戒感が高まっておりますが、特に、地理的に距離が近く、地政学的にも重要な位置にある日本国を中国が放っておくはずはありません。習主席の訪日が実現すれば、200万人を越えるとされる在日中国人が動員されて‘熱烈歓迎’が演出され、‘国を挙げて大歓迎する日本国’として、海外にも発信されるかもしれないのです。日本国民は、国内の政治の動き、即ち、内政干渉の兆候にもより敏感になると共に、自国の民主主義体制を護るためにも、何としても習主席の訪日を拒むべきではないかと思うのです。


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