今般の新型コロナウイルス禍にあって、発祥地である中国以外の国で最初に大規模な感染拡大が起きたのは、地球の凡そ裏側に当たるイタリアでした。中国から遠く離れたイタリアにおいて死亡者3万人を越える惨事に至った理由は、しばしばイタリアと中国との間の密接な関係に求められています。他のG7やEU諸国が二の足を踏む中、中国の習近平国家主席が提唱してきた一帯一路構想に関して最初に協力の覚書を締結したが、イタリアであったからです。
それでは、イタリアは、何故、かくも危険な中国接近を選択したのでしょうか。イタリアと中国との関係は、おそらくヴェネチアとモンゴル帝国との関係に遡ることができるかもしれません。ヴェネチアと言えば‘水の都’とも称され、今日ではイタリア屈指の観光地として知られていますが、19世紀のイタリア王国を軸として統一されるまで独立した共和国として栄えてきました。地中海貿易をはじめ全世界に通商網を広げ、十字軍遠征に際して兵站を担った政商国家でもあり、続く13世紀には、ユーラシア大陸の覇者となったモンゴル帝国から特別な商業利権を得ています。シェークスピアが描いた利益のためには人の命を何とも思わないユダヤ商人の姿は、当時、異教徒とも手を組み、モンゴル軍による捕虜の奴隷売買をも請け負っていたヴェネチア商人の狡猾で強欲なイメージを重ねているのかもしれません。
中国が一帯一路構想という名の‘現代のモンゴル帝国’の建設に乗り出している今日、真っ先に中国との関係に名乗りを上げたイタリアに、過去の歴史における両国の関係を思い起こさせるのですが、中世にあってヨーロッパの人口を激減させたペスト禍も、モンゴル軍の来襲がきかっけともなりました。今日の様子は、あたかも現代と過去が二重写しになっているかのようなのです。そして、イタリアと中国との関係強化を進めた時期にあって、連立とはいえ政権与党の座にあった政党が、五つ星運動であった点を考慮しますと、この五つ星、中国の国旗デザインである五星紅旗に因んでいるのではないかとする疑いも生じてくるのです。
イタリアの五つ星運動の5つの星は、「水、エネルギー、開発、交通、環境」を表す一方で、中国の五星紅旗は、大きな星が共産党であり、その周りに配された小さな4つの星は、労働者、農民、小資産階級・愛国的資本家、知識人の4つの階層を表現しているそうです。両者のデザイン上のコンセプトは全く異なるのですが、両者の間にはどこか親和性が見受けられるように思えます。
2018年3月の総選挙で躍進し、結党から10年も経ずして政権与党となった五つ星運動は、日本国内では‘ポピュリスト政党’として紹介されており、ポピュリスト=極右、あるいは、連立相手の同盟のイメージに引き摺られて右派に属する政党と見なされがちです。しかしながら、2018年3月にジュセッペ・コンテ氏を首相として成立したいわゆる‘ポピュリスト政権’は、右派の連合と左派の五つ星運動との間の奇妙な連立政権であり、五つ星運動は、反資本主義や反政党政治等を党是とする‘左派のポピュリスト’なのです。左右両極とも結局は全体主義という側面においては共通していると言えましょう。このように考えますと、イタリアにおいて、突如として政治の表舞台に躍り出た五つ星運動の背景こそ、調べてみるべきかもしれません。
イタリアの事例が示すように、自由主義国にあって‘ポピュリスト’と称される政党は、右派であれ左派であれ、むしろ共産主義との間に高い親和性を示しているように思えます。中国の一帯一路構想への協力も、‘ポピュリスト’が必ずしも自国の独立性や自国民の安全を第一には考えてはいない証なのかもしれません。ナチスもまた、結果だけを見れば、国民を奈落の底に突き落としています。そして、政権与党の自民党と公明党の両政党が共に親中に傾く日本国にあっても、保守の仮面を被った全体主義化のリスクには大いに警戒すべきなのではないかと思うのです。東方にあって元寇の再来とならないように。