

高橋由一 《不忍池》
「日本で洋画、どこまで洋画?」。こんなタイトルにひかれ、名古屋の愛知県美術館のコレクション企画展に出かけてきました。会期は12月18日(日)まで。
明治中期に日本画に対するように生まれた油彩や水彩で描く「洋画」。先駆けである高橋由一を皮切りに、日本の独自性を追求する一方で、既成画壇の反発や戦争の壁、自由と平和の中で芽生えたジャンルを超えた表現、そして奈良美智ら現代アートへと続く洋画の変遷を、同館のコレクションから選んだ約90点の作品とコメントでたどっています。
油彩技法をいち早く取り入れ、わが国最初の洋画家とされる高橋。以前、水彩画教室の仲間と東京芸大美術館を訪ね、代表作である「鮭」と「花魁」を見ましたが、今回は東京芸大そばの不忍の池を描いた風景画を見ることができました。
「グレーの洗濯場」で知られる浅井忠や黒田清輝らが続きます。彼らに立ちはだかったのは、絵画の既成概念でした。コメントによれば、評論には洋画に対して「植民地芸術」「無秩序」「無定見」などといった言葉が躍り、黒田の裸婦像には「醜怪である。社会の風俗に影響を及ぼす」との批判が浴びせられたそうです。
しかし、ヨーロッパから入ってきた油彩画、水彩画の「洋画」は、日本の独自性を出すなどで次第に浸透していきましたが、今度は戦争の壁。「裸体や享楽的な絵は好ましくない」と非難される一方で「戦争を写実的に書けば、国威発揚につながる」と戦争画を描かされる立場に。今回展では鬼頭鍋三郎の「機銃分隊習作」が展示されています。
戦後。自由と平和を謳歌するように洋画の世界も、大きく変化しました。
「紙本着色」といった日本画の手法が洋画にも出現。カンバスも四角形でなく変形カンバスが現れました。題名も無題とかアルファベットが並びます。
使用される絵具も、油彩や水彩絵の具だけではありません。展覧会場で洋画部門を見て回ると、アクリル、クレパス、木炭、ボールペン、砂、小石、鉄粉、板切れ、ブリキ・・・。100円ショップにあるようなキラキラした飾りだって目にします。
公募展の募集要項にもサイズや額装の決まりはあっても、絵の具などの制限はありませんから、ジャンルを横断した表現方法はさらに進むでしょう。
こうした流れを、地元・愛知県出身の日本画家で「異端の画家」「反骨の画家」と呼ばれた中村正義らの作品でたどり、最後は自由で軽快な創作へと進んだ結果として、現代アートの世界を奈良美智らの作品で締めくくっています。
「どこまで洋画?」。まさに、その通りですが、この先はどうなるのでしょう。以前、大きな公募展の会場で耳にした年配夫婦の会話がよみがえります。
「洋画と日本画の違いってどういうこと?」
「そりゃあ、ヨーロッパの景色や人をなんかを描いてあるのが洋画、日本の景色なのが日本画だろう」
ジョークでしょうが、僕もしばらく前に、展覧会場を回っていて部屋の表示を見ずに隣の部屋に移り、何点か見るまで展示部門が変わったことに気づかなかったこともあります。
先日、現役時代の仲間が集う会合で、僕と同様にお絵かきを趣味にしている元同僚が言いました。「IT技術で加工までして出展しているのを知って、この世界はどうなってしまうのだろうと面喰ったよ」と。
この夏の現代アート展「あいちトリエンナーレ」の会場巡りでも、さまざまな表現に接して感じたことですが、いずれ「洋画」という言葉そのものが「死語」になるのではないか、とさえ思います。
洋画と対になっていた日本画だって、あやしいものです。
岩絵の具、膠(にかわ)、紙本、絹本、墨、胡粉などといった従来の日本画が、揺らいでいるではないでしょうか。直接板に描いたり、石膏や砂、板切れなどでマチエールされた作品を目にすると、首をかしげたくなります。
先日、院展の展覧会場であったトークショーで田渕俊夫理事長が口にされた「日本画とは何かを考え、追求して欲しい」という言葉は印象的でした。

安井曽太郎 《承徳喇嘛廟》
林武 《夫人像》 小林孝亘 《Stairs》
(

北川民次 《砂の工場》

小出楢重 《蔬菜静物》