報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「年末に向けて」

2015-12-26 10:27:31 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[12月18日22:00.天候:不明 魔界高速電鉄特別列車内 イリーナ・レヴィア・ブリジッド、稲生勇太、マリアンナ・スカーレット]

 列車は単調な走行リズムを立てて、亜空間トンネル内を走行している。
 時折、先頭の電気機関車から汽笛の音が聞こえてきたり、ポイントを通過する時にガタガタガタと走行リズム音が変わるくらいだ。
 天井に2列並んでいる、丸いカバーに入った照明は煌々と灯っていた。
 スハ43系は、それまで1列しか無かった照明を2列にした初の客車であるという。
 初登場した昭和27年〜28年くらいの時はまだ白熱電球であったが、1960年代からはサークライン形の蛍光灯に交換された。
 ここの照明がそうなのだから、恐らくその頃の車両なのだろう。
 イリーナは稲生達の座席とは別に、すぐ後ろの座席に移動してブラインドを下ろし、ローブのフードを被って“仮眠”していたが、ふと目が覚めた。
 ローブの中から懐中時計を出して、現在時刻を確認する。
(こりゃ、もうしばらく掛かりそうだねぃ……)
 そう思い、席を立ってデッキに向かった。
 何か静かだなと思いきや、すぐ前のボックスシートに向かい合って座る弟子2人、マリアと稲生もまた居眠りをしていた。
 2人とも斜向かい合わせに座っており、進行方向向き窓側に座るマリアは前にもたれ掛るようにしている。
 斜め向かいの席に座る稲生は、スハ43系の普通車座席には特徴的な、通路側席に設けられたヘッドレストに頭をもたれさせて寝ていた。
 このヘッドレストは乗客に大好評で、スハ43系の後継車であるナハ10系客車では窓側席にも設けられたという。
 後年の急行系気動車、電車では窓側席のヘッドレストは廃止されたが、通路側のそれは真ん中をくり抜いて、立ち席客の手すりに応用された。
 それは基本的に急行列車には使用しない113系や115系電車まで受け継がれている。
 イリーナはデッキのトイレ・洗面所に向かいながら、
(あのマリアがフードも被らず、男の子の前で居眠りするなんてねぇ……。さすがはユウタ君だわ)
 マリアの変化に気づき、新しい弟子を褒めていた。

[12月19日00:05 JR大糸線内→白馬駅 上記3名]

 列車は亜空間トンネルを出ると、再び暗い線路の上を走っていた。
 だが、それまで聞こえなかった踏切を通過する音とかが聞こえてきて、列車が今、JRの線路の上を間借りして走行しているのだと分かった。
 冥界鉄道公社は、亜空間トンネル内や地獄界などでは独自の線路を敷設して走行する第1種鉄道事業者だが、人間界や魔界では他の鉄道路線に乗り入れて走行する第2種鉄道事業者となる。
 ここではJR線に、列車だけでなく乗務員ごと乗り入れて運転しているので第2種となる。
「えー、長らくのご乗車お疲れさまでした。まもなく白馬駅に到着しますので、お降りの支度をしてお待ちください」
「はい」
 車掌が稲生達の所へやってきた。
 スハ43系にはマイクの設備が無いため、車掌が巡回してキップを切りながら、次駅停車案内をする方式だ。
 稲生達が荷物の準備をしながら、降りる支度をしていると、列車が速度を落とし始めた。
「でも、こんな時間にこういう列車が到着したら、駅員さん達、びっくりしません?」
 と、稲生はイリーナに言った。
「大丈夫よ。向こうの職員達も知ってるから」
「はー、そうですか」

 列車が白馬駅3番線ホームに到着する。
「足元にご注意ください。雪が積もってますから
 車掌が手動ドアを開けながら言った。
「はい。……雪!?」
「そうだよ。人間界じゃ、もう年末だからねぇ……」
 稲生は渡された見習用のローブを羽織っていた。
 稲生はあまり着用しないが、さすがに今回は着用した。
 何しろ、今回“魔の者”騒動に巻き込まれた時、まだ9月だったからだ。
 魔界は常春であるため(12月でも沖縄本島くらいの気候)、やっぱり厚着の必要性は無い。
 で、人間界に帰ってきたらこれだ。
 幸い魔道師のローブは見習用であっても、しっかり防寒の役割を果たしてくれる。
 足元は寒いが。
「迎えを頼んでいるから、早く行こう」
「はい」
 列車を見送りたかった稲生だったが、1秒ごとに足の体温が失われていく感じがしたので、それどころでは無かった。
 何しろ、駅前ロータリーで除雪車らしき重機が動いている感じであったからだ。
「今年は雪が少ないという話でしたが……」
 稲生は駅の階段を登りながら、イリーナに振った。
「これも、“魔の者”の嫌がらせかねぇ……」
 イリーナは目を細めながら苦笑い。
「これが本来のこの村の気候だと思いますが」
 1番後ろを歩くマリアが冷静に答えた。

 駅前に止まっていた迎えの車も、チェーンを巻いていた。
 ベンツSクラスであるところを見ると、どうやらイリーナが自分で呼んだらしい。
 それに乗り込んで、マリアの屋敷に着く頃には0時半を過ぎていた。

[同日09:00.マリアの屋敷 上記3名]

「おはようございます……」
 稲生は、自分が寝泊まりしている東側からダイニングのある西側へ移動してきた。
 今日はさすがに昨日(というか、もう日付が変わっていたが)のこともあって、朝はゆっくりであった。
「あー、おはよ。早いとこ、朝食食べちゃって」
 と、イリーナ。
「あ、はい。今日は何か?」
「ダンテ先生から手紙が来ていてね……」
 イリーナは白い封筒を出した。
 中身はラテン語で書かれている。
「今夜、マリアの再登用の儀式を行うってさ」
「それは急ですね!」
「ダンテ先生としても、もっと早くやりたかったみたいよ。だけど、“魔の者”騒動のせいでねぇ……。あ、そうそう。東京方面へ行く準備をしといてくれない?」
「東京方面?」
「そう。マリアには今夜、再登用の儀式を行うけど、お披露目は東京でするから」
「? はあ……」
「後で詳しい話はするから」
「わ、分かりました」
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小説の途中ですが、ここで本日の動静をお伝えします。1225

2015-12-25 19:13:01 | 日記
 えー、今日はクリスマスですが、皆さん、いかがお過ごしでしょうか?
 元気にギシギシアンアンやってる?それとも、あなたはボッチ派?

 さて、久しぶりに今日はクリスマスケーキを食べる機会を得、ささやかな功徳の朝を迎えた後、私は業務に勤しむこととなりました。
 1人でケーキを買って食べるボッチ派ではなく、元々食べない派です。
 実は私の勤務する高層ビルには、2つの警備会社が日夜警備に当たっている。
 そのうちの1つは言わずもがな、私の所属する警備会社。
 主に、防災センター関係の業務を行っている。
 もう1つはテナント企業に雇われ、テナント専有部に関する警備を行っている警備会社だ。
 先方警備も大規模な警備会社であり、新卒採用の若い警備員も所属している。
 中には気の良い者もいて、何とお菓子作りが趣味だというのだ。
 お菓子作りもお菓子作り。
 自分でケーキまで作って食べてしまうというのだから驚きだ。
 で、うちの班長がそのお菓子作りが趣味の若い子(でも男です)とお菓子の話題が合う(スイーツ男子……というほどきれいな人じゃないっスよ?)こともあってか、何と今朝、手作りのショートケーキとショコラケーキを差し入れてくれた。
 それも、どちらもホールである。
 趣味で作っていて、作り過ぎたからという理由で持ってきたらしいが、いやいやホールケーキを作り過ぎるなんて、どんだけだよと思った。
 が、私は早速、泊まり明け番で、朝飯代わりに頂戴することにした。
 趣味で作っているということもあってか、確かにプロが作る店で並んでいるものと比べれば、見た目に素人臭さがあるのはご愛嬌だ。
 だが食べてみると、少なくともコンビニのケーキよりかなり美味かったぞ。
 少食の私は6分の1カットでもお腹一杯になるくらいなのに、4分の1も頂いてしまった。
 私はショートケーキを頂いて、これも場合によってはそんなに食べれないのだが(すぐに腹が飽満感になってしまう)、ハーフ行けるんじゃね?と思ったくらいだ。
 趣味で作っている割には、少食の私の食欲を搔き立てるとは……なかなかやりおる。
 もちろん、店で売ってるケーキではないので、サンタクロースが乗っかってるわけではなかったが。
 ショコラも試してみたかったが、あいにく私はこれから行かなければならない場所があったので断腸の思いであった。

 実は今日、おかげさまで先日合格を勝ち取った施設警備業務検定2級の資格証発行の手続きに向かったのである。
 この警備業務検定、合格した後も大変だ。
 何故なら、公安委員会に提出する書類が1枚や2枚ではない。
 まず用意するのは、警備員特別講習事業センターという社団法人から発行された成績証明書。
 まあ、これが検定に合格したという証明書なわけだ。
 これと履歴書、警備業法で定められた欠格事由(警備員になれない条件に引っ掛かっているか)に該当していないことの誓約書、産業医の所に行って診断書(アル中になっていないとか、薬物中毒になっていないとか……って、オイ!)を取ってきたり、法務局に行って(被後見人とか被保佐人とかに)登記されていないことの証明書を取ってきたり、本籍地の最寄りの役所(私の場合は仙台市若林区役所)から身元証明書を取って来たり、とにかく大変なのである。

 てなわけで、私の本日のルート。

 東京駅→(JR山手線)→秋葉原→(都営バス秋26系統)→久松町バス停/浜町駅(産業医の最寄り)→(都営新宿線)→九段下(東京法務局最寄り)→(都営新宿線)→新宿→(JR埼京線)→与野本町(さいたま市中央区役所最寄り。ここで提出書類の1つ、住民票の写しを発行してもらう。本籍地付きでないとダメ)→(JR埼京線)→北与野→(国際興業バス新都01系統)→浦和西警察署入口(浦和西警察署の生活安全課に揃えた書類を全て提出し、審査してもらう。書類に不備が無いかどうか。私は幸い一発OKだった)→(国際興業バス新都01系統)→八幡通り(現住所の最寄りバス停の1つ)

 私みたいに趣味入ってる乗り鉄・乗りバスならまだしも、全くそんな趣味の無い人にとっては苦行のロードに近いかもしれない。
 もちろんこれは、私が車を持っていないだけの話だ。
 都内はともかく、さいたま市内においては駐車場があるので、車で移動すれば楽だっただろう。
 私は車を持っていないので、半分趣味のロードを通ったわけである。
 これじゃ、地元の電車やバスにも詳しくなるよ。
 そういえば秋葉原駅前のバスプール、ヨドバシAKIBAの向かい側の方だが、バスを待っていると、地元の爺さんと思しき老人が、同じくバスを待っている婆さんに、その都営バスについての講釈をしていたな。
 その婆さんも地元の人と見られるが、年寄り達にとっては、良い交流の場なのだろう。
 趣味のバスのことなので、私も話に参加したかった気がしたが、遊びで回っているわけではなかったので、ここは黙ってておくことにした。
 さすがに都営バスの、前から乗って後ろから降りる方式にも、いい加減慣れたな。
 来年からは、本格的に通勤ルートとして都営バスを利用することになるので、浜町駅でバスの定期を買っておいた。
 初めてPasmoを買ったのだが、都営バスの定期って、券面に何も書いてないのね。
 何だか、味気ないな。
 “みんくる”のイラストでも出てくれば、笑みの1つでもこぼれるものだが……。

 こうやって私は電車やバスには好きで乗っているから、乗り物酔いなんて1度もしたことがない。
 乗り物に弱い人からはよく秘訣を聞かれたりすることもあるのだが、1番の方法は『楽しんで乗る』くらいしか無いかな。
 実は鉄ヲタのくせに乗り物に弱いという、『河童の川流れ』みたいな例外野郎も存在するので、心配しなくていいよ。
 私の短大の同級生にいたのだが、当時、バリバリの顕正会員だった私は、私の紹介者や更には上長達をも巻き込んでそいつを取り囲み、
「試しでいいから仏法をやりなさい。さすれば乗り物酔いはすぐに治る」
「このままだと罰で電車にも乗れない体質になってしまいますよ」
「キミは冥鉄から乗り物酔いで転落し、堕獄してしまうのだ」
「その天然パーマは前世からの罪障です!」
 なんて、言いたい放題言ってたなぁ……。
 で、結果は【お察しください】。
 いやいや、私も当時は若かった。
 今なら、タイーホものだっただろうなぁ……。
 時効とっくに過ぎていて良かった。

 何でこんな話をするのかって?
 うん、その天然パーマ乗り物酔い鉄ヲタ野郎を我々顕正会員で取り囲んだのが今日、クリスマスの日だったから。
 根底にはそいつを入信させて、広布御供養の追加分を取る気満々だったんだろう。
 普段は動かない隊長が自ら動いて来たくらいだ。
 何しろ当時から、広布御供養の集まりがあまり良くなかったみたいだ。
 締め切りを過ぎていても、まだ集金していたという話を聞いたことがある。

 因みに乗り物酔いだが、仏法……というか、唱題で乗り切ることは可能だと思う。
 ただそれは唱題に夢中になることにより、乗り物酔いを引き起こす『何か』の作用を抑えるだけだと思うので、それが宗門でも顕正会でもいいというのが欠点であるが……。
 私はやったことが無いが、多分そういうことだと思う。

 とにかく、今年も仕事関係に明け暮れ、女っ気の全く無かったクリスマス2日間であったことは事実だった。
 まあ、こういう生き方もありだろう。
 自分の為のクリスマス。こういうのがあってもいいんじゃないの?
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“大魔道師の弟子” 「私設地獄」

2015-12-25 15:40:14 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[12月18日16:00.天候:不明 冥鉄特別列車内 稲生勇太、マリアンナ・スカーレット、イリーナ・レヴィア・ブリジッド]

 亜空間トンネルを抜け、再び車窓に広がったのは地獄界のような光景だった。
 しかし、それまで地獄界の一部を駆け抜けてきたため、またもや地獄界の風景が広がることなどおかしいとイリーナは言った。
「失礼します!」
 そこへ車掌が車内に飛び込んで来た。
「どういうことなの、これは?」
「申し訳ありません!どうやら、異線進入のようです!」
 車掌は元から青白い顔を、更に蒼くしていた。
「イセンシンニュウ?何だそれは?」
 マリアが訝し気に聞いた。
「日本語にすると、意味が2つになるので紛らわしいんですが……」
 と、稲生。
 そこで、英語に直してみる。
 2つの意味を持つ異線進入のうち、1つは英語でMisguiding(ミスガイディング)という。
 分岐器(ポイント)のクロッシング(交差)部分において、車輪が本来の進行方向とは違った方向に進んでしまうことである。
 当然そうなると脱線するので、非常に危険な状態である。
 通常はそれを防止する為に、相対側のレールの内側には必ずガードレールが設置される。
 路面電車にはそれが無いため、昔はよく異線進入が起きていたという(但し、路面電車の速度は遅いので、脱線というよりも脱輪する事例の方が多かった)。
 もう1つの意味はRunning into wrong trackのことで、運転士が信号の現示をしっかりと確認しなかったために、列車が本来進むはずだった線路とは異なった線路へ進入することである。
 例えば1番線の待避線に入るはずだった列車が、信号がまだ切り換わっていないのに気が付かず、2番線の主本線に入ってしまうこと。
 上野東京ラインの下り線を走って来た宇都宮線電車が、本来は大宮駅9番線に入らなくてはならないのに、8番線の高崎線ホームに入ってしまったり、7番線の高崎線上り副線ホームに入ってしまうようなものである。
 ここでは後者の意味の方が近いという感じがしないでもないが、何だかしっくりこない。
「申し訳ありませんが、もう1つの意味です」
「は?」
「それは、経路自体を間違えたことです」
「は?え?」
「とにかく推進運転で戻れるか、このまま行って復帰するか、検討してきます。このまま、車内でお待ちください」
 車掌はそう言うと、急いで先頭の機関車の所まで走って行った。
「路線自体を間違えた!?」
 稲生は呆気に取られた。
「だって、信号機やダイヤに沿って走っていたんでしょう?」
「“魔の者”の罠かもしれないね。とにかく、何が起きても対応できるようにして」
「は、はい」
 だが、マリアは客車のデッキに行くと、客車の乗降ドアを開けようとした。
 スハ43系は手動ドアである。
 やろうと思えば、乗客が勝手にドアを開けることができる。
「ちょっと、マリア!何やってるの!?」
 イリーナが弟子の行動を咎めた。
「ここ、私、知っています」
「ええっ?」
「ここ、私、来たことある」
「来たことあるって言ったところで、勝手に降りちゃダメでしょう!」
 しかしマリアは、たったの一面しかないホームに降りた。
 まるで臨時乗降場のように、ホームしかない殺風景な駅だった。
 駅舎も無ければ改札口も無く、ベンチも駅名看板も無い。
 JRですら、臨時乗降場に駅名看板くらい付いているというのに。
 マリアは列車の1番後ろの車両の更に後ろ、ホームの最後部まで来た。
 ホームの、線路とは反対側の方は切り立った崖になっている。
「やっぱり……!」
「何がですか?」
「ここは地獄だよ。別の地獄にやってきたんだ」
 マリアは自嘲するような笑みを浮かべた。
 切り立った崖の下は血の池地獄のようになっており、そこに全裸の男達がもがき苦しんでいる。
 その男達に向かって、半裸の女達が食らい付いたりしていた。
「……あれ?ここ、僕も見たことあるような……?夢かな?」
「夢……ではないな」
「……私設地獄!」
 イリーナはハッと気づいた。
「ネクロマンサーの最終奥義の1つ、私設地獄ね!?」
「そうですよ。クレア先生とジェシカが作り上げた、重い性犯罪者に対して私刑を加える地獄です」
 マリアは不気味な笑みを浮かべた。
「じゃあ、ここの管理者はクレア先生達?」
 稲生も冷や汗を流しながら言った。
「そう。クレア先生達は死して尚、この地獄の管理者を続けておられる……」
「ネクロマンサーの1番悪い所が出てしまったわね。でも、それがクレア達の望んだことなら……しょうがないか……」
 稲生がよく見ると、岩山と岩山の頂上の間には大きな蜘蛛の巣が張られているのが分かった。
 もがく男の1人に垂れてくるロープというのは、その蜘蛛の巣から垂れて来た糸だったのだ。
 しかしその太さは、綱引きの綱並みの太さがあるし、粘り気があるわけでも、他の亡者達が登って来ても切れることはない。
「マリア、あなたは……ここに来ること、あなたが望んだことなの?あなたを乱暴した男達に復讐する為に?」
 イリーナが目を細めたまま聞いた。
「いいえ。それはもう終わっています」
「じゃあ、どうして……?」
 すると、マリアは岩山に向かって大きな声を上げた。
「ジェシカーっ!私も、もうすぐ再登用を受ける!そうしたら私も手伝いに行くから、待っててくれーっ!!」

[同日17:00.天候:曇? クレアとジェシカの私設地獄 稲生&イリーナ]

「まもなく運転再開できそうです」
 車内に戻っていた稲生とイリーナの所に車掌がやってきて、汗を拭きながら現状を説明してきた。
「そうなの。で、どうするの?バックするの?」
「いえ。このまま先へ進みます。亜空間トンネルへの臨時線があるそうで、そこから本線に復帰できるとのことです」
「そう」
「その後、回復運転を行います。どうか、車内でお待ちを」
「分かったわ。……ってことでユウタ君、マリアを呼んできてあげてね」
「はい、分かりました」
 稲生は席を立ち、ホームに降りて、ジェシカと談笑しているマリアの所に向かった。
「マリアさん!もうすぐ運転再開だそうです!早く列車に……!」
 すると、稲生の顔の真ん前に魔道師の杖を突き付けるジェシカの姿があった。
 あと2〜3センチで稲生の鼻に当たりそうだった。
「わっ!?」
 フードを被ったジェシカの、右目は前髪が隠れている。
 覗いた左目は瞳を赤く光らせて、
「……寄るな!オマエは汚らわしい!」
「すすす、すいませんっ!」
「ジェシカ、やめて!ユウタは違うし、そもそもイリーナ先生の弟子だから!」
「……あそこに落とされたくなかったら、半径10メートル以内に近づかないで!」
「は、はい!えー……」
「ジェシカ、いい加減にしてくれ。ユウタは性犯罪するような男じゃない……って、ユウタも本気でメジャーで測るな!」
「えー……10メートルというと、大型バス1台分……って、えっ!?何ですか!?」
「……あのー、そろそろ発車の方を……」
 迎えに来た車掌だった。

 ようやく運転再開した特別列車。
「性犯罪に遭って男性嫌悪になるのは分かりますが……。やっぱり、ああもなるんですか?」
「なるね。私もユウタと会わなかったら、ああなってたと思う」
「そうですか……」
「特に、威吹や蓬莱山鬼之助のように、『女を食い物』にする男は殺してやりたいくらいだ」
「キノはともかく、威吹は一途なだけですよ。もう結婚もしてますし、一途に好きになった女性しか『食べ』ません。あいつとは長い付き合いだから分かります」
「……どうだか……」
「ねぇ、イリーナ先生?先生としてはどう思います……か?って、寝てるし」
 通路を挟んで隣のボックス席を独り占めにしているイリーナは、窓のブラインドを下ろし、紺色のローブを羽織って、フードを深く被っていた。
 で、窓と窓の間に頭をもたせて寝落ちしていた。

 列車は時速40キロくらいで岩肌の目立つ風景の中を走っていたが、亜空間トンネルに入ると、再び速度を2倍以上に上げて回復運転を行った。
 冥鉄の旅は、まだ続く。
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“大魔道師の弟子” 「冥界鉄道の夜」

2015-12-25 02:53:24 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[12月18日13:00.天候:不明 冥界鉄道特別列車内 稲生勇太、マリアンナ・スカーレット、イリーナ・レヴィア・ブリジッド]

 魔界高速電鉄中央線のインフェルノ・アヴェニュー駅を出た冥鉄の特別列車は、亜空間トンネルというトンネルに入った。
 それまでも濃霧などで車窓が見えにくい状態ではあったが、昼間ということもあり、それなりに明るさはあった。
 それが今や、急に夜になったみたいに真っ暗になっている。
 ……いや、それは語弊があるか。
 夕方と夜の境目……逢魔ヶ時というのだろうか、そういう絶妙な明るさ・暗さがトンネル内にあった。
 地下鉄のトンネルや山岳トンネルの長いヤツみたいに、洞内に所々照明が灯っているのともまた違う。
 何だか、本来なら真っ暗なトンネルの中のはずなのに、夕方と夜の境目くらいの明るさがあると言った感じだ。
「冥界鉄道をご利用頂き、ありがとうございます」
 そこへ、先ほど検札(車内改札)にやってきた車掌がまたやってきた。
 冥鉄の職員は、基本的に亡者が登用される。
 地獄界での刑期を終え、来世へ転生するまでの空白期間は車掌などの車上勤務、地獄界に堕ちるほどではない、若しくは本来なら堕獄する身であった者が何らかの理由で冥鉄に採用された者は駅勤務などの地上勤務をやらされるのだそうだ。
「ご希望の下車駅でありますJR白馬駅の到着予定時刻が分かりましたので、お知らせ致します」
「で、いつ到着するの?」
 イリーナが聞いた。
「本日24時ちょうどの到着予定です」
「は?!」
「当列車は白馬駅で皆様方がお降りになりました後、糸魚川駅まで回送列車となります」
「……てことは、糸魚川駅で再び亡者を乗せる幽霊列車に変身かぁ……。大変だねぃ……」
「いえ、業務ですから。あと、食堂車の営業が開始となりました。多少遅い時刻ですが、どうぞご昼食をお楽しみください」
「おお~!やっとか~!」
 イリーナは目を開いた。
 これは憤怒による開眼ではなく、素直に喜びの感情である。
 要は感情が高ぶると目を開くということだ。
「糸魚川まで回送ってことは、南小谷で機関車交換ってこと?」
「さようでございます」
「……!」
「ユウタ。ちゃんと決められた駅で降りないと、痛い目見るよ?」
 マリアが予め釘を指してきた。
「えっ?あ、いや、あははははは……」
 南小谷駅での機関車交換の様子を是非見たかった稲生は、それを見透かされて照れ笑いした。
 電気機関車も客車も古めかしいのだから、ディーゼル機関車も古めかしい物であろうと……。

 食堂車は幽霊列車の割に、本格的なものが注文できた。
 日本の旧国鉄で、全盛期時代の頃の夜行列車のメニューといった感じか。
「遠慮しないで好きな物頼んでいいよ。アタシはビーフシチュー」
「じゃあ、僕は天ぷらそばください」
「……ポークカレー」
「かしこまりました」
 注文を取りに来たウェイトレスは車掌以上に幽霊みたいな感じで、何しろ体が透けて向こう側が微かに見えるくらいだった。
 イリーナの話によると、1年ほどで完全に影のような状態になるのだという。
 つまり、稲生がクイーン・アッツァー号で前半に遭遇した船員や乗客達の幽霊のことだ。
 ということは最初、あの者達は姿のある状態で船内を彷徨っていたということか。
 味は可もなく不可も無くといった感じだった。
 そこは、食堂車の食事といったところか。
 “トワイライトエクスプレス”や“北斗星”“カシオペア”のように、豪華料理を出して来るわけではないのだから、味がそこそこなのは仕方が無いか。
「先生。もしかして、白馬に着くまで、ずっと景色はこんな感じですか?」
「そうとは限らないよ。だけど、遠回りルートだと、地獄界とか通る恐れがあるから、稲生君はあまり見ない方がいいかもね」
「ええっ!?」

 実際14時頃から1度はトンネルを出た。
 しかし、列車は時速60キロくらいの速さで、ずっと橋の上を走っていた。
 鉄橋ではなく、木橋である。
「もしかして……これって、三途の川……ですか?」
「そういうことになるかね」
 稲生の質問に、イリーナは目を細くしたまま頷いた。
 中速度とはいえ、何十分も掛けて渡るほどの長い橋であった。
「ユウタ、窓は開けるなよ」
 マリアが注意を飛ばす。
「だ、大丈夫です」
 それ以前に、そんな勇気の出る稲生ではなかった。
 明らかに殺風景な岩肌が露出している、緑の無い渓谷のような場所を列車は走っていた。
「地獄界なら、キノとかもいるのかなぁ……」
 稲生は知り合いの獄卒の名前を挙げてみた。
「うーん……。ここは黒縄地獄の入口辺りだからねぇ……。鬼之助君は叫喚地獄に住んでるわけでしょう?だったら、ここは違うかもねぇ……」
「そうですか」
 渓谷沿いを走っているということもあって、列車は時速40キロくらいにまで速度を落として走っているが、窓の外はすぐ何百メートルもの崖が迫っており、とても窓を開ける気にはなれなかった。

 15時くらいまで車窓にはイリーナが説明できる地獄界の風景が広がっており、中には切り立った崖をよじ登る亡者達の姿もあった。
 だが、登り切った所には冥鉄の線路があり、列車はそんな亡者達の『線路内立ち入り』にも関わらず速度を落とさず、そのまま轢き殺したり(もう死んでいるが)、跳ね飛ばして再び崖の下に落とすなど、容赦無い運行を続けるのだった。
 再び亜空間トンネルに入った時、
「お茶にしましょう。食堂車、ティータイムやってるみたいだから」
 茫然と窓の外を見ていた稲生に対し、イリーナは目を細めたまま声を掛けた。
「は、はい……」
「マリアも」
「ええ」
 マリアは稲生と違い、もう少し冷静な感じであったが、それでも険しい顔で地獄界の車窓を見ていた。

[同日16:00.冥鉄列車内 稲生、マリア、イリーナ]

 イリーナの想定ではまだまだ亜空間トンネルが続くはずだったが、それが不意に外に出た。
 窓の外はトンネル以上に真っ暗闇の世界。
 それが少しずつ明るくなってくる。
 景色は、まるで再び地獄界に戻ってきたかのような殺風景な岩山が広がっていた。
「何これ?アタシ、初めて見るよ?」
 と、イリーナは目を細めた状態ではあったが、それでも少し動揺した感じだった。
「……!」
 列車はまるでこの辺りに停車駅があるかのように、速度をどんどん落として行く。
 それまでも信号場とか、駅名も分からぬ駅で列車交換だとか時間調整とかで停車することはあった。
 果たして、ここは一体どこなのだろうか?
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“大魔道師の弟子” 「そして人間界へ」

2015-12-23 19:27:52 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[12月18日11:45.魔界アルカディア王国アルカディアシティ(一番街駅・中央線ホーム) 稲生勇太、マリアンナ・スカーレット、イリーナ・レヴィア・ブリジッド]

 時折、もやが吹き込んでくる高架鉄道のホーム。
 その霧の向こうから、明らかに機関車の汽笛と思われる音が響いて来た。
「おおっ!」
 稲生が飛び上がって驚いたのは、入替用のディーゼル機関車に牽引されて入線してきた客車列車だったからだ。
 牽引してきたディーゼル機関車は、DD12形と呼ばれる既に日本では運用されていない機関車だった。
 機関車も古ければ、客車も古い。
 スハ43系と呼ばれる旧型客車で、日本国内における通常の運用としては創価学会が破門される頃までには終了し、廃車になっている。
 JR東日本には動態保存車として数両だけ保存され、たまにイベントで運行されることがあるに留まる。
 それがこうして、現役車両として乗れるのだから凄い。
 自動ドアではないので、青白い顔をした冥鉄の車掌が内側からドアを開けた。
 引き戸でも折り戸でもなく、客車内側に向かって開けるドアである。
 高速電鉄が通常使用している1番線と2番線にやってくる電車は6両編成だが、それに合わせているのか、くすんだブルーの客車も6両あった。
「ここの車両だね」
 イリーナがキップを手に、後ろから2両目の車両に乗り込んだ。
 普通車である。
「イリーナ先生ほどの御方なら、スロに乗ってもいいのに……」
 と、稲生は思わず鉄道用語を出した。
 要は、この客車のグリーン車のことである。
「多分、今回は連結されてないと思うね」
「そうですか」
 スハ43系は急行列車として運転されていた客車で、グリーン車はリクライニングシートだが、普通車は4人用のボックスシートが並んでいる。
 但し、宇都宮線や高崎線普通列車のそれと違い、窓側にも肘掛けがある。
「他に乗客がいるんですかね?」
「多分、アタシ達だけだと思うよ〜」
「ええっ!僕達の為だけに、こんな特別列車を!?」
「まあ、アタシ達の為だけに特別ダイヤを組んでくれるとは思えないからね、さすがに。元々今日この列車がここまで運転してきて、そのまま回送になる所をアタシ達が便乗するだけのことよ」
「そ、そうですか。しかしその割には、随分ときれいに整備されてるなぁ……」
「まあ、一応カネ払って乗ってるしね。まあ、安倍ちゃん持ちだけどw」
「安倍ちゃん……」
 長距離運転の急行用客車とはいえ、床が木張りの旧型客車では、小柄な稲生とマリアはともかく、その向かい側にイリーナが座るのは窮屈そうだ。
 当時からイリーナのような体型のアメリカ人が珍しくなかった終戦直後、進駐してきた米軍関係者が、日本の鉄道車両に対し、それが1等車であっても狭い座席に閉口し、当時の運輸省にもっと広い座席を作れと命令したのも頷ける。
 もっとも、スハ43系は、昔のアメリカ人が文句を言った更に古い客車よりは広く造られている。
「アタシはこっちに座っておくから、2人でゆっくりしてなー」
 イリーナは稲生達のボックスシートとは、通路を挟んで隣のボックス席を独り占めにした。
「12時ちょうどの発車だからねー。客車を見て回るのもいいけど、乗り遅れちゃダメよー」
「あ、はい」

 そんなことを話しているうちに、客車に衝撃が走った。
 無論、鉄オタの稲生には何が起きたか想像がついた。
 先頭車に機関車が連結されたのだ。
 稲生はすぐにホームに降りて、列車の先頭に向かった。
「わあっ!」
 ブルーの客車の先に連結されたのは、これまた古めかしい電気機関車だった。
 ED16形という、日本では戦前から運用されていたものだ。
 当然、今は廃車になっている。
 しかも、客車の途中には食堂車もあった。
 営業しているのかは分からないが……。
 夢中になって見ているうちに、発車ベルが鳴り響いた。
「お客さん、早くご乗車ください!」
 ホームで監視をしている魔界高速電鉄の駅員とは違う制服を着た冥鉄の車掌が、手動ドアを開けて、そこから稲生を呼んだ。
「すいません!」
 すぐに稲生は列車に乗り込んだ。
 駅員は昼だというのに、濃霧で薄暗いからか、カンテラ(手持ちの発車合図灯)を持って車掌に発車合図を送った。
「了解!」
 車掌もまたカンテラを青く光らせて、機関車の方に向けて上下に振った。
 すると、機関車がピィーッと汽笛を鳴らして、加速を始めた。
 ドドンと客車に衝撃が走る。
 客車列車ならではの衝撃だ。
 こうして稲生達を乗せた臨時列車は12時ちょうど、臨時ホームの3番線を発車した。
 しばらくは中央線を進む。
 イリーナの話では、環状線の反対側の駅に停車し、そこを発車してからやっと冥鉄の専用線に入るのだそうだ。
 1番街駅が東京駅に相当するのだとすると、反対側は新宿駅か。
 魔界高速電鉄では、インフェルノ・アベニューと書かれている。
 青白い顔をした車掌がやってきて、イリーナ達のキップを切っていた。
「本日は亜空間トンネルが長くなっておりまして……」
 車掌が稲生達に説明する。
「ご希望の下車駅でありますJR白馬駅ですが、真夜中に到着する見込みです」
「真夜中!?」
 稲生は驚いた。
「でも冥鉄は元々人間界では、真夜中にしか運行していないはず……」
 車掌ほどではないが、そんなに顔色の良くないマリアも口を出した。
「そこをトンネル内で調整するのよ。上手く行けば数時間ほどで、真夜中の人間界に到着できるんだけどねぇ……。何かあったの?」
「大変申し上げにくいのですが、当社の船舶事業部が……」
 サンモンドが乗船する鉄道連絡船スターオーシャン号は、本来魔界には乗り入れない船である。
 それが今回の“魔の者”騒動で魔界の海に座礁してしまった為に、救出の為に、亜空間トンネルを使用することになった。
 船舶が最短ルートを使用しているため、こちら側の鉄道が長距離ルートを通らなくてはならなくなったとのこと。
「サンモンドの野郎、後で見ときなよ……!」
 イリーナの目が半分ほど開いた。
「本日はイリーナ様方の貸切でございますので、どうぞお寛ぎください」
「スロ……グリーン車は無いんですか?」
「あいにくと、当列車で連結しておりますのは普通車と食堂車のみでございます。インフェルノ・アベニューを発車しましたら営業致しますので、どうぞご利用ください」
「おー、営業するんだ」
「真夜中ってことは、少なくとも大糸線の最終列車が終わった後だよね?」
「さようでございます」
「23時以降か……。凄い乗り鉄だな」
 ユタは苦笑した。
(583系とか24系寝台車みたいに、本当に一泊する車両だったらいいんだけどな……)
 と、思った。
 もちろんスハ43系は往時、夜行列車としても運行されていたわけではあるのだが……。
(今時、リクライニングしないボックスシートで1日かぁ……)
 鉄オタの稲生には良い旅でも、マリアにはキツいのではないかと思った。
 イリーナは、
「インフェルノ駅に着くまで、30分くらいだっけ?そこを出たら、ランチにしましょう」
 と、相変わらず暢気であった。
「そうですね」
 長距離列車は時折、電気機関車の汽笛を鳴らして、王都の町中を駆け抜けて行った。
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