[12月18日22:00.天候:不明 魔界高速電鉄特別列車内 イリーナ・レヴィア・ブリジッド、稲生勇太、マリアンナ・スカーレット]
列車は単調な走行リズムを立てて、亜空間トンネル内を走行している。
時折、先頭の電気機関車から汽笛の音が聞こえてきたり、ポイントを通過する時にガタガタガタと走行リズム音が変わるくらいだ。
天井に2列並んでいる、丸いカバーに入った照明は煌々と灯っていた。
スハ43系は、それまで1列しか無かった照明を2列にした初の客車であるという。
初登場した昭和27年〜28年くらいの時はまだ白熱電球であったが、1960年代からはサークライン形の蛍光灯に交換された。
ここの照明がそうなのだから、恐らくその頃の車両なのだろう。
イリーナは稲生達の座席とは別に、すぐ後ろの座席に移動してブラインドを下ろし、ローブのフードを被って“仮眠”していたが、ふと目が覚めた。
ローブの中から懐中時計を出して、現在時刻を確認する。
(こりゃ、もうしばらく掛かりそうだねぃ……)
そう思い、席を立ってデッキに向かった。
何か静かだなと思いきや、すぐ前のボックスシートに向かい合って座る弟子2人、マリアと稲生もまた居眠りをしていた。
2人とも斜向かい合わせに座っており、進行方向向き窓側に座るマリアは前にもたれ掛るようにしている。
斜め向かいの席に座る稲生は、スハ43系の普通車座席には特徴的な、通路側席に設けられたヘッドレストに頭をもたれさせて寝ていた。
このヘッドレストは乗客に大好評で、スハ43系の後継車であるナハ10系客車では窓側席にも設けられたという。
後年の急行系気動車、電車では窓側席のヘッドレストは廃止されたが、通路側のそれは真ん中をくり抜いて、立ち席客の手すりに応用された。
それは基本的に急行列車には使用しない113系や115系電車まで受け継がれている。
イリーナはデッキのトイレ・洗面所に向かいながら、
(あのマリアがフードも被らず、男の子の前で居眠りするなんてねぇ……。さすがはユウタ君だわ)
マリアの変化に気づき、新しい弟子を褒めていた。
[12月19日00:05 JR大糸線内→白馬駅 上記3名]
列車は亜空間トンネルを出ると、再び暗い線路の上を走っていた。
だが、それまで聞こえなかった踏切を通過する音とかが聞こえてきて、列車が今、JRの線路の上を間借りして走行しているのだと分かった。
冥界鉄道公社は、亜空間トンネル内や地獄界などでは独自の線路を敷設して走行する第1種鉄道事業者だが、人間界や魔界では他の鉄道路線に乗り入れて走行する第2種鉄道事業者となる。
ここではJR線に、列車だけでなく乗務員ごと乗り入れて運転しているので第2種となる。
「えー、長らくのご乗車お疲れさまでした。まもなく白馬駅に到着しますので、お降りの支度をしてお待ちください」
「はい」
車掌が稲生達の所へやってきた。
スハ43系にはマイクの設備が無いため、車掌が巡回してキップを切りながら、次駅停車案内をする方式だ。
稲生達が荷物の準備をしながら、降りる支度をしていると、列車が速度を落とし始めた。
「でも、こんな時間にこういう列車が到着したら、駅員さん達、びっくりしません?」
と、稲生はイリーナに言った。
「大丈夫よ。向こうの職員達も知ってるから」
「はー、そうですか」
列車が白馬駅3番線ホームに到着する。
「足元にご注意ください。雪が積もってますから」
車掌が手動ドアを開けながら言った。
「はい。……雪!?」
「そうだよ。人間界じゃ、もう年末だからねぇ……」
稲生は渡された見習用のローブを羽織っていた。
稲生はあまり着用しないが、さすがに今回は着用した。
何しろ、今回“魔の者”騒動に巻き込まれた時、まだ9月だったからだ。
魔界は常春であるため(12月でも沖縄本島くらいの気候)、やっぱり厚着の必要性は無い。
で、人間界に帰ってきたらこれだ。
幸い魔道師のローブは見習用であっても、しっかり防寒の役割を果たしてくれる。
足元は寒いが。
「迎えを頼んでいるから、早く行こう」
「はい」
列車を見送りたかった稲生だったが、1秒ごとに足の体温が失われていく感じがしたので、それどころでは無かった。
何しろ、駅前ロータリーで除雪車らしき重機が動いている感じであったからだ。
「今年は雪が少ないという話でしたが……」
稲生は駅の階段を登りながら、イリーナに振った。
「これも、“魔の者”の嫌がらせかねぇ……」
イリーナは目を細めながら苦笑い。
「これが本来のこの村の気候だと思いますが」
1番後ろを歩くマリアが冷静に答えた。
駅前に止まっていた迎えの車も、チェーンを巻いていた。
ベンツSクラスであるところを見ると、どうやらイリーナが自分で呼んだらしい。
それに乗り込んで、マリアの屋敷に着く頃には0時半を過ぎていた。
[同日09:00.マリアの屋敷 上記3名]
「おはようございます……」
稲生は、自分が寝泊まりしている東側からダイニングのある西側へ移動してきた。
今日はさすがに昨日(というか、もう日付が変わっていたが)のこともあって、朝はゆっくりであった。
「あー、おはよ。早いとこ、朝食食べちゃって」
と、イリーナ。
「あ、はい。今日は何か?」
「ダンテ先生から手紙が来ていてね……」
イリーナは白い封筒を出した。
中身はラテン語で書かれている。
「今夜、マリアの再登用の儀式を行うってさ」
「それは急ですね!」
「ダンテ先生としても、もっと早くやりたかったみたいよ。だけど、“魔の者”騒動のせいでねぇ……。あ、そうそう。東京方面へ行く準備をしといてくれない?」
「東京方面?」
「そう。マリアには今夜、再登用の儀式を行うけど、お披露目は東京でするから」
「? はあ……」
「後で詳しい話はするから」
「わ、分かりました」
列車は単調な走行リズムを立てて、亜空間トンネル内を走行している。
時折、先頭の電気機関車から汽笛の音が聞こえてきたり、ポイントを通過する時にガタガタガタと走行リズム音が変わるくらいだ。
天井に2列並んでいる、丸いカバーに入った照明は煌々と灯っていた。
スハ43系は、それまで1列しか無かった照明を2列にした初の客車であるという。
初登場した昭和27年〜28年くらいの時はまだ白熱電球であったが、1960年代からはサークライン形の蛍光灯に交換された。
ここの照明がそうなのだから、恐らくその頃の車両なのだろう。
イリーナは稲生達の座席とは別に、すぐ後ろの座席に移動してブラインドを下ろし、ローブのフードを被って“仮眠”していたが、ふと目が覚めた。
ローブの中から懐中時計を出して、現在時刻を確認する。
(こりゃ、もうしばらく掛かりそうだねぃ……)
そう思い、席を立ってデッキに向かった。
何か静かだなと思いきや、すぐ前のボックスシートに向かい合って座る弟子2人、マリアと稲生もまた居眠りをしていた。
2人とも斜向かい合わせに座っており、進行方向向き窓側に座るマリアは前にもたれ掛るようにしている。
斜め向かいの席に座る稲生は、スハ43系の普通車座席には特徴的な、通路側席に設けられたヘッドレストに頭をもたれさせて寝ていた。
このヘッドレストは乗客に大好評で、スハ43系の後継車であるナハ10系客車では窓側席にも設けられたという。
後年の急行系気動車、電車では窓側席のヘッドレストは廃止されたが、通路側のそれは真ん中をくり抜いて、立ち席客の手すりに応用された。
それは基本的に急行列車には使用しない113系や115系電車まで受け継がれている。
イリーナはデッキのトイレ・洗面所に向かいながら、
(あのマリアがフードも被らず、男の子の前で居眠りするなんてねぇ……。さすがはユウタ君だわ)
マリアの変化に気づき、新しい弟子を褒めていた。
[12月19日00:05 JR大糸線内→白馬駅 上記3名]
列車は亜空間トンネルを出ると、再び暗い線路の上を走っていた。
だが、それまで聞こえなかった踏切を通過する音とかが聞こえてきて、列車が今、JRの線路の上を間借りして走行しているのだと分かった。
冥界鉄道公社は、亜空間トンネル内や地獄界などでは独自の線路を敷設して走行する第1種鉄道事業者だが、人間界や魔界では他の鉄道路線に乗り入れて走行する第2種鉄道事業者となる。
ここではJR線に、列車だけでなく乗務員ごと乗り入れて運転しているので第2種となる。
「えー、長らくのご乗車お疲れさまでした。まもなく白馬駅に到着しますので、お降りの支度をしてお待ちください」
「はい」
車掌が稲生達の所へやってきた。
スハ43系にはマイクの設備が無いため、車掌が巡回してキップを切りながら、次駅停車案内をする方式だ。
稲生達が荷物の準備をしながら、降りる支度をしていると、列車が速度を落とし始めた。
「でも、こんな時間にこういう列車が到着したら、駅員さん達、びっくりしません?」
と、稲生はイリーナに言った。
「大丈夫よ。向こうの職員達も知ってるから」
「はー、そうですか」
列車が白馬駅3番線ホームに到着する。
「足元にご注意ください。雪が積もってますから」
車掌が手動ドアを開けながら言った。
「はい。……雪!?」
「そうだよ。人間界じゃ、もう年末だからねぇ……」
稲生は渡された見習用のローブを羽織っていた。
稲生はあまり着用しないが、さすがに今回は着用した。
何しろ、今回“魔の者”騒動に巻き込まれた時、まだ9月だったからだ。
魔界は常春であるため(12月でも沖縄本島くらいの気候)、やっぱり厚着の必要性は無い。
で、人間界に帰ってきたらこれだ。
幸い魔道師のローブは見習用であっても、しっかり防寒の役割を果たしてくれる。
足元は寒いが。
「迎えを頼んでいるから、早く行こう」
「はい」
列車を見送りたかった稲生だったが、1秒ごとに足の体温が失われていく感じがしたので、それどころでは無かった。
何しろ、駅前ロータリーで除雪車らしき重機が動いている感じであったからだ。
「今年は雪が少ないという話でしたが……」
稲生は駅の階段を登りながら、イリーナに振った。
「これも、“魔の者”の嫌がらせかねぇ……」
イリーナは目を細めながら苦笑い。
「これが本来のこの村の気候だと思いますが」
1番後ろを歩くマリアが冷静に答えた。
駅前に止まっていた迎えの車も、チェーンを巻いていた。
ベンツSクラスであるところを見ると、どうやらイリーナが自分で呼んだらしい。
それに乗り込んで、マリアの屋敷に着く頃には0時半を過ぎていた。
[同日09:00.マリアの屋敷 上記3名]
「おはようございます……」
稲生は、自分が寝泊まりしている東側からダイニングのある西側へ移動してきた。
今日はさすがに昨日(というか、もう日付が変わっていたが)のこともあって、朝はゆっくりであった。
「あー、おはよ。早いとこ、朝食食べちゃって」
と、イリーナ。
「あ、はい。今日は何か?」
「ダンテ先生から手紙が来ていてね……」
イリーナは白い封筒を出した。
中身はラテン語で書かれている。
「今夜、マリアの再登用の儀式を行うってさ」
「それは急ですね!」
「ダンテ先生としても、もっと早くやりたかったみたいよ。だけど、“魔の者”騒動のせいでねぇ……。あ、そうそう。東京方面へ行く準備をしといてくれない?」
「東京方面?」
「そう。マリアには今夜、再登用の儀式を行うけど、お披露目は東京でするから」
「? はあ……」
「後で詳しい話はするから」
「わ、分かりました」