報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「アナーザー&ショートストーリー」(スマホによる作成)

2015-12-29 19:08:48 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
 マリアンナ・ベルフェ・スカーレット。
 2015年12月下旬を以て、再び一人前の魔道師として免許皆伝を受けた。
 そんな彼女が目指すものは、師匠イリーナと同じ“時空を司る”クロックワーカー。
 そこへ到達する一環として、“人形使い”をやっているが、何故それを彼女がやっているのか?
 それは今から7年前のこと……。

「汚い……きたない……」
 望まぬ双子の赤子を孕ませられ、悪魔との契約の際に堕胎したマリアだったが、後遺症は残った。
 “狼”達に身も心も汚された彼女は、ヨーロッパでの隠れ家において、何度も手を洗うなどの異常行動を起こすなどしていた。
「マリア、やめなさい!何度言ったら分かるの!」
 イリーナが止めるが、マリアは激しく抵抗し、
「だって、汚いんだもん!体だって……!」
「そんなことないから!そんなにゴシゴシやったらケガするわよ!」
「離して!!」
 と、そこへ、
「これは深刻だねぇ……」
「ダンテ先生!」
「その両手を封じるべきだろう」
「先生、それはあまりにかわいそうです」
「もちろん、単に封じるわけではない。要は、両手を忙しくすれば良い。幸い、マリアンナ君に憑かせた悪魔はベルフェゴール。この悪魔を使った修行をさせれば、名実共に一人前になれるんじゃないかな?」
「それは……」
「あと、環境も変えよう。“例の脅威”もあることだし、地球の裏側くらいで、かつ魔道師にも理解のある国に行くんだ」
「分かりました」
 イリーナは世界地図を壁に貼った。
 そして、ダーツを取り出す。
「はい、マリア。適当に投げてみて~」
「ダーツで決める気かい、キミは!」
 ダンテは直弟子をたしなめた。
 マリアは、
「いやッ!汚い!」
 イリーナのダーツを払い除けた。
 どうやら、ダーツが男性器に見えたらしい。
「しょうがない。ここは1つ、タロットで決めたまえ」
「アタシにはトランプにしか見えませんけど……」
「いいから、1枚引きなさい」
「マリア。トランプなら大丈夫でしょ?」
「…………」
 マリアは恐る恐るカードを引いた。
 すると出てきたのはダイヤのジャック。
「ふむ。では、頭文字Jの中から国を選びなさい」
「A……」
 マリアはダイヤのマークがAに見えた。
「J……A……」
「ふむ?JAPANなら確かに遠い異国の地だし、キリスト教の力も強くないから、彼らによる迫害も無い。ただ、日本語を覚えるのと、向こうの文化に慣れるのが大変だと思うがね」
「そこはアタシが何とかしますわ。マリア、今すぐ支度をなさい」
「はい……」

 それから7年後の現在。
 ホテルニューオータニで稲生達を待つイリーナとダンテ。
「ふむ。マリアンナ君も、少しは心の傷が癒えたかね?」
「ユウタ君が典型的な日本人で良かったですわ。イギリスにはいないタイプですからね」
「まだ、手袋越しにしか男性と握手ができないか」
「ユウタ君以外の男性とは、手袋越しでも無理みたいです」
「そうか。じゃ、まだまだこれからだな」
「ユウタ君の使命は大きいですわ」
「そろそろ彼らが来る頃だ。迎えに行ってあげなさい。私は部屋で、少し休ませてもらおう」
「はい、先生」

 イリーナはニッコリ笑って、ホテルのエントランスに向かった。
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“大魔道師の弟子” 「東京紀行・入京」

2015-12-28 19:21:42 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[12月27日14:41.天候:晴 JR新宿駅 稲生勇太&マリアンナ・ベルフェ・スカーレット]

 電車が中央線の通勤電車と並走したり、追い抜いたりするシーンが多々見受けられるようになると、終点の新宿駅はもうすぐそこである。

〔「ご乗車ありがとうございました。まもなく終点、新宿、新宿です。10番線に到着致します。お出口は、左側です。……」〕

「東京はカラッとしてますね」
 稲生は冬の太陽が燦々と降り注ぐ東京の街並みを見ながら言った。
「アルカディアシティとは明らかに違うね」
 “霧の都”とも称される魔界のアルカディアシティと違い、湿気が無いせいか、見通しが良く、澄んでいるように見える。
「トイレとか大丈夫ですか?」
「立川駅を出た時に行ったから大丈夫」
「そうですか」
 電車は新宿駅の複雑なポイントを渡り、10番線へと入って行った。
 ここは中央本線特急のホームである。
 臨時夜行快速の“ムーンライト信州”も、種別は快速だが、特急車両を使うなど実質的な特急であるため、特急ホームから出発する。
 稲生達は下車する旅行客達に混じって、ホームに降り立った。

〔しんじゅく〜、新宿〜。本日も、JR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました。お忘れ物の無いよう、ご注意ください〕

「ここからどう行くの?」
「会場のホテルがオータニでしたよね?キップを買い替える必要も無いので、このまま快速ホームに行って、四ツ谷回りで行きます」
 会場はホテルニューオータニのザ・メイン。
 ホテル側から案内されるアクセス経路で、電車からのものでは1番遠いルートである(徒歩8分)。
 地下鉄の赤坂見附駅からのアクセスが推奨される(徒歩3分)。
 稲生だったら喜んでホイホイと丸ノ内線のホームに向かうところだろうが、マリアがいたこともあり、乗り換え的には楽な中央線ルートにした次第。
「少し遠回りなルートですけど」
「まあ、大丈夫。いざとなったら、これもあるし」
 マリアが取り出したのは、ゴルフボールくらいの大きさの無色透明なガラス玉。
 ソウルピースが紫色の宝石でゴルフボールを作ったような感じなのに対し、こちらは本当にビー玉のようにつるつるである。
「何ですか、これは?」
「転がせば、師匠の所まで転がって行くので、これに付いていけば迷わない」
「何か、ドラえもんの道具みたいですね」
 稲生はフッと笑ったが、
「ドラエモン?何だそれは?」
 マリアには分からなかった。

 隣の8番線ホームに移動すると、すぐに電車がやってきた。

〔しんじゅく〜、新宿です。ご乗車、ありがとうございます。次は、四ツ谷に止まります〕

「すぐ次の駅ですから」
「了解」
 稲生はガラガラと、キャリーバッグを引いていた。
 見習用のローブはそんなに物が入らない。
 ついでに年末年始帰省する稲生は、それも含めた荷物を持って来ていたのだった。
 だからそういった意味では、マリアの方が身軽だ。
 1人前になって渡されたローブの方が、ドラえもんの四次元ポケット並みに何でも入ってしまうし。
 手に持っているのは、魔道師の杖くらいのものだ。
 電車に乗り込むと座席には座らず、車椅子スペースに立っていた。
 車椅子やベビーカーがいないと、良い荷物スペースだ。

〔8番線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車をご利用ください〕

 賑やかな発車メロディの後で、オレンジバーミリオンの帯を巻いた快速電車が発車した。

〔この電車は中央線、快速、東京行きです。停車駅は四ツ谷、御茶ノ水、神田です。次は、四ツ谷です。……〕

 四ツ谷と言えば四谷怪談。
 これは本当に四ツ谷(正確に言えば新宿区左門町)にある“お岩稲荷”(正式名称、於岩稲荷田宮神社)が由来であるが、四谷怪談自体は創作であるらしい。
 お岩さんという女性は実在したらしいが、彼女が稲荷神社を勧請した時期と怪談の時期が合わないらしい。
 怪談では蔑ろにされたお岩さんが田宮家を断絶するマリアもびっくりの復讐劇を繰り広げるが、実際にはお岩さんがそのような復讐劇を行った記録はそもそも無く、田宮家自体、今でも存続しているらしい。
 まあ、怪談話なんてそんなものだ。
 但し、田宮家ゆかりの女性が失踪した記録は残されており、これが怪談話のお岩さんの代わりにされたのではないかという。
 あ、因みに復讐劇に登場する伊右衛門様はお茶と関係無いよ。
 ……そのような話を稲生がすると、マリアはふんふんと頷いて聞いていた。
「よく知ってるね」
「大学の教養です」
 稲生がどこの学部の何学科を卒業したかまでは定かではないが、少なくとも文科系の、更に文系であることは間違いない。
「私はハイスクールまでしか出なかったから、学歴はユウタの方が上だな」
「いや、別に魔道師になるに当たって、学歴は関係無いかと……」
「残念だな。もしそのお岩さんって女が本当に復讐劇をやっていたのなら、是非ともその時の話を聞いてみたいものだったが……」
(聞いてどうするつもりなんだろう……?)
 稲生は一瞬、震えた。

 因みに、四ツ谷駅の手前に創価学会で有名な信濃町駅がある。
 一部の学会員は信濃町の由来について、心のであると思っている者もいるらしい(作者、顕正会時代に聞いた噂話)。
 実際には江戸時代、信濃守である幕臣が住んでいた場所だったからである(紀尾井町の由来も似ている)。

[同日14:50.天候:晴 JR四ツ谷駅→ホテルニューオータニ(ザ・メイン) 稲生、マリア、イリーナ・レヴィア・スカーレット]

〔まもなく四ツ谷、四ツ谷。お出口は、右側です。中央・総武線各駅停車、地下鉄丸ノ内線と地下鉄南北線はお乗り換えです。電車とホームの間が広く空いておりますので、足元にご注意ください。四ツ谷の次は、御茶ノ水に止まります〕

 新幹線や特急の車内放送とはまた違う声優の自動放送が流れると、電車が速度を落とした。

〔四ツ谷〜、四ツ谷〜。ご乗車、ありがとうございます。次は、御茶ノ水に止まります〕

 電車を降りた稲生達は、
「どうする?あの玉、転がしてみる?」
「まあ、ホテルの場所自体はスマホで分かるからいいんですけどね……」
 稲生はスマホを取り出した。
 四ツ谷駅からオータニへのルートは、既に登録してある。
 問題は広いホテルのどこに、イリーナが待っているかだ。
「ホテルに着いて、先生と会えないようでしたら転がしてみましょう」
「分かった」
 取りあえず、2人はオータニへ向かうことにした。

 乗車券は東京都区内までなので、そのまま改札口を出ることができた。
「既に大師匠様は到着されてるんですかね?」
「多分……」
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“大魔道師の弟子” 「東京紀行・上京 2」

2015-12-28 16:45:26 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[12月27日11:49.天候:雪 JR松本駅 稲生勇太&マリアンナ・ベルフェ・スカーレット]

〔ピンポーン♪ まもなく終点、松本です。松本駅では、全部の車両のドアが開きます。お近くのドアボタンを押して、お降りください。【中略】松本駅から篠ノ井線下り、篠ノ井、長野方面、上り、塩尻方面はお乗り換えです。今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕

 電車が豪雪路線を駆け抜けて、長野県屈指の都市部を走行する。
 普通列車のワンマンカーでは簡素な放送しかしないが、塩尻から中央本線に入って新宿方面まで行く特急が発着している。
 ここまで来ると、稲生達の4人用ボックスシートの通路側にも乗客が座って来たり、立ち客が出たりしている。
 運転席からは、ATSの警報音が聞こえてきた。
 ホームに入ると、そこは6番線。
 隣の7番線は、アルピコ交通(松本電鉄)上高地線の乗り場。

〔「ご乗車ありがとうございました。松本、松本です。お忘れ物の無いよう、ご注意ください。今度の新宿行き特急“あずさ”16号は、2番線から発車致します。……」〕

 2両編成の電車から乗客が吐き出されると、稲生達もその流れに乗った。
 相変わらず寒風が吹き荒ぶホームであったが、東京は少し暖かいことを期待してエスカレーターに乗った。
「えー、2番線ですね。電車に乗る前に、駅弁でも買って行きましょうか」
「おっ、もうお昼の時間だね」
 ローブの中に入っていたミク人形が、タイムリーに腕時計並みの小さな時計をマリアに見せた。
「12時ちょうど発ですから」
 橋上コンコースに上がると、やはり特急に乗る乗客を意識しているのだろうか、それが発着するホームの入口で駅弁は売っていた。
「師匠なら沢山食べるんだけどな……。私はそんなに……」
 と、マリア。
「僕も威吹から、『ユタも、もっと食べないとダメだよ』なんて、よく言われましたね」
 稲生は苦笑いした。
「あの狐妖怪は別格だろうから……」
 マリアは呆れた顔をした。
 稲生は“山賊焼”、マリアは“地鶏めし”を購入した。
 因みに山賊焼とは鳥の唐揚げのことで、『鳥肉を揚げる→とりあげる→取り上げる→山賊』になったのだそうだ。
 ソースはその駅弁メーカーのサイト。

[同日12:00.天候:雪 特急“あずさ”16号8号車内 稲生&マリア]

 指定された席に隣り合って座ると、早速、駅弁を開けた。
 結構、発車時間ギリギリだったらしく、そうしているうちに、車外からは発車メロディが聞こえてくる。
 電車は新型のVVVFインバータのモーター音を鳴らしながら、松本駅を発車した。
 車窓には小雪が舞っている。
 今見える雪景色も、東京は晴れで雪が無いということから、いずれはおさらばすることになるのだろう。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は特急“あずさ”16号、新宿行きです。途中、塩尻、岡谷、下諏訪、上諏訪、茅野、富士見、小淵沢、韮崎、甲府、八王子、立川に止まります。自由席は3号車から5号車、グリーン車は8号車の一部です。【中略】次は、塩尻です〕

 JR東日本の新幹線と同じ声優の喋る自動放送が流れた。
 因みにこの電車、1号車と2号車が無い。
 11号車まであるが、前2両が無いので9両編成である。
 昼食の駅弁を食べながら、マリアが言った。
「あの狐妖怪のことなんだけど……」
「威吹がどうかしたんですか?」
「過去の大罪については知ってるよね?」
「……江戸時代は青梅街道沿線に名を轟かせた人喰い妖狐であるということは知っています。ですが、僕と盟約した際に特約で『2度と人を食わない』ことを約束させてますし、今はさくらさんにそれが移行しましたが、さくらさんも同じ約束をさせています」
「多分、ユウタがその時の大罪ぶりを知ったら、多分、威吹を許すことはできないでしょう」
「えっ?」
「それほどまでに、威吹の大罪は……本来は地獄の底に堕ちても差し支えないほどだということだ」
「まあ、人喰い妖怪ですから……。それに、江戸時代初期の話ですし。今は食べてないんですから」
「ユウタが過去を覗く力を付けたら、是非覗いてみるといい。絶対、吐き気を催すから」
「そんなに?」
「そんなに、だね」
「過去を覗く力……。付くんでしょうか?」
「師匠は時空を股に掛けるクロックワーカー系の魔道師で、私達はその弟子なんだから、いずれ付くでしょう」
「まあ、まだ当分先の話でしょうね」
 と、稲生は思った。
 何しろまだ稲生がイリーナから与えられた魔道書は、基礎の基礎のそのまた基礎といった感じのレベルだからだ。
「“魔女の宅急便”のキキの飛行能力が、実は凄いものだということは分かりました。13歳であれなんですから凄いです」
「私達は普通の人間から魔道師になった“中途採用”組だけど、ドラマや映画などの魔道師の中には、生まれながらにしてそれの純血者がいるからね。その特権は計り知れない」
「……ですね。ハリー・ポッターを見れば分かります」
 稲生は大きく頷いた。
「ていうか、ダンテ一門自体、中途採用者ばっかりなんだけどね」
「あ、そうなんですか。……あ、そうか。イリーナ先生もそうか」
「ポーリン師もエレーナも」
「……確かに。ハリー・ポッターみたいなのが理想なんですかね?」
「恐らく。でも全寮制の魔法学校を作るには、まだまだ数が足りない」
「あの世界では、魔法使いが最低でも1000人くらいはいましたが……」
 稲生の言葉に、マリアは首を横に振った。
「実際は私達を入れても、その10分の1にすら達していない。とても学校を作って、そこで一括教育……というわけにはいかないのが現実だよ」
「厳しいですねぇ……。せいぜい、寺子屋教育が現実ですか」
「寺子屋どころじゃない。家庭教師、個別教室レベルだよ」
「それはそれで、何か凄そうなんですけどね」
 確かに稲生は、イリーナから個別教室での指導を受けているようなものだと気づいた。
 それはそれで高いレベルの教育を受けていそうな感じではあるが、
(でもまだ読んでいるのが基礎レベル……以下)
 というのが現状だ。

 魔道師の世界の現状がこれなら、確かにマリアが正式に1人前と認められたことは物凄いことなんだと改めて実感した稲生だった。
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“大魔道師の弟子” 「東京紀行・上京」

2015-12-28 02:29:31 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[12月26日21:00.天候:晴 マリアの屋敷・稲生の部屋 稲生勇太]

{「……というわけで、明日お願いね?」}
「分かりました。お任せ下さい」
 稲生は自室で、師匠イリーナと電話していた。
{「私はダンテ先生を迎えに行くから」}
「大師匠様でも、飛行機で移動されるとは……」
{「魔法の節約だってさ。世界を股に掛ける大魔道師様の、ほんの気まぐれよ」}
(きっと、時間調整的な意味合いもあるんだろうなぁ……)
 それまで新幹線や飛行機で国内や海外を走り回っていたエリート商社マンが、定年退職後、鈍行の旅を楽しむようなものかと思った稲生だった。
{「何しろマリアは、東京の電車に1人で乗れなさそうだからねぇ……。その点、ユウタ君なら安心だわ」}
「ど、どうも……」
 段々ニューヨークの地下鉄に似てきた魔界高速電鉄に、そろそろ分かり難くさを感じてきた稲生であったが……。
{「東京まで中央本線経由で来るのかしら?」}
「はい。長野駅から新幹線に乗ることも考えたんですが、この雪の中、バスで行くのは少し不安だったので、電車で行くことにしました」
 松本から篠ノ井線に乗り換えれば、電車で長野駅に行く事は可能だが、乗り換えが1回増えるという不便さがある。
{「うんうん。さすがだねぇ……」}
「新宿からは、直にホテルに向かっていいんですか?」
{「いいよ。あ、もちろん、会場の方ね。少し分かり難い場所にあるけど、大丈夫かしら?」}
「そこは何とかなると思います」
{「おー、さすがだね。会場を確認してもらった後、宿泊先のホテルに行って荷物を置いて来よう。それは私も行くから」}
「はい」
{「明日のイベントが終わったら、ユウタ君はそのまま実家に帰省してもらって……」}
「何かこの前、帰ったばかりなのにって気がします」
{「ユウタ君の感覚ではね。でも実際、人間界では3ヶ月経っていたわけだからね」}
「はあ……」
{「じゃあ、そういうことで。何かあったら、また電話ちょうだい」}
「分かりました」
 稲生は電話を切った。

[同日同時刻 マリアの屋敷・マリアの部屋 マリアンナ・ベルフェ・スカーレット]

 マリアは入浴後、部屋に戻り、ベッドに転がりながら、人形状態のミク人形を抱き上げた。
「明日、よろしくね。ミカエラと一緒に」
 マリアがにこやかに言うと、ミク人形はコクコクと頷いた。
 戦闘の時、ミク人形やハク人形だけでは対処できないと判断される場合、マリアは他の人形も召喚するが、常に護衛として持ち歩くのはミカエラとクラリスである。
 今ではバッグに入る大きさまで縮小できるようになったが、当初は通常のフランス人形のサイズより小さくすることはできず、持ち運びには不便であった。
 少しずつ魔法のスキルがアップしていることの表れであろう。
「……うん。大きな町に行くのは不安だけど、ユウタがいるし」
 その魔道師がどの方面のジャンルを極めるかにもよるが、大きな町の方が修行になることも多々ある。
 若いうちは刺激があった方が良いということか。
 “魔女の宅急便”のキキも、なまじ大きな町を修行の場に選んだことで苦労することになったが、しかしその分、大きな成長を得られたことが描かれている。
 それと修行の方向性が似ているエレーナが、都内に在住していることは決して偶然ではないのかもしれない。
「……大丈夫。明日は楽しみだから」
「フフフフフ……。心配しなくていいよ。この超高級悪魔ベルフェゴールと再契約してくれた暁として、マスターであるあなたに良い夢を見せてあげよう。まあ、豪華客船に乗り込んだつもりでいなさい」
 と、頭の中にベルフェゴールの声が聞こえた。
「ああ……」
 一瞬納得しかけたマリアだったが、
「それってクイーン・アッツァーのことじゃないだろうな?」
「や、やだなぁ……。沈没するわけないじゃないか。ハハハハハ……。そこはイジらず、スルーしてくれよ」
「そうはいくか。いくら“怠惰”の悪魔だからって、私と再契約したからには、きっちり働いてもらう。分かったら『ハイ』は?」
「は、ハイ……」

[12月27日10:14.天候:曇時々雪 JR白馬駅→E127系電車内 稲生&マリア]

 稲生とマリアは白馬駅で、電車を待っていた。
 1番線に、昨日乗ったE127系の2両編成がやってくる。
 スキーシーズンであるが、松本方面から大量のスキー客はやってきても、まだ午前中に上り電車に乗る客は少ないようである。
 空いているボックスシートに、向かい合って座った。
 荷物は稲生が荷棚の上に上げる。
 上下列車の交換が無いせいか、電車はすぐに発車した。

〔ピンポーン♪ この電車は、各駅停車の松本行き、ワンマンカーです。これから先、飯森、神城、南神城の順に、各駅に停車致します。【中略】次は、飯森です〕

 電車の中は暖房がよく効いているが、車体にこびりついた雪を見るに、稲生の実家である仙台よりも雪深く、冬季は雪との戦いであることがよく分かる。
 それでも維持され続けているのは、偏に大糸線沿線がスキーなどの観光収入が蔑ろにできないからだろう。
 普通列車は2両編成のワンマン電車がちょこちょこ走るだけだが、それでも新潟地区に導入された同形式や東北地方に導入された交流モーター駆動バージョンの701系の大部分がオールロングシート(通勤電車仕様)で設計されているところを見ると、進行方向右側の一部とはいえ、ボックシートがあることからも、観光客の利用を想定していることは想像に難くない。
 これは南アルプスの山々を見てもらいたいということの表れだろう。
 ただ、背もたれが旧型急行電車のそれより低く、新造車であるにも関わらず、座席配置と窓割りが一致していないなど、JR東日本ならではの多少の心地悪さがあるのもまた事実だ。
 マリアはまた縁の無い眼鏡を掛けて、魔道書を開いた。
 稲生もそうした。
 稲生が読んでいるのと、マリアが見ているものは内容が違う。
 マリアのは応用的なことが書かれているのだろうし、稲生の場合は魔道師の何たるかの基本が書かれていた。
 学校で言うなら稲生は小1の教科書、マリアはそれまで高校の教科書を使っていたが、この度、大学のテキストを使うようになったといったところか。

 外では小雪が舞うようになった中、電車は特急の発着する駅に向かって南進した。
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“大魔道師の弟子” 「東京紀行・前日」

2015-12-26 19:44:29 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[12月26日15:08.天候:曇 JR信濃大町駅に停車中のE127系先頭車内 稲生勇太&マリアンナ・ベルフェ・スカーレット]

〔ピンポーン♪ ご案内致します。この電車は大糸線下り、各駅停車の南小谷行き、ワンマンカーです。これから先、北大町、信濃木崎、稲尾の順に、各駅に停車致します。まもなく発車致します〕

 雪景色の広がる車窓。
 先週乗車した冥鉄列車のように、ボックスシートに向かい合って座る魔道師の男女がいた。
 進行方向向きの窓側に座るマリアは久しぶりに縁の無い眼鏡を掛けて、大師匠ダンテの著した魔道書を読んでいる。
 着ている服装は先週と殆ど変わらない上、頭には稲生からプレゼントされたお気に入りのカチューシャを着けていた。
 自分の体の左側と壁の間には、新しい魔道師の杖が立てかけてある。
 稲生はいつもと変わらぬ私服の上に、見習用のローブを防寒着代わりに羽織っており、見習用の杖を腰のベルトに通していた。
 見習用といっても、杖はそれぞれ持つ者の個性に合わせているが、稲生の場合は伸縮性に富んだものである。
 杖というより棒に近く、それはまるで、警察官が持つ警棒や警備員が持つ警戒棒のそれと同じ3段式ロットであった。
 魔法少女が持つ短いステッキくらいに思ってもらえれば良い。
 但し、大の大人の男である稲生が魔法少女のステッキのようなものを持っているのはおかしいので、あくまでも長さはそれよりもう少し長いが、装飾はもっとシックなものということだ。
 電車は定刻通りに信濃大町駅を走り出した。

〔ピンポーン♪ 今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は大糸線下り、各駅停車の南小谷行き、ワンマンカーです。これから先、北大町、信濃木崎、稲尾の順に、終点南小谷まで各駅に停車致します。途中の無人駅では、後ろの車両のドアは開きませんので、前の車両の運転士後ろのドアボタンを押してお降りください。【中略】次は、北大町です〕

 明日からまた旅行に出かけることになる2人。
 その準備の為に、白馬村の中心部ではなく、もっと大きな町の大町市(ギャグではなく、本当にそういう名前)に足を伸ばしただけである。
 稲生は新約聖書のような装飾、厚さの魔道書を読みながら、向かい側に座るマリアに時々目をやった。
 先週行われた再登用(再・免許皆伝)には、稲生も立ち会った。
 大師匠ダンテ・アリギエーリと、他の立会人としてポーリン・ルシフェ・エルミラとその弟子、エレーナ・マーロンがやってきた。
 前回はイリーナが(止むに止まれぬ事情があったにせよ)勝手に免許皆伝を行ったものだったが、今回はちゃんとダンテが行う正式なものである。
 日蓮正宗で言うなれば、御法主上人猊下が化儀に基づき、所化修行を修了した所化僧に対して1人前の僧侶とする儀式と同じである。
 稲生はそれに立ち会えたことを光栄に思っているが、見ていると想像通りのことだったというか……。
 どのような儀式を行うかは魔道書に書いてあった。
 直属の師匠であるイリーナが魔法陣を描き、その真ん中にマリアが立つ。
 その後でダンテが呪文を唱えながら、マリアに聖水(とは違う透明な水)のようなものを掛ける。
 魔法陣が緑と白の光を出したと思うと、マリアの頭上に悪魔ベルフェゴールが狂喜の声を上げてマリアの中に入って行くというものだった。
 所要時間は30分くらいだったか。
 彼女には悪魔の名前を取ったミドルネームが与えられ、マリアンナ・ベルフェ・スカーレットとなった。
 で、何か彼女に変わったことがあったのかというと、実は特に変わっていない。
 ただ、7つの大罪の悪魔の一柱という強力な悪魔がバックに控えているということもあってか、顔色は少し良くなったかもしれない。
 また、体力……というか、持久力もついたようだ。
 それまでは稲生が手を引いてあげることが多かったが、今ではマリアの方が先に歩くことが多い。
 その辺は変わった感じだ。
 あまり大きく変わったわけではないことに、稲生は正直ホッとした。

[同日15:48.JR白馬駅 稲生&マリア]

〔ピンポーン♪ まもなく、白馬です。白馬駅では、全部の車両のドアが開きます。お近くのドアボタンを押して、お降りください。乗車券、運賃、整理券は駅係員にお渡しください。定期券は、駅係員にお見せください〕

 半室構造の運転室から、ATSの警報音が聞こえる。
 単線の大糸線では、白馬駅のような主要駅では上下列車の交換が行われることが多い。
 その為、実際そのような時は、駅に入る為の信号(場内信号)が黄色などを現示し、その先の出発信号が赤になっている。
 そういう状態であることを運転士に知らせる為の警報音だ。

〔「ご乗車ありがとうございました。白馬、白馬です。お忘れ物の無いよう、ご注意ください。1番線の電車は15時49分発、普通列車の南小谷行き、2番線の電車は同じく普通列車の信濃大町行きです。両列車とも、まもなく発車致します。お乗り遅れ、お乗り間違えの無いよう、ご注意ください」〕

 稲生達が乗った列車は、1番改札口に近い1番線に到着した。
 これは跨線橋を渡らずに改札口まで行けることを意味する。
 白馬駅はSuicaのエリアに入っていない為、普通の乗車券で乗った2人であった。
 駅からは最終のバスに乗り換える。
 まだ暗くなっていないのに、もう最終バスになるほど辺鄙な場所に屋敷が建っているということだ。
 もっとも、本来は人間界からは離れた場所に住むと言われる魔道師。
 それが辺鄙な場所に住むのは当然である。
 まだ本数僅少で、冬でも明るいうちに最終便となるとはいえ、路線バスでアクセスできるだけマシなのかもしれない。
 但し、それは言い換えれば、電車のダイヤが乱れたらアウトということでもあるのだが。
 こんな雪深い状態でもダイヤ通りに走れる日本の鉄道に称賛の意を心の中で唱えつつ、バスに乗り換えた。

 バスの中でも魔道書を読む真面目さは、もしかしたら1人前になった変化の1つかもしれない。
 確かにイリーナから剥奪される前は、よく魔道書を読んでいたような気がする。
 剥奪後はあまり魔道書を読まなくなり、その代わり、趣味の人形作りに精を出すようになった。
 屋敷内で働くメイド人形達の数が増えたのも、その辺りくらいだった。
 稲生達が明日向かう先は東京。
 ダンテ一門では、見習いが免許皆伝を受けると、皆でお祝いする風習がある。
 イリーナが勝手に免許皆伝をした際はそんなイベントは行われず(行うこともなく、と言った方が正しいか)、実際に誰もお祝いに駆け付けなかったという。
 しかし今回はダンテが正式にマリアを1人前と認め、“化儀”に基づいた儀式を行ったのだから、今回は盛り上がるだろうとイリーナは期待している。
 先般の“魔の者”騒動による魔道師師弟が殺されたことに関しては、既に追悼の儀式を終了している。
 今回はそれはそれとして、素直にマリアの再登用を喜び合おうと呼び掛けられている。
 “魔の者”を撃退したことにより、ある程度の仇討ちはできているのだからと。
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