「全国の書店員が<いちばん!売りたい本>」として選んだ、
2016年、本屋大賞受賞作「羊と鋼の森」を読み終えました。
以下は小説の始まりの幾つかの一節の引用です。
森の匂いがした。秋の、夜に近い時間の森。風が木々を揺らし、
ざわざわと葉の鳴る音がする。夜になりかける時間の、森の匂い。
目の前に大きな黒いピアノがあった。その人が鍵盤をいくつか叩くと、
蓋の開いた森から、また木々の揺れる匂いがした。
夜が少し進んだ。僕は十七歳だった。
僕はピアノの音が少しずつ変わっていくのを、そばで見ていた。
秋の、夜、だった時間帯が、だんだん狭く限られていく。
静で、あたたかな、深さを含んだ音。そういう音がピアノから零れてくる。
「ここのピアノは古くてね」「とてもやさしい音がするんです」
その人は話し始めた。
調律師として音を追い求めていく少年。
先輩らの音を聴き、ピアノ少女姉妹との出会いを通じて、
成長していく過程が、静謐で美しい文章で綴られる。
久しぶりに手にした文芸書に心地よい時間を過ごしました。