写真は昆明駅前にて。駅左には列車よりもはるかに雲南各地へのルートをもつバスの旅客ターミナルがある。列車の魅力はトイレがあることと、沸かし立てのお湯が飲み放題であること、そして他省へ確実につながる長距離ルートがある点だ。
【戸籍がない!】
「そんなの、山東省で死亡届のあった人を洗い出せばいいんじゃないの」
と、考えるのは素人のあさはかさ。山東省付近で誘拐された女性を「妻」とした夫の捜索をするとしても、中国ではコトはそう簡単には運ばない。しかもその男性には身寄りがない様子。もしかすると戸籍にすら入っていない可能性がある。
近年、雲南省でも村単位で戸籍から抜け落ちている地域が「発見」され、話題になることもある国なので、人一人の捜索も、日本式の捜査方法では進まないようなのだ。
野人伝説をご存じだろうか。今でも中国のテレビ番組では好んで特集されているが、毛むくじゃらの孫悟空のような野人がいまでも山深くに棲んでいる、というのだ。
番組では村人の目撃情報をもとにスタッフが山中に分け入り、ときに野人の存在を科学的に検証しようと試みる。湖北省神農架では目撃情報が相次ぎ、実際に1976年と80年には中国科学院によって大規模な科学的調査も試みられている。
古くは東晋時代の『捜神記』などにも出てくるほど、中国ではポピュラーな伝説なのだが、それらが信じられる余地があるほど、中国には前人未踏のミステリアスな場所がまだまだ残されているのだろう。
【危険な昆明駅】
誘拐の舞台に頻繁にあらわれる「昆明駅」に行ってみた。2005年春に改装された総面積約2万7000平米のガラス張りの建物で、入り口正面の広場には電子音楽に合わせて吹き出す噴水設備がある。
大きな荷物を持ってうろうろする人々と、その人達のために焼き餅などの「小吃(シャオチー)」を売ろうとする不法屋台がひしめき合い、ひとまず1元で腹を満たそうという人々が串を片手にむさぼっている。
出稼ぎ風の人々やいかがわしい人々も回遊し、駅前で途方に暮れてたたずむ田舎から出てきたばかりの少女も目に付いた。
列車駅のすぐ隣はバスのターミナルだ。ひっきりなしにほこりっぽいバスが雲南各地へ向けて出発し、到着便にも好奇心に目を凝らした若者が必ず1人は乗っているという案配。スリや乞食も多く、さまざまな勧誘の声が呼びかい、ただ立っているだけでも緊張を強いられる場所。様々なエネルギーが交錯する雲南の玄関口なのである。
私はよほどの用事がないかぎり怖いので、昆明駅付近には近づかなかったが、駅近くに集中する中上級ホテルを利用する日本人観光客が、フワフワと雲南の土産物を求めつつ歩く様子には、ときにハラハラさせられた。
ときに日本人もスリにあう、ここはまぎれもなく犯罪の舞台なのである。
2007年6月16日、山西省臨汾市洪洞県の複数のレンガ工場で、誘拐された子供たち1000人以上が強制労働させられていた、という衝撃の事件が日本でも大きく報じられた。いまだ中国各地で誘拐事件が続いている証拠だ。
その多くは、一部の警察関係者の善意によって救出されるか、黙殺されるか、のどちらかしかない。犯罪の根深さの前に警察も脱力感に襲われてしまうのかもしれないが、根本的な解決には、今しばらく時間がかかる、という予感はぬぐえない。
昆明の繁華街で見かける、手足のない成人した乞食や、乳飲み子まで利用する乞食集団も、警察も手を焼く大規模組織の一端であることは、地元新聞を読めば分かる。でも、なにもできない。誘拐関係とも関係がありそうだ、という識者もいる。根の深さは底が知れない。 (この章 おわり)
【戸籍がない!】
「そんなの、山東省で死亡届のあった人を洗い出せばいいんじゃないの」
と、考えるのは素人のあさはかさ。山東省付近で誘拐された女性を「妻」とした夫の捜索をするとしても、中国ではコトはそう簡単には運ばない。しかもその男性には身寄りがない様子。もしかすると戸籍にすら入っていない可能性がある。
近年、雲南省でも村単位で戸籍から抜け落ちている地域が「発見」され、話題になることもある国なので、人一人の捜索も、日本式の捜査方法では進まないようなのだ。
野人伝説をご存じだろうか。今でも中国のテレビ番組では好んで特集されているが、毛むくじゃらの孫悟空のような野人がいまでも山深くに棲んでいる、というのだ。
番組では村人の目撃情報をもとにスタッフが山中に分け入り、ときに野人の存在を科学的に検証しようと試みる。湖北省神農架では目撃情報が相次ぎ、実際に1976年と80年には中国科学院によって大規模な科学的調査も試みられている。
古くは東晋時代の『捜神記』などにも出てくるほど、中国ではポピュラーな伝説なのだが、それらが信じられる余地があるほど、中国には前人未踏のミステリアスな場所がまだまだ残されているのだろう。
【危険な昆明駅】
誘拐の舞台に頻繁にあらわれる「昆明駅」に行ってみた。2005年春に改装された総面積約2万7000平米のガラス張りの建物で、入り口正面の広場には電子音楽に合わせて吹き出す噴水設備がある。
大きな荷物を持ってうろうろする人々と、その人達のために焼き餅などの「小吃(シャオチー)」を売ろうとする不法屋台がひしめき合い、ひとまず1元で腹を満たそうという人々が串を片手にむさぼっている。
出稼ぎ風の人々やいかがわしい人々も回遊し、駅前で途方に暮れてたたずむ田舎から出てきたばかりの少女も目に付いた。
列車駅のすぐ隣はバスのターミナルだ。ひっきりなしにほこりっぽいバスが雲南各地へ向けて出発し、到着便にも好奇心に目を凝らした若者が必ず1人は乗っているという案配。スリや乞食も多く、さまざまな勧誘の声が呼びかい、ただ立っているだけでも緊張を強いられる場所。様々なエネルギーが交錯する雲南の玄関口なのである。
私はよほどの用事がないかぎり怖いので、昆明駅付近には近づかなかったが、駅近くに集中する中上級ホテルを利用する日本人観光客が、フワフワと雲南の土産物を求めつつ歩く様子には、ときにハラハラさせられた。
ときに日本人もスリにあう、ここはまぎれもなく犯罪の舞台なのである。
2007年6月16日、山西省臨汾市洪洞県の複数のレンガ工場で、誘拐された子供たち1000人以上が強制労働させられていた、という衝撃の事件が日本でも大きく報じられた。いまだ中国各地で誘拐事件が続いている証拠だ。
その多くは、一部の警察関係者の善意によって救出されるか、黙殺されるか、のどちらかしかない。犯罪の根深さの前に警察も脱力感に襲われてしまうのかもしれないが、根本的な解決には、今しばらく時間がかかる、という予感はぬぐえない。
昆明の繁華街で見かける、手足のない成人した乞食や、乳飲み子まで利用する乞食集団も、警察も手を焼く大規模組織の一端であることは、地元新聞を読めば分かる。でも、なにもできない。誘拐関係とも関係がありそうだ、という識者もいる。根の深さは底が知れない。 (この章 おわり)