写真は白馬雪山のお花畑。奥にいるのがヤク。(2004年6月撮影)
【世界的映画賞を数々受賞】
久しぶりに映画を観ました。ドキュメンタリー『三姉妹 雲南の子』です。
現在、東京・渋谷のイメージフォーラム(http://www.imageforum.co.jp/theatre/)や大阪・梅田のガーデンシネマで上映中です。他地域も順次公開予定(詳しくはhttp://moviola.jp/sanshimai/theater.html)
雲南が舞台の映画はこれまでにもありましたが、雲南とはこんなもの、というフィルターごしにつくられているような作品が目立ちました。
ですが、この映画は文句なし、です。
監督は王兵。これまでも世界的な映画賞を数々受けていますが、当局の許可なく撮影しているため、中国で上映されたことはありません。本作品も2012年ベネチア国際映画祭オリゾンティ部門グランプリなど5つの映画祭で賞を獲っていますが、中国では観ることはできません。
場所は雲南省昭通地域の海抜3200メートルの山中にある洗羊塘村。経済発展の恩恵のない中国最貧困といわれる地域の一つです。
主人公はそこで暮らす3姉妹。両親は長い間不在。母親はゆくえ知れず、父親は出稼ぎ。3姉妹は家畜を世話しながら一つ家でほぼ独立した生活を送っています。近くに父方の親戚が住み、時折、一緒にごはんを食べさせてもらっています。
10才、6才、4才と、野坂昭如の小説『火垂るの墓』なみの低年齢きょうだいですが、彼女たちは生き続けます。王兵監督が偶然、出会った2年前に、すでに長女が下の子たちの面倒を見て暮らしていたそうです。つまり8才が2才を育てていたのです。
日々の暮らしが節度を持って撮影されているだけなのに、退屈しません。村の会議があったり、お父さんが出稼ぎから一時帰宅したりと日々は動いているのです。
さて3人の食事は主に黒くひしゃげた鍋で蒸したジャガイモだけ。そして生活して、遊ぶ。どんな時も遊ぶ。パンフレットには有名人の感想がいくつも書き連ねてありましたが、どんなに熟慮された言葉も陳腐に思えるほど、映像の向こうにある現実は圧倒的でした。
【自立したつよさ】
海抜3200メートル。私も似たような場所を通ったことがあります。6月。海抜2000メートルでは温かい日差しと焼けるような紫外線が降り注ぐ時でも、3200メートル地点は霧がかかり、寒く、別世界のようでした。しかも高地で空気が薄いため、私にも高山病の症状が出ました。ようやく来た春に一斉に芽吹いたのか、貧栄養の岩場に紫や赤、白などの小花が可憐に咲く自然のお花畑が印象的でした。
そびえる木にはフワフワとした白いコケが取り巻き、地元の牛・ヤクの放牧の行われている傍らにはヤクの毛皮で編み込まれた黒い三角テントがチラホラ。中では小さな子連れのチベット族と思われる家族が寄り添っていました。
あまりに幻想的すぎて同じ時空間に住んでいると、すぐには理解できないほどでした。映画では布団は干すどころか湿気すぎて気持ちが悪いベッド、靴もぐちゃぐちゃな様子が映されているのですが、あの気象状況ではそうなるでしょう。それほど厳しい環境なのです。
王兵監督も撮影中に高山病を発症し、以後は撮影スタッフに任せて下山したとか。
ちなみに3姉妹の父親の出稼ぎ場である通海県は昆明より南の、回族が多く暮らす野菜集積地です。父親は北方の小さな村から直通バスで400㎞以上も南下して行っていました。直通バスがあることに驚きましたが、それほど需要があるのでしょう。
通海に行くには昆明を通過するはずです。よく昆明の宿舎の周囲で陽に焼けた女性達が資源回収をしたり、ものを売ったりしていましたが、彼女たちの多くは、どんなときでも胸を張り、誇りに満ちていました。
なんでちょっと偉そうに思えるほどのパワーがあるのだろうと不思議でしたが、3姉妹もどんな時でも芯の強い誇りをオーラのようにまとっていたのです。これはどんな苛酷な環境でも自立して生きている誇りなのだ、と、この映画で根源的なものに触れたような気がしました。
*次週は更新はお休みします。
【世界的映画賞を数々受賞】
久しぶりに映画を観ました。ドキュメンタリー『三姉妹 雲南の子』です。
現在、東京・渋谷のイメージフォーラム(http://www.imageforum.co.jp/theatre/)や大阪・梅田のガーデンシネマで上映中です。他地域も順次公開予定(詳しくはhttp://moviola.jp/sanshimai/theater.html)
雲南が舞台の映画はこれまでにもありましたが、雲南とはこんなもの、というフィルターごしにつくられているような作品が目立ちました。
ですが、この映画は文句なし、です。
監督は王兵。これまでも世界的な映画賞を数々受けていますが、当局の許可なく撮影しているため、中国で上映されたことはありません。本作品も2012年ベネチア国際映画祭オリゾンティ部門グランプリなど5つの映画祭で賞を獲っていますが、中国では観ることはできません。
場所は雲南省昭通地域の海抜3200メートルの山中にある洗羊塘村。経済発展の恩恵のない中国最貧困といわれる地域の一つです。
主人公はそこで暮らす3姉妹。両親は長い間不在。母親はゆくえ知れず、父親は出稼ぎ。3姉妹は家畜を世話しながら一つ家でほぼ独立した生活を送っています。近くに父方の親戚が住み、時折、一緒にごはんを食べさせてもらっています。
10才、6才、4才と、野坂昭如の小説『火垂るの墓』なみの低年齢きょうだいですが、彼女たちは生き続けます。王兵監督が偶然、出会った2年前に、すでに長女が下の子たちの面倒を見て暮らしていたそうです。つまり8才が2才を育てていたのです。
日々の暮らしが節度を持って撮影されているだけなのに、退屈しません。村の会議があったり、お父さんが出稼ぎから一時帰宅したりと日々は動いているのです。
さて3人の食事は主に黒くひしゃげた鍋で蒸したジャガイモだけ。そして生活して、遊ぶ。どんな時も遊ぶ。パンフレットには有名人の感想がいくつも書き連ねてありましたが、どんなに熟慮された言葉も陳腐に思えるほど、映像の向こうにある現実は圧倒的でした。
【自立したつよさ】
海抜3200メートル。私も似たような場所を通ったことがあります。6月。海抜2000メートルでは温かい日差しと焼けるような紫外線が降り注ぐ時でも、3200メートル地点は霧がかかり、寒く、別世界のようでした。しかも高地で空気が薄いため、私にも高山病の症状が出ました。ようやく来た春に一斉に芽吹いたのか、貧栄養の岩場に紫や赤、白などの小花が可憐に咲く自然のお花畑が印象的でした。
そびえる木にはフワフワとした白いコケが取り巻き、地元の牛・ヤクの放牧の行われている傍らにはヤクの毛皮で編み込まれた黒い三角テントがチラホラ。中では小さな子連れのチベット族と思われる家族が寄り添っていました。
あまりに幻想的すぎて同じ時空間に住んでいると、すぐには理解できないほどでした。映画では布団は干すどころか湿気すぎて気持ちが悪いベッド、靴もぐちゃぐちゃな様子が映されているのですが、あの気象状況ではそうなるでしょう。それほど厳しい環境なのです。
王兵監督も撮影中に高山病を発症し、以後は撮影スタッフに任せて下山したとか。
ちなみに3姉妹の父親の出稼ぎ場である通海県は昆明より南の、回族が多く暮らす野菜集積地です。父親は北方の小さな村から直通バスで400㎞以上も南下して行っていました。直通バスがあることに驚きましたが、それほど需要があるのでしょう。
通海に行くには昆明を通過するはずです。よく昆明の宿舎の周囲で陽に焼けた女性達が資源回収をしたり、ものを売ったりしていましたが、彼女たちの多くは、どんなときでも胸を張り、誇りに満ちていました。
なんでちょっと偉そうに思えるほどのパワーがあるのだろうと不思議でしたが、3姉妹もどんな時でも芯の強い誇りをオーラのようにまとっていたのです。これはどんな苛酷な環境でも自立して生きている誇りなのだ、と、この映画で根源的なものに触れたような気がしました。
*次週は更新はお休みします。