

写真はタイ・バンコクの市場で売られていた中国料理の高級食材となるツバメの巣。おわんのような形をびっちりと重ねて並べ、丸いケースに収められて売られていた。
【ツバメの種類が違った!】
これだけツバメの巣採りがさかんな地域なら中国料理の高級食材であるツバメの巣の産地として昔から有名だったに違いない、ことに西太后もよく食されていた珍味なので選ばれればさぞかし! と考えるのは自然でしょう。
中でもより珍重されたのが赤い巣で、これは岩石からの鉄分が含まれる場所で採取されるものなのだとか。となると、赤い大地の雲南の、建水にある燕子洞のツバメの巣は、一級品まちがいなし、と、地方志などを紐解いては調べたのですが、そのような記述は見あたりませんでした。
結論からいうと、ツバメにも様々いて、巣も様々なものがあったのでした。
我々がよく知る日本の軒先で見かける巣は泥や草、ワラを唾液で捏ねて作ったもの。これは、常識的に考えて、とてもじゃないけど食べられそうにありません。この巣はスズメ目ツバメ科のツバメのものです。
一方、食用の巣は海沿いに生息するジャワアナツバメ(インドショクヨウアナツバメなどと呼ばれる)がつくるもの。アナツバメの巣は、ほぼ巣全体がオスの唾液腺の分泌物でできているのだそうです。
この唾液は、れんこんや魚の粘膜などに含まれる「ヌルッ」とした感触が特徴のムチンが主成分。それにシアル酸という、人間の初乳などに多く含まれる、ウイルスが体内に入るのを防ぐ効果があるとされる物質が含まれています。近年ではこれらの薬用効果も注目を集める理由となっているようです。
この、食用の巣を作る、小さな痩せたツバメが属するのがアマツバメ目アマツバメ科。生物学の分類で目の段階から系統が違うのですから、巣の性質がまったく違うのも当然といえます。
以前、日本のツバメの巣を見ながら、
「中国の人はツバメの巣を食べるというけど、一体、どうやって食べるんだろう」と思っていましたが、ものが違うというわけですね。
そして残念ながら昆明周辺の富民や、雲南省中西部の建水のツバメの巣は、日本のツバメの巣に近く、泥や草を唾液腺で固めたもので食用には、まず不向きなものなのでした。
民国期に書かれた羅養儒著『雲南掌故』には、この地で採れるツバメの巣を「土燕窠」と呼び、「肉薄く、形も小さく、色も白くなく、なによりまずい。たいていの人は緬燕(東南アジア産のツバメ)の巣で腹を満たす」と書かれています。
では雲南のツバメの巣を採取してどうしているのかというと、昔から美肌効果のある泥パックとして人気があるのだそう。日本でいうところの「うぐいすのフン」のようなものでしょうか?
(つづく)