写真はソパ・デ・オンゴス(sopa de hongos)。黒いマッシュルームのようなキノコがいっぱい入ったキノコのスープ。雲南で食べた野性味あふれるキノコと似た味わい・こちらは辛みはまったくなく、塩、胡椒で味を付けたようなスープ。ややしょっぱめ。乾期のおわりのキノコなので乾燥キノコを戻したものかもしれない。
店の名前はピザ屋でショットバーのような町角の店でピンクの照明がともるお店。
【和風の調味料にメキシコの香りが消える?】
前回、日本の昆布だしなどを合わせると、同じグルタミン酸という旨み成分を持つメキシコのトウガラシの旨みと打ち消し合って、結局、昆布だしオンリーの料理と変わらぬ和風の味わいになるといったことを書きました。
すると、イノシン酸など別の旨み成分と合わせると、旨みが増すという法則についてはどうか、とのお問い合わせをいただきました。
じつは旨み成分にはいくつかあり、日本の食材のだしの中で、昆布はグルタミン酸、かつお節やイノシン酸、干ししいたけはグアニル酸という旨み成分を含んでいます。こうした別の種類の旨みを合わせると旨みの相乗効果が生まれる、というものです。
メキシコのトウガラシは、この旨みのうちのグルタミン酸がとくに多いので、同じグルタミン酸の豊富な昆布だしではなく、イノシン酸の豊富な椎茸だしなら、旨みを相殺するどころか、相乗効果で旨みが増すのでは、といったことかと思います。
メ キシコではイノシン酸を含む肉が、旨みの相乗効果を自然に引き出している、ということになります。
たしかに旨みの相乗効果で干し椎茸なら理論上では旨みはふくらむのですが、なぜか、メキシコのトウガラシの、日本にはない、独特のすてきな香りが、干し椎茸の香りにかき消されて、もったいないことに目立たなくなってしまうのです。
どうやらこれには、味噌やしょうゆといった、味の決め手となる日本の調味料が持つ、これまた独特の香りに融け込みきって、最終的に存在がかき消されてしまうようなのでした。
逆に、和の食事から離れて、メキシコで食べた料理を再現する方向の料理、たとえばトマトベースやコンソメベースでスープをつくると、メキシコの燻製されたトウガラシが、見事に味を支えてくれるのが実感できました。
つまり、日本料理にメキシコの手間をかけたトウガラシを使うのはもったいないなあ、と感じた次第なのでした。
(つづく)