ベルリンの高級ブティックのある、日本でいえば銀座のような通りにも直結し、地下鉄の駅にもほど近い便利な三つ星のホテル オイローパシティ。通りの建物は、いずれも古風な風格にあふれ、ベルリンの雰囲気を味わうことができる。
人々は一見、都会風なよそゆきの風情だが、人が倒れたりすると、すぐにだれかが気づいて駆けつけ、集まった人が見事な連携プレーで、救急車を呼んだりと、スタイリッシュの中にある、下町風あたたかさを随所で感じた。
【不思議な朝食】
ベルリンには3泊しました。ちょっとぜいたくな旅の楽しみの一つはホテルの朝食。さて、朝、おなかがすいたと会場に向かうと、なぜか殺伐とした空気に包まれていました。
忙しそうなサラリーマン風背広を着た二人連れの男性は表情もなく無言で食べ物を口に運んでいます。
入れ墨の入った中東風の顔立ちの丸っこい男性二人もひたすら機械的に食べ物を口に詰め込んでいます。
下がピンクのぱっつんぱっつんのスパッツに花柄の長袖シャツを着た、白と灰色が入り交じった長髪を無造作に後ろに束ねた、やや皺顔の女性は、薄切りパンがいっぱい入った袋を片手に戦闘的に前を見据えて食べ続けています。
「袋にいっぱいパンを詰めちゃって。配膳コーナーからお昼用にちょろまかしてきちゃったのかしら」
なんとなく、ブレーメンに続いてこれまたミヒャエル・エンデの小説『モモ』の世界を彷彿とさせます。
ベルリンではホテルが取れなさすぎて、ホテルのランクを下げたとはいえ、ずいぶん人の雰囲気が変わるものだ、と、なかば呆れつつバイキングの列に並びました。
【バイキングの列へ】
壁際には、お皿からはみ出る丸パンや、温かいコーヒー、それなりの品数の料理の数々に
「けっこう豪華そう」
と一緒にいった人たちは目を輝かせました。
さて、大皿を持って料理の前に行き、日本のお弁当の定番・タコさんウインナーやきゅうりやパプリカのピクルス、トマトとレタスとキュウリのサラダ、炒り卵、ハム、プロセスチーズ、丸い形の白パン、ミルク、オレンジジュース、コーヒーを取って空いている席へ。
さあ、食べるぞ、と気合いを入れ、まずは飲み物から。
ミルク、うすい。
オレンジジュース、たんなる色のついた水。
コーヒー、なぜか大量の油が浮いている。
ピクルス、野菜丸ごと一個のものしかないので、セルフで薄く切って食べるしかない、という新鮮な体験。
炒り卵、しょっぱい、どころか卵の味が遠く、豆腐が半分以上、入っているかのような不思議な食感。ソーセージは、本場のはずのドイツで奇跡のような、香りのなさ。
パン、ああ、これは、なつかしの、小学校時代にお世話になった市内1万人以上の子ども向けに一斉に配給していた給食センターの、あの、うまみのない、ぱっさぱさの、コッペパン。
そうだ、なんにも手をいれていない、ただ切っただけのサラダを食べようと、トマトとレタスのキュウリのサラダを手に取ると、新鮮さのかけらもない、しなびた味。せめて、果物があれば、と目を凝らしても、ぜいたくなのぞみなのか、ありませんでした。
こと、ここにいたって気づきました。朝食会場の人たちの表情や行動は必然だったのだと。
おばさんの、片手につかんでいた薄切りパンは、朝食のあまりのまずさの自衛策として、パンを自分で買って持ち込んだものだったのだと。
そう気づいて、新たな気持ちでおばさんを見ると、カマンベールとか贅沢なもののないチーズでも、ふやけた味のハムでも、とにかく無造作にパンに載せて、飲み物で流し込んでいます。
とにかく、全然楽しそうじゃないことは確かです。
(つづく)
人々は一見、都会風なよそゆきの風情だが、人が倒れたりすると、すぐにだれかが気づいて駆けつけ、集まった人が見事な連携プレーで、救急車を呼んだりと、スタイリッシュの中にある、下町風あたたかさを随所で感じた。
【不思議な朝食】
ベルリンには3泊しました。ちょっとぜいたくな旅の楽しみの一つはホテルの朝食。さて、朝、おなかがすいたと会場に向かうと、なぜか殺伐とした空気に包まれていました。
忙しそうなサラリーマン風背広を着た二人連れの男性は表情もなく無言で食べ物を口に運んでいます。
入れ墨の入った中東風の顔立ちの丸っこい男性二人もひたすら機械的に食べ物を口に詰め込んでいます。
下がピンクのぱっつんぱっつんのスパッツに花柄の長袖シャツを着た、白と灰色が入り交じった長髪を無造作に後ろに束ねた、やや皺顔の女性は、薄切りパンがいっぱい入った袋を片手に戦闘的に前を見据えて食べ続けています。
「袋にいっぱいパンを詰めちゃって。配膳コーナーからお昼用にちょろまかしてきちゃったのかしら」
なんとなく、ブレーメンに続いてこれまたミヒャエル・エンデの小説『モモ』の世界を彷彿とさせます。
ベルリンではホテルが取れなさすぎて、ホテルのランクを下げたとはいえ、ずいぶん人の雰囲気が変わるものだ、と、なかば呆れつつバイキングの列に並びました。
【バイキングの列へ】
壁際には、お皿からはみ出る丸パンや、温かいコーヒー、それなりの品数の料理の数々に
「けっこう豪華そう」
と一緒にいった人たちは目を輝かせました。
さて、大皿を持って料理の前に行き、日本のお弁当の定番・タコさんウインナーやきゅうりやパプリカのピクルス、トマトとレタスとキュウリのサラダ、炒り卵、ハム、プロセスチーズ、丸い形の白パン、ミルク、オレンジジュース、コーヒーを取って空いている席へ。
さあ、食べるぞ、と気合いを入れ、まずは飲み物から。
ミルク、うすい。
オレンジジュース、たんなる色のついた水。
コーヒー、なぜか大量の油が浮いている。
ピクルス、野菜丸ごと一個のものしかないので、セルフで薄く切って食べるしかない、という新鮮な体験。
炒り卵、しょっぱい、どころか卵の味が遠く、豆腐が半分以上、入っているかのような不思議な食感。ソーセージは、本場のはずのドイツで奇跡のような、香りのなさ。
パン、ああ、これは、なつかしの、小学校時代にお世話になった市内1万人以上の子ども向けに一斉に配給していた給食センターの、あの、うまみのない、ぱっさぱさの、コッペパン。
そうだ、なんにも手をいれていない、ただ切っただけのサラダを食べようと、トマトとレタスのキュウリのサラダを手に取ると、新鮮さのかけらもない、しなびた味。せめて、果物があれば、と目を凝らしても、ぜいたくなのぞみなのか、ありませんでした。
こと、ここにいたって気づきました。朝食会場の人たちの表情や行動は必然だったのだと。
おばさんの、片手につかんでいた薄切りパンは、朝食のあまりのまずさの自衛策として、パンを自分で買って持ち込んだものだったのだと。
そう気づいて、新たな気持ちでおばさんを見ると、カマンベールとか贅沢なもののないチーズでも、ふやけた味のハムでも、とにかく無造作にパンに載せて、飲み物で流し込んでいます。
とにかく、全然楽しそうじゃないことは確かです。
(つづく)