石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

イランの石油・ガスをめぐる日本とインドのプロジェクトの行方(2)

2006-01-05 | 海外・国内石油企業の業績

(その1)「アザデガン油田の開発問題」

(その2)「イランとインドの天然ガスパイプライン」及び「むすび」

  昨年末にテヘランで2日間にわたりイラン・インドのエネルギー担当実務者レベルの会合が行われ、イランからパキスタンを経由してインドに至る全長2,800KM、総額80億ドル規模のパイプライン建設事業について合意に達した。イランのHosseinian副大臣はDow Jonesの取材に対し、2011-12年には天然ガスの搬送が始まるとの見通しを示した。輸入量はインド6千万立方米/日(以下CMD)、パキスタン3千万CMDの予定である。

  これに先立つ7月にはインド・パキスタンの二カ国協議がニューデリーで行われており、イラン-パキスタン-インドを結ぶ天然ガスパイプライン事業は着々と具体化に向かっている。インドとパキスタンはカシミール領有問題を巡ってこれまで幾度となく軍事衝突を繰り返してきたが、最近の両国関係は良好であり、特にパキスタン北部地震の復旧作業では相互の支配地域の自由往来が実現するなど、関係改善の機運が盛り上がっている。

  近年インドは目覚しい経済成長を遂げており、そのエネルギー需要を賄うため石油、天然ガスの輸入が急増している。BP統計で1994年と2004年を比較すると、1994年の石油と天然ガスの消費量は各々141万B/D、45百万CMDであったものが、2004年には256万B/D、88百万CMDである。10年間で石油、天然ガスともほぼ倍増しているのである。これに対して国内の生産量は1994年が石油71万B/D、天然ガス45百万CMDであったものが、2004年には石油82万B/D、天然ガス81百万CMDであり輸入の割合が高まっている。

   天然ガスについて見ると1994年には完全自給であったものが、2004年にはその一部を輸入が占めている。今後も国内経済の高度成長が続くことは間違いなく、アイヤール石油相は2025年の天然ガス需要が4億CMDに達する見込みであると述べている。既に液化天然ガス(LNG)として2004年にカタールから年5百万トンの輸入が始まっており、将来1千万トンまで引き上げられる予定である。インドはカタールとの更なる関係強化を目指しており、昨年4月にカタール首長がインドを訪問した際に両国は戦略的パートナーシップとなることに合意している(因みにカタールが仏製中古ミラージュ戦闘機12機をインドに売却すると言う契約も同時に行われている)。また、同年6月にはインドはイランともLNG輸入契約を締結した。これは年間5百万トンのLNGを2009年から25年間輸入(総額220億ドル)する大型契約である。

  そして今回のパイプラインにより2025年に4億CMDと予測される天然ガス需要に対処しようというのがインドの目論見である。インドが陸続きの他国から天然ガスをパイプラインで輸入することを検討し始めたのは新しいことではない。しかし近隣の天然ガス産出国はイランや中央アジアであり、パイプラインはパキスタン或いはアフガニスタンを通過しなければならない。特にパキスタンとは犬猿の仲であったためパイプライン構想は実現困難とされてきた。インドが巨額の投資を必要とするLNGとして輸入せざるを得ないのはこのためである。ところが最近インド-パキスタン関係が雪解けの気配を見せたことにより、パイプラインによるイランからの天然ガス輸入がにわかに現実味を帯びてきた。インドにとって千載一遇のチャンスが巡ってきたと言うべきであろう。

  しかしここにきて新たな障害が立ちはだかった。それは米国である。イランを「ならずもの国家」と断定する米国は核疑惑問題を取り上げ、国連を通じた国際的な経済制裁を強化している。このような米国から見るとイラン-パキスタン-インドのパイプライン敷設はイランに対する利敵行為と映る。昨年3月にインドを訪れた米国のライス国務長官も、インドがイランからエネルギーを輸入することには如何なる形であろうとも反対する、との強い警告を行っている。

むすび

 日本とインド両国にとってエネルギーの安定確保は至上命題であり、石油と天然ガスいずれも世界第二位の埋蔵量を誇るイランは経済的に最も重要な国の一つである。と同時に日本は極東アジアの安全保障問題を抱え、またインドもカシミール、アフガニスタン、中央アジア諸国の紛争等の問題があり、両国共米国との同盟関係は外交的な最優先課題である。

  このような中でインドは状況を慎重に見極めつつも自国の経済発展を最も重要な政策課題と位置づけ、そのためのエネルギー確保の一手段としてイランとのパイプライン建設実現に強い決意を見せている。日本としても腹を据えてアザデガン油田の開発に取り組む必要があろう。

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