石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

OPECとBPの石油統計を比較すれば------(1)

2009-07-29 | 今週のエネルギー関連新聞発表

(注)本シリーズはHP「中東と石油」で一括全文をご覧いただけます。

はじめに

 BPが6月に公表したエネルギー統計資料「BP Statistical Review of World Energy 2009」については、既に「石油篇」、「天然ガス篇」及び「石油+天然ガス篇」としてその概要をお知らせしましたが(*1)、7月にOPEC(石油輸出国機構)から「Annual Statistical Bulletin」(ASB)がインターネットで公開されました(http://www.opec.org/library/Annual%20Statistical%20Bulletin/ASB2008.htm)。

   ASBはOPEC加盟国(*2)の経済エネルギー統計を中心にとりまとめたものである。マクロ的な数値については両者の統計に大きな差は無いが、国別に比較するといくつかの差異が見られる。これは民間企業のBPと石油生産国のOPECという両者の性格の違いによるものと考えられる。

  OPECとBPの石油統計を比べて両者の違いを示すことが本稿の目的であるが、同時にOPEC加盟国の将来の石油輸出可能量を検証することがもう一つの目的である。これまではOPEC総会決議としての生産枠の変更、即ち生産量の増減に焦点が当てられているが、現実にはOPEC加盟国自身の石油消費量が増えており、その結果各国の生産量から消費量を差し引いた輸出可能量が減少しつつあることが懸念される。OPEC即ち「石油輸出国機構」とは生産量で世界の石油需給に影響力を及ぼしているわけではなく、その影響力は輸出可能量にあるはずだからである。

  なお本稿はOPECとBPの統計の誤差の理由を探るものではない。それは筆者の力の及ばないことであり、筆者が本稿で強調したいのは一つの統計だけを鵜呑みにすることの危険性である。

  統計数値は得てして客観的で絶対的なものと考えがちである。しかしエネルギーという戦略的な商品の場合、公表される統計数値にはしばしば編纂者(BPの場合は同社自身、OPECの場合はデータを提供する各加盟国)の意図が介在していることは否定できないであろう。二つの統計を比較することにより、編纂者の意図を読者自身であぶり出していただくことが本稿の本当の目的である。

(*1)BP資料のレポートはHP「中東と石油」の下記URLでご覧いただけます。

・BPエネルギー統計2009年版:石油+天然ガス篇

・BPエネルギー統計2009年版天然ガス篇

・BPエネルギー統計2009年版石油篇

(*2)OPEC加盟国について

 2007年にアンゴラとエクアドルがOPECに加盟した結果(エクアドルは再加盟)、2008年のOPEC加盟国の数は、それまでの11カ国(アルジェリア、インドネシア、イラン、イラク、クウェイト、リビア、ナイジェリア、カタール、サウジアラビア、UAEおよびベネズエラ)に加えて13カ国となった。従って以下に言及するASB(OPEC)およびBPの埋蔵量、生産量等の数値はこれら13カ国の合計値である。また過去に遡るデータについてもこの13カ国の合計値であり、必ずしもその時々のOPEC加盟国の合計値ではない。 なおインドネシアは昨年末でOPECを一時脱退したため、現在のOPEC加盟国数は12カ国である。

1. 石油埋蔵量の比較

(表「石油埋蔵量」(http://menadatabase.hp.infoseek.co.jp/1-D-2-93OilReserveOPECvsBP.htm)参照)

  OPEC統計による全世界の石油埋蔵量は1兆2,951億バレルであり、これに対してBP統計では1兆2,580億バレルとされており、両者の差は2.9%(371億バレル)とさほど大きくない。しかしこれをOPECと非OPECそれぞれで見ると、OPEC統計ではOPEC13カ国の埋蔵量合計は1兆274億バレルに対し、BP統計では9,558億バレルであり、OPEC統計の方が716億バレル多い。

  一方、非OPECの埋蔵量合計はOPEC統計では2,667億バレルに対し、BP統計は3,022億バレルであり、逆にBP統計のほうが非OPEC諸国の埋蔵量は多い。これを比率で見ると、OPEC統計では全世界の埋蔵量に占める割合は、OPEC79.3%、非OPEC20.7%であるが、BP統計ではOPEC76.0%、非OPEC24%である。つまりOPECは加盟国の埋蔵量シェアが全世界の5分の4を占めているとするのに対し、BP統計ではOPECのシェアはそれより低いと見ていることになる。

  上図はOPEC、BPの両統計について1980年以降のOPEC埋蔵量のシェアをプロットしたものであるが、いずれの年もOPEC統計の方がシェアは1~3ポイント高い。そして1986年から2005年までは両統計のOPECシェアには殆ど差が無かったが、2006年以降、BP統計のOPECシェアが変化していないのに対して、OPEC統計では世界の埋蔵量に占めるOPECのシェアが年々上昇している。そして2008年のシェア79.3%は、統計値としては過去最大となっている。

  これらのことはOPECが埋蔵量に関して自分たちの重要性を主張しているという見方もできるであろう。

(続く)

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前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601

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