石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

(速報)ガス輸出国フォーラム(GECF)オラン閣僚会議について

2010-04-22 | 今日のニュース

 4月19日、アルジェリアのオランで第10回ガス輸出国フォーラム(Gas Exporting Countries Forum, 略称GECF、末尾注参照)の閣僚会議が開催された。天然ガス価格の問題が会議の主要議題であり、石油価格と連動させた価格方式を導入するための作業部会を設置することが決定された 。

   天然ガスの需給は長期契約が主流で短期のスポット契約は少ないが、現在の価格は長期物で100万BTU(British Thermal Units)当たり7-8ドル、スポット物では4ドル程度と言われる。これに対し原油価格はバレル当たり80ドル前後であり、これを100万BTU当たりに換算すると13-14ドルに相当する。このためガス輸出国の間には現行の価格水準に強い不満があり、今回の会議冒頭で議長のアルジェリア・エネルギー相は価格引き上げの為の生産削減を提案したほどである。

  但しカタールのアッティヤ副首相兼エネルギー相は会議直前の談話として、会議では生産削減の議論は行わないと釘をさしており、またロシアのシュマトコ・エネルギー相も会議の主な目的は妥当なガス価格を見出すことにあると述べている。このため会議では生産量削減問題は正式議題には取り上げられなかった。

  アルジェリアとロシアはガスパイプラインを通じてヨーロッパが消費する天然ガスの40%を供給している。両国が天然ガスの供給者として共同歩調をとりガス価格の引き上げを狙えば西欧各国にとって大きな脅威になることは間違いない。ロシアからのパイプラインによる天然ガスの供給については、これまでロシアとウクライナ間の交渉が暗礁に乗り上げ、ロシア側がガスの供給を停止した例が一度ならずある。このため西欧各国は両国の交渉に多大の関心を抱いている。

  今回はGECFが本格的な体制を整えた最初の閣僚会議である。加盟各国が原油価格に比べてガス価格が安すぎると考えていることは間違いない。彼らは原油にリンクしたガス価格体系を樹立するための理論武装を開始した。近い将来GECFは価格引き上げの具体的な戦略を打ち出すものと考えられる。GECFが「ガス版OPEC」に変身する日はそう遠くなさそうである。

(注)

GECFは2001年にイラン、ロシア、カタール、アルジェリアなど世界の主要な天然ガス輸出国によって結成されている。当初は規約、メンバー資格、常設本部組織も無く毎年各国持ち回りで会議を開いていたが、2008年の第7回会議でカタールのアッティヤ副首相兼エネルギー相が議長に選出され、翌2009年にカタールのドーハに本部(事務局長:レオニード・ボハノフスキー、ロシア)が開設された。

  GECFの正式メンバーはアルジェリア、ボリビア、エジプト、エクアトール・ギニア、イラン、リビア、ナイジェリア、カタール、ロシア、トリニダード・トバゴ、ベネズエラの11カ国であり、このほかブルネイ、インドネシア、カザフスタン、マレーシア、オランダ、ノルウェー及びUAEがオブザーバーとして会議に適宜参加している。

以上

本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601

Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642

E-mail; maedat@r6.dion.ne.jp

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OPEC50年の歴史をふりかえる(3)

2010-04-22 | OPECの動向

(注)本シリーズ1~9回は「MY LIBRARY(前田高行論稿集)」に一括掲載されています。

3.OPECと原油価格

(図:「原油年間平均価格の推移」http://menadatabase.hp.infoseek.co.jp/2-D-2-97OilPrice1946-2010.gif参照)

 1960年に産油国がOPECを結成した動機は二つある。国際石油会社から石油価格及び油田の支配権を奪い取ることであった。  20世紀初めエクソン・モービル(当時はスタンダードオイル系二社)、ロイヤルダッチシェル、BPなどセブン・メジャーズと言われた国際石油会社が世界の石油産業の支配権を確立し、その構図は半世紀以上続いた。この間原油価格はバレル当たり1~2ドルの状態が長く続き第二次大戦直後の1948年は2.77ドルであった(因みにこの価格はインフレ係数で現在の価格に直すと25ドルに相当する)。その後1960年代前半には3ドル台に上昇したが、実はインフレ係数で見なおすと48年よりも低い20ドルすれすれだったのである。このような安い原油価格の恩恵を最大限に享受したのが日本である。

  一方の産油国は国際石油会社による増産によってわずかに収入を増やしたにすぎなかった。しかもインフレが昂進したため1957年以降産油国の実質的な収入は年々低下していった。それに追い打ちをかけたのが石油会社による公示価格の引き下げである。公示価格とはいわば石油会社が産油国から原油を買い取る基準価格ともいうべきものであり石油会社が一方的に決定するものであった。つまり原油価格の決定権は石油会社が握っていたのである。戦後不況により石油の需要が落ち込んだ1959年、石油会社は公示価格を一方的に引き下げた。これによって産油国の財政状態は一気に悪化し、産油国からは石油会社に対する怨嗟の声があがった。産油国は結束して石油会社に立ち向かう決心を固め、翌1960年、サウジアラビア、イラン、イラク、クウェイトの中東4カ国とベネズエラがOPECを立ちあげたのである。

  その後1970年はじめまでにOPEC加盟国は11カ国に増加しカルテルとして一大勢力となったが、国際石油会社セブンメジャーの力はなお強大であった。原油価格は3ドル半ばに抑え込まれOPECは利権料を経費化すると言った小手先の経理操作で実質収入の低下を防ぐのが精一杯であった。この間のOPECの成果はむしろリビアが口火を切った石油産業国有化の動きであろう(次回に詳述)。

  国有化の進展によりOPECと消費国が直接対峙する状況が生まれたが、OPEC構成国がアラブイスラム国家を中心とする開発途上国であり、一方の消費国が西欧先進国であったことから、OPECと消費国の対立はアラブ対西欧、イスラム対キリスト・ユダヤ教と言う文化的宗教的な対立の要素をはらむようになった。それが火を噴いたのが1973年の第四次中東戦争に端を発する「第一次オイルショック」である。同年10月6日にエジプトがイスラエルに攻め込むと(第四次中東戦争)、サウジアラビアのファイサル国王(当時)は直ちに参戦、同時に湾岸の産油国と共に原油価格を一方的に70%引き上げた(クウェイト宣言)。さらにOPECメンバーのアラブ産油国(OAPEC)に呼び掛けて、米国及びイスラエルの支持国に対する石油供給の削減を決定した(石油戦略発動)。本来純経済的な商品である石油が史上初めて武器として使用されたのである。

  その効果は絶大であった。それまで3ドル台にとどまっていた原油価格は翌年一挙に10ドルを超え、従来価格の3倍以上の水準になったのである(第一次オイルショック)。しかし実はOPECが市場原理を押さえて自らの力で価格を形成することができたのは後にも先にもこの時だけだった。

  1979年に第二次オイルショックが発生したが、これはOPECの有力メンバーであるイランでイスラム革命が勃発、同国の石油輸出がストップしたためであった。この時原油価格は最高40ドルまで急騰し、1980年の年間平均価格は37.4ドルに達した(インフレを加味した現在価格では98.5ドル)。しかしこれはOPECが演出した価格ではなくあくまで政治的なものである。

  1980年以降産油国でいくつかの戦争や内紛があった。産油国の紛争は石油価格が急騰する要因でありOPECとしてはその存在感をアピールするチャンスのはずである。しかし1980年から89年まで続いたイラン・イラク戦争、1991年の湾岸戦争及びソ連邦の崩壊、2003年のイラク戦争など産油国に直接関係した戦争や内戦が起こったが、石油価格の急騰は一時的なものにとどまりOPECがその存在感を示すことはなかった。

  むしろ80年代後半及び90年代後半の世界の景気後退に際してOPECは生産量削減と言う形で価格の下落を防ごうとしたが、「見えざる市場の手」に翻弄されカルテルとしての機能を果たすことができなかった。原油価格は1986年には14.4ドルに、また1998年には11.9ドルという破滅的な水準にまで落ち込んでいる。これはOPECが市場原理に対抗できないことを如実に示したものである。価格崩落によりOPEC内部の結束も乱れ、1986年の場合、自他共にOPECのリーダーと目されていたサウジアラビアのヤマニ石油相が失脚した。そして後者についてはナイミが新たにサウジアラビアの石油相となり産油国と消費国が協力関係を築く新たな時代を作りあげたのである。2004年以降、原油価格が急騰し2008年7月にはついに史上最高の147ドルとなったが、これは投機マネーが演出したものであり、OPECは消費国と同様むしろ振り回されただけである。

  つまり1973年の第一次オイルショックを除けばOPECが石油価格を支配できたことは一度もないのである。今でもOPEC総会が近づくと、価格に関するOPEC首脳の発言に対してメディアは派手に報道する。しかし本当のところOPEC首脳が表明する価格は彼らが望む価格水準を示しているだけであって、彼らにかつてのような価格決定力が無いことは誰の目にも明らかである。

(続く)

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前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601

Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642

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