石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

(連載)「挽歌・アラビア石油:ある中東・石油人の随想録」(9)

2013-05-01 | その他

2013.5.1

1980(昭和55)年、対岸の火事:イラン・イラク戦争勃発

 前年の1979年にイランで革命が発生、イスラム教シーア派のホメイニ師が最高指導者となった(イラン・イスラム革命)。テヘランでは米国大使館占拠事件が発生、それまでの米国とイランの関係は一転して最悪の状態となった(それは30数年後の現在も続いている)。革命の混乱の中で原油の輸出はストップ、BPなど国際石油会社は日本向けの供給量を削減した。加えてOPECは原油価格の大幅な値上げと石油産業の国有化を推し進めた結果、1973年に次ぐ「第二次オイルショック」が発生した。

 政治と宗教が一体化したイラン・イスラム共和国のホメイニ最高指導者はイラク南部からクウェイト、サウジアラビア東部およびバハレーンに住むシーア派住民にスンニ派君主国家の打倒を呼びかけた。イラクとバハレーンはシーア派が多数を占めているにもかかわらずスンニ派が支配しており、サウジアラビアではシーア派住民が少数派の悲哀を味わってきた。アラビア石油にもシーア派社員がいたが彼らは社内の昇進で差別され、隣近所の冷たい目に晒されてひっそりと暮らしていたのである。

 サウジアラビア王家はホメイニによるシーア派住民の扇動に危機感を抱いた。かつてのイランは米国のバックアップを受けた強固な軍事体制、いわゆる「ペルシャ湾の警察官」を自認する絶対君主体制で盤石であった。しかし反政府デモが燃え広がった時、米国はパーレビ―国王を支えず革命勢力のなすがままに、ただ手をこまねくだけであった。民主主義の盟主を自負する米国は「絶対君主制」のイランよりも「共和制」のイランが歴史の理に適っていると判断したわけであろう。米国が民主主義や共和制に対して過大な幻想を抱く傾向があることは最近の「アラブの春」におけるエジプトやチュニジアの例にも見受けられ、米国はその都度幻滅を味わわされるのであるが、イランの例はそのさきがけと言えよう。

 ホメイニの革命輸出宣言は湾岸の君主制国家に「イランの次は自分たちか?」と言う恐怖心を植え付けた。イラン以前にも第二次大戦後に中東・北アフリカ各地で王制が次々と倒れている。1952年にエジプトでナセル率いる自由将校団がアリー王朝を倒し、1958年にはイラクでバース党が当時のハーシム王家から権力を奪取、そしてリビアでは1969年にイドリス国王がカダフィー大佐の軍事クーデタで倒されている。そして今回のイラン革命。サウジアラビアなど湾岸の絶対君主制国家が「次は自分たち」と考えたのも無理はないのである。

 王制を打倒した勢力はエジプトの若手将校であり、イランの宗教勢力であった。サウジアラビアのサウド王家は国内の軍部と宗教の二大勢力に細心の注意を払った。それを支えたのは豊かなオイル・マネーだったが、二つの勢力に対する金の使い方は大きく異なっていた。軍に対しては給与や待遇を高めて彼らを懐柔し、或いは有力な部族長を通じて部族出身の若手将校を黙らせた。一方同じオイル・マネーを使って国内治安の元締めである内務省の秘密警察を拡充しシーア派を徹底的に監視弾圧したのである。それでも1980年代のサウジアラビアではリヤド爆弾事件(1985年)、メッカでのイラン巡礼団事件(1988年)など大規模な騒擾事件が次々と発生している。

 1980年9月、イランとイラクは戦闘状態に突入、その後8年に及ぶイラン・イラク戦争が始まった。主戦場となったファオなど南部国境地帯はカフジから200KMほどであり、決して遠い距離ではなく、時にはロケット砲の衝撃音が聞こえることもあったが、所詮はイランとイラクの戦争であり「対岸の火事」だという妙な安心感があった。サウジアラビア辺境の地カフジは騒乱とは縁遠い平穏な日々であった。

 1980年代はアラビア石油及びその社員にとってはきな臭く多難な時代になるのであるが、まずは平穏な幕開けであった。日本ではビートたけし(ツービート)、神介・竜介などの漫才ブームや原宿竹の子族がもてはやされた。日本も高度成長の名残の太平の時代であったと言えよう。

(続く)

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(連載)「挽歌・アラビア石油:ある中東・石油人の随想録」(9)

 

 

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