(注)本レポートは「マイライブラリー(前田高行論稿集)」で一括してご覧いただけます。
http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0287KajikiruQatar.pdf
エネルギー:LNGの販路開拓を焦るカタール
去る9月10日に東京で第2回LNG産消会議が開催され、冒頭に消費国及び生産国を代表してそれぞれ茂木経産相及びカタールのアル・サダ・エネルギー大臣が基調講演を行った。会議の目的はLNGの生産国と消費国が一堂に会し率直な議論を通じてLNG市場の健全な発展を図ることとされている 。しかし会議を主催した日本側の真の目的が高止まりしている日本向けLNG価格の引き下げであることは言うまでもない。
日本のLNG価格は原油価格に連動しており、また長期間の引き取り保証及び転売禁止と言う硬直的な契約である。日本が初めてカタールからLNGを輸入した1997年当時は原油価格が低迷しておりLNG生産国も数少なかったため、この契約方式は必ずしも日本にとって不利なものとは言えなかった。しかしここ数年LNGの市場環境に劇的な変化が生まれた。100ドルを超える高値が続く原油価格に連れて日本向けのLNG価格は高騰したが、シェールガス・ブームに沸く北米ではむしろ天然ガス価格は下落しており、現在両者の価格差は4倍に達する 。さらに世界各地にLNG輸出プラントが建設される一方、輸入設備を新設する消費国も増加した結果、LNG貿易が活発になりスポット取引も増えている。
(参考)「天然ガス価格の推移(2000~2012年)」http://members3.jcom.home.ne.jp/maedaa/2-5-G01.pdf
将来天然ガスが原油と同様市場商品(コモディティ)となることは間違いないであろうが、当面天然ガスは売り手市場である。売り手の最大の勝者は世界最大のLNG輸出量を誇るカタールであり、負け組は原発事故のあおりで高値のLNGを買う他ない日本であろう。LNG産消会議は生産国を巻き込んで現行の契約形態を改善し、あわよくば価格を引き下げようと言う日本の思惑の産物であり、会議に参加する天然ガス生産国を何とか協議のテーブルにつかせようとする魂胆は明らかである。
しかし現在の市況に120%満足しているカタールが日本の誘いに乗る訳はなく、同国のアルサダ・エネルギー相は会議でも産消双方が市場の秩序維持に協力すべきである、と紋切り型の演説に始まり、LNGの最大輸出国としてカタールは天然ガスの安定供給に寄与している、と自国のPRに余念がなかった。カタールは日本の誘いに乗って価格メカニズム変更を検討する気は毛頭なさそうだ。年産7,700万トンと言う世界最大のLNG生産設備を有し、これまた世界最大の54隻のLNG船隊を保有するカタールは横綱の風格でおっとりと構えている。
だがそのようなカタールにも少しずつではあるが逆風が吹き始めている。7,700万トンのLNGの販路開拓がままならなくなったのである。その最大の要因は米国のシェールガス革命と欧州の景気後退であろう。シェールガス革命を予想していなかったカタールは、Qatargasの第3期、第4期(年産各780万トン)およびRasGas第3期(トレイン6及び7、年産各780万トン)の仕向け先として当初米国を予定していた 。しかしカタールにとって米国はLNGの輸出先どころか競争相手になろうとしている 。また米国内の天然ガス増産で販路を失った石炭が欧州市場に向かい、あおりで欧州の天然ガスの需要がしぼんだ。直接的な影響を受けたのはロシアであるが、英国にLNG基地を新設し欧州への売り込みを本格化させようとしていたカタールの目論見も外れた。
LNGの残された有望市場は原発稼働ゼロの日本と今後も経済発展が見込める中国、インドなどのアジア・極東市場である。同地域は今後LNG販売の激戦区になることは間違いない。南からはオーストラリアが相次ぐ設備の新増設でカタールをしのぐ世界一のLNG輸出国を目指している。そして東からは米国のLNG輸出が始まろうとしており、さらに北のロシアはシベリア・サハリン産LNGの輸出を拡大している。
カタールはアジア市場でオーストラリア、米国、ロシアとの競争に直面し、これまでのような殿様商売は通じなくなりつつある。最近のニュースを見るとカタールがLNGの販売シェア維持のためやみくもに動き回っている気配がうかがえる。いくつかの例をあげると米国テキサスにLNGの輸出基地を建設することをExxonMobilと合意しており 、或いは近い将来LNG船団を年間25隻建造する予定があり 、シンガポールにLNG戦略輸出基地を設ける構想もある 。9月にはQatargasがマレーシアに来年から向こう5年間LNGを毎年114万トン供給する契約も交わされた。これは英国Milford HavenのLNG基地から供給されることになっている 。この契約にQatargasの事実上のオペレーターであるExxonMobilが深くかかわっていることは間違いないであろう。カタール産LNGの販売不振はExxonMobil本体の経営にも影響するはずだからである。と同時に英国基地を経由することによりLNGのダンピング輸出も十分考えられる。カタールの一連の動きはExxonMobilの入れ知恵であろう。殿様商売のカタールにはそのような高度な戦略的思考があるとはとても思えないからである。
(続く)
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