石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

(ニュース解説)内外に火種を抱えるOPEC-第164回総会を終えて

2013-12-07 | OPECの動向

 12月4日、第164回OPEC通常総会が開かれ、2年前に決定した加盟12カ国の生産枠3千万B/D(総量のみで国別生産枠は無し)を維持することで合意した。またバドリ事務局長(リビア出身)の任期をさらに1年間再延長すること及び次回総会を6月11日にウィーンで開催することを決定し3時間で会議を終えた。
(詳細はOPECプレスリリース参照:http://www.opec.org/opec_web/en/press_room/2685.htm )

 イランからはザンギャネ石油相が出席したが、同石油相は1997年から2005年まで石油相を務めた政策通であり穏健な石油政策はOPEC内部でも高く評価されていた。先のアハマドネジャド政権時代の石油相は石油の門外漢でありOPEC議長国として的外れな発言を繰り返したため、サウジアラビアのナイミ石油相が総会後に憤懣やるかたない感想を述べたこともあるが 、ベテランのザンギャネ石油相の登板により今回の総会は和やかな雰囲気であったと推測される。

 しかし現在のOPECは内外にいくつかの火種を抱えている。対外的には非OPEC産油国の生産増により世界的な石油の需給バランスに異変が生じた場合、現在100ドルを超えている石油価格(Brent及びWTI)が急落したり或いはOPECのシェアが低下する恐れがある。そして対内的にはイランに対する経済制裁措置が緩和され同国の石油輸出が回復した場合、OPEC生産量が3千万B/Dを大幅に超え石油価格が暴落する危険性もはらんでいる。

 火種の一つである非OPECの生産増とは即ち米国のシェールオイルである。シェール革命により米国の石油生産量は2008年の678万B/Dから2012年には891万B/Dに急増しており、自給率も33%から48%にアップしている(BPレポートによる) 。この結果、ベネズエラ、ナイジェリアの米国向け輸出が大きく落ち込んでいる。さらに天然ガス或いは石炭など同じ化石燃料との競合に晒され、石油自体に先行きの不安感が漂っている。これらが複合的に作用すれば石油価格は100ドルを割る可能性が高い。

 これらが外部の波乱要因とすれば内部の波乱要因は生産量をめぐるイランとイラクの確執及びOPEC全体を取り仕切る最大の産油国サウジアラビアを含む3カ国間の駆け引きである。実はOPECの生産枠3千万B/Dには国別枠が無く、加盟各国に生産量の上限はないのである。それでも今年6月の12カ国合計生産量は3,038万B/D 、11月のそれは2,964万B/D と3千万B/Dの枠を1%程度乖離しているに過ぎない。過去2年間このような微妙なバランスが保たれているのは、イラクとイランは一方の石油生産量が減れば他方が増えると言うシーソーゲームを演じてきたことが大きい。

 1990年当時、イランとイラクの国別生産割当は共に314万B/Dであったが、湾岸戦争後イラクは経済制裁のため131万B/D (1998年)に制限され、一方のイランの割当量は394万B/Dに増えている。これ以後イラクは国別生産割当から除外されてきたが、フセイン政権崩壊後の混乱を乗り越え2011年には288万B/Dまで回復、現在は330万B/Dに達している 。これに対しイランは核開発疑惑による経済制裁のため石油生産量は昨年初めから100万B/D近く減少、先月の生産量は270万B/Dとイラクを下回っている。ギャップを埋めているのがサウジアラビアである。即ち1990年の同国の生産割当量は538万B/Dであったが(当時のOPEC11カ国の合計生産枠は2,052万B/D)、その後1998年にはサウジアラビアの割当量は876万B/Dに増えている(OPEC合計枠:2,600万B/D)。2006年以降は国別割当量の無い総枠方式となり、2011年12月に3千万B/Dとなって現在に至っていることは既に述べたとおりであるが、サウジアラビアの最近の生産量は1千万B/Dを前後する水準で推移している。

 このようにOPEC内部ではイラクとイランがシーソーゲームを演じ、両者のギャップを埋めているのがサウジアラビアと言う図式が成り立っているのである。またサウジアラビアの場合は世界全体の石油需要の増加に対応してOPECの生産枠を拡大する調整役(スウィング・プロデューサー)として石油市場におけるOPECシェアを維持する役割を果たしている(生産量の増加にもかかわらず価格が100ドル以上に高止まりし、またOPECの結束が乱れないのはサウジアラビアが実に見事にコントロールしている証しと言えよう)。

 しかし現在の状況がいつまでも続く保証はない。イランの石油輸出規制が緩和されれば同国は直ちに増産に取りかかるであろう。現にザンガネ石油相は経済制裁が緩和されれば半年以内に生産量は4百万B/Dにアップできると言明し、ExxonMobil, Shell, BP, Totalなど欧米石油企業にイランに戻ってくるよう呼びかけている 。このままではイラクもイランも増産競争に走ることは目に見えている。OPECの長い歴史の中で両国は同じ割当量とすることで均衡を保ってきたのであるが両国が増産競争に走れば世界の石油市場は暴落に見舞われる。それを避ける唯一の手段はサウジアラビアが減産することであるが、実現の可能性は限りなく小さい。サウジアラビアはこれまで増産で需給と価格を調整してきたが、減産調整は泥沼に陥った1990年代前半の悪夢の再来であり同国には到底受け入れがたいはずである。

 OPECは前門の虎(シェールオイルの生産拡大)と後門の狼(イランとイラクのせめぎ合い)という両面の難問を抱え、極めて難しいかじ取りを迫られている。

(完)

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 前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
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今週の各社プレスリリースから(12/1-12/7)

2013-12-07 | 今週のエネルギー関連新聞発表

12/3 JOGMEC    カナダブリティッシュコロンビア州(BC州)政府とのMOU延長 http://www.jogmec.go.jp/news/release/news_10_000065.html
12/3 Shell    Shell floats hull for world’s largest floating facility http://www.shell.com/global/aboutshell/media/news-and-media-releases/2013/shell-floats-hull-for-worlds-largest-floating-facility.html
12/4 石油連盟    石油連盟会長コメント第164回OPEC定例総会終了にあたって http://www.paj.gr.jp/paj_info/press/2013/12/04-000664.html
12/4 OPEC    OPEC 164th Meeting concludes http://www.opec.org/opec_web/en/press_room/2685.htm
12/5 Shell    Shell will not pursue US Gulf Coast GTL project http://www.shell.com/global/aboutshell/media/news-and-media-releases/2013/shell-will-not-pursue-us-gulf-coast-gtl-project.html
12/6 Total    Papua New Guinea: Total Enters Two Significant Gas Discoveries in the Asia-Pacific Region http://total.com/en/media/news/press-releases/20131206-Papua-New-Guinea-Total-Enters-Two-Significant-Gas-Discoveries-in-the-Asia-Pacific-Region

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