(注)本レポートはブログ「マイライブラリー(前田高行論稿集)」で一括してお読みいただけます。
http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0332OpecMeetingDec2014.pdf
4.二つの疑問:減産すれば価格は上がったのか?そもそもOPECは協調減産できるのか?
OPECの決定により当面は石油の需給が緩む見通しで原油価格の下落に歯止めがかからない状況である。暖房用灯油など石油製品は冬の需要期に入っており季節的要因で見れば価格が下げ止まってもおかしくないのであるが、それ以上に供給過剰感が価格を押し下げているようである。
現状を冷静に分析すると二つの疑問点が浮かび上がってくる。その一つはベネズエラが強く主張した減産が若し実現したとして果たして原油価格が上がったのかと言う疑問であり、二つ目はそもそもOPEC加盟国が国別の減産量を合意できるのか(或いはそれを順守できるのか)と言う疑問である。
もしOPECが減産を決議実行し思惑通り価格が上がれば、日本は円安と原油高で大きな打撃を受けることは間違いない。しかしOPECが減産すれば価格が上がるという単純な方程式が成り立つか否かは微妙である。世界の原油生産に占めるOPEC12カ国のシェアは40%強であるが 、その他の60%を占める非OPEC産油国が減産しなければどうなるであろうか。OPECの減産量は140万B/D程度と予測されているが(上記参照)、この程度の量は価格を反転させる効果に乏しく、また米国のシェール・オイルなど非OPEC産油国がカバーできる数量である。つまりOPECはシェール・オイルにシェアを奪われた上に石油収入が伸びず(下手をすると減少の恐れすらある)まさに踏んだり蹴ったりになるかもしれない。また仮にOPECの減産により価格が上向けば米国のシェール・オイル生産業者(或いはロシアも)一気に増産に走り、彼らは価格アップとと数量増の二乗の効果を享受するであろう。OPEC産油国は「トンビに油揚げをさらわれる」ことになる。筆者はいずれにしてもOPEC産油国の減産は彼らが期待したような効果を生まないであろうと考える。
それではそもそもOPEC自身が協調減産できるのであろうか?これもはなはだ疑わしい。先にも書いたとおり3千万B/DはOPEC全体のものであって、個々の12カ国の生産枠を積み上げたものではないのである。OPECは1960年の結成から12年後の1982年に初めて国別生産枠を設定したのであるが、その後紆余曲折を経て2005年6月総会を最後に国別割り当て量は廃止され、その後は需要の変動に応じて総枠を増減、2011年12月に現在の3千万となって現在に至っている。因みに2005年6月の国別割り当てはサウジアラビアが909.9万B/Dで全体の3分の1を占めていた。
例えば今回巷で報道されたようにOPEC総会で140万B/D削減を決めた場合、各国ごとの割り当てはどうなったであろうか。2005年当時の加盟各国のシェアに従ってサウジアラビアが140万B/Dの3分の1を引き受けるのか、また国別生産枠の対象外であったイラクをどう取り扱うのかと言う問題が生じる。一方、現在の実生産量に応じて各国が削減量を引き受けるとすれば、サウジアラビアの削減割り当てはもっと厳しくなるかもしれない。対米輸出が激減しているベネズエラや経済制裁で輸出が最低水準に陥っているイランなどはこれ以上の削減に強く抵抗するものと思われる。いずれにしてもOPECが減産決議した場合、貧乏くじを引くのは間違いなくサウジアラビアであろう。
この事実こそサウジアラビアが生産枠3千万B/Dを維持することにこだわった理由と思われる。しかし決議の結果、原油相場はさらに下落している。自他共にOPECの盟主と認めるサウジアラビアにとって変化を選ぶ(総枠削減する)にしろ、現状を固定する(総枠維持する)にしろいずれも茨の道である。OPECがもたついている間に非OPEC特に米国のシェール・オイルがシェアを伸ばすことは目に見えている。サウジアラビアはOPECの盟主であるよりも世界最大の産油国(そして同時に最大の増産余力を持つ産油国)としての自負をかけてシェア競争に乗り出そうとしている。
(完)
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