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1.総会1ヵ月前:「価格下落阻止のため一致して行動を」(ベネズエラ・ラミレス大臣)
10月中旬、ベネズエラのラミレス外相は記者会見で「原油価格の下落阻止のためのOPEC緊急会合を」と呼び掛けた 。ラミレス外相は9月まで石油相及び国営石油会社PDVSA会長を務めており、今回のOPEC総会でも同国代表として出席している。
ベネズエラは米国向けの輸出が激減し、さらに石油価格の下落でイランと並び最も大きな打撃を受けた産油国の一つである。2012年の年間平均価格が103ドル(バレル当たり、以下同じ)であった同国の原油は2013年には98ドルになったが、今年6月以降急激に下落、10月には83ドルに落ち込んだ 。同国の原油収入は歳入の5割、輸出の9割以上を占めるが、2013年末の外貨準備は215億ドルでピーク時の2008年から半減している 。チャベス前大統領時代から続く補助金漬けバラマキ行政のためベネズエラ財政は今や危機的状況にある。
事態打開のためラミレス外相はまずリビアとエクアドルを巻き込んでOPEC総会での減産を呼び掛け、総会前の11月中旬にはOPEC加盟国のイラン、アルジェリア及びカタールを歴訪して減産の根回しを行った。さらに外相は非OPECの大産油国ロシアにも赴き協調減産を呼び掛けた 。ベネズエラとイランはカダフィ時代のリビアと共にかつては石油価格を吊り上げることに熱心なOPEC強硬派と呼ばれ、サウジアラビアなど湾岸産油国の穏健派と対立してきた。底流にあったのは反米のベネズエラ・イラン・リビア対親米の湾岸諸国と言う構図であった。
今回の減産の是非をめぐる両派の対立は一見過去の延長のように見えるが、実は大きく違う。イランもベネズエラも共に石油の輸出減と価格下落の二重苦で財政事情がひっ迫している。何とかして石油価格を引き上げたいのが本音である。そのための減産であるが、実はベネズエラはシェール・オイルに妨げられて対米輸出が減少、イランは米国の経済制裁で輸出がままならない状況にあり、両国とも既に減産を余儀なくされている。OPEC総会で減産が決定されても実質的な影響は少ないと言っていいほどなのである。
OPEC各国は価格を度外視して輸出量を確保するシェア争いを始めた。イラクのマハディ石油相はOPECが内部競争に突入したと語った。彼はサウジアラビアが10月の価格を75セント(バレル当たり)下げ、イランも同程度、自国は60セント値下げしたと述べている 。サウジアラビアのアジア向け10月価格は6年ぶりの安値となったが、この時期サウジアラビアは驚くべき行動に出たのである。即ち11月積みについてはアジア向け価格を値上げする一方、米国向けは値下げしたのである。専門家はこれをシェール・オイルに対する挑戦である、と断じた。
11月初めの原油価格は米国WTIが76ドル、英国Brentも83ドルで共に2011年10月以来の安値となり、直近物の価格が先物を上回る、いわゆるコンタンゴ(contango)の状態となっている。原油価格はOPEC総会を前に泥沼に陥ったのである。
(続く)
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