石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

見果てぬ平和 - 中東の戦後70年(11)

2016-03-16 | その他

第1章:民族主義と社会主義のうねり

5.イスラエル独立(その3):流入するユダヤ移民に押し出されるパレスチナのアラブ人
 世界のユダヤ人口は約1,400万人であり、その大半は米国とイスラエルに住んでいる。イスラエルのユダヤ人口は630万人で全ユダヤ人口の45%に相当するが、イスラエル一国(総人口850万人)で見ると同国人口の4分の3を占めている。

 しかしイスラエル建国前のパレスチナ時代にユダヤ人がこれほど多かった訳ではない。第一次世界大戦直後の1920年代初めのパレスチナの総人口は75万人で、そのうちユダヤ人は約8万人であり、総人口に占める比率は1割強にとどまっている。絶対数では現在の80分の1、比率でも8分の1程度だったのである。

 シオニズム運動とバルフォア宣言の後押しにより第一次大戦前後にヨーロッパ各地から多数のユダヤ人がパレスチナすなわち「シオンの土地」へと移住した。それは「アリヤー」と呼ばれ19世紀末から1920年代までの第一次アリヤーから第四次アリヤーまでの間にほぼ20万人がパレスチナに押しかけている。そしてナチスドイツのホロコーストが始まるとユダヤ人たちは我先にヨーロッパを脱出、その多くは米国に向かったが、イスラエルに移住したした者も25万人に達した(第五次アリヤー)。この結果第一次大戦直後に75万人であったパレスチナの総人口はその後わずか20年たらずの間に150万人に倍増したのである。

 パレスチナの土地は元々広くないが決して不毛の砂漠ばかりではなかった。耕作可能な土地はすでに先住民であるアラブ人たちによって耕作されており、耕作に不向きな土地では羊やラクダが放牧されていた。

  新たなユダヤ人移民がまず必要としたのは農地だった。彼らはそれまで住んでいたヨーロッパのユダヤ人社会の中でも相対的に貧し階層である。移民とはそもそも貧しいから移住するのであって豊かな者たちは移住など考えない。さらに言えば海外移住を希望する比較的裕福なユダヤ人たちは、パレスチナではなく米国など豊かな先進国を目指したのである。

 彼らはいかにして農地を手に入れたのであろうか。ユダヤ人たちは先住者のアラブ農民を力づくで追い出したのであろうか。イスラエルと言う自分たちの国家がある現在ならいざ知らず、当時のユダヤ人にはそのような力は無い。かれらが取った手段は地主から土地を買い取ることであった。アラブ農民は小作農であり、土地はオスマン・トルコ時代からの不在地主のものである。

 ユダヤ人入植者たちは札束を積んで不在地主から土地を買い取った。彼ら自身がそのような大金を持って移住してきたとは考えられない。それはヨーロッパに住み続けた豊かな同胞(ロスチャイルドはその典型であろう)、或いはアメリカにわたって成功した同胞からの義捐金である。豊かなユダヤ人はヨーロッパに残り、才能や学歴のあるユダヤ人はアメリカに移住した。パレスチナに移住したユダヤ人のほとんどは金も才能も学歴も乏しい貧しい者たちだった。1909年、帝政ロシアのポグロム(ユダヤ人に対する迫害。「破滅・破壊」を意味するロシア語)を逃れたユダヤ人が社会主義とシオニズムを結合した形で始めた共同農場「キブツ」はその後ユダヤ人入植地に広がっていった。

 彼らが土地を手に入れると次に始まるのは既にいるアラブ人小作農の追い出しである。土地の権利はユダヤ移民のものであるからアラブ人は文句のつけようがない。アラブ農民は賃金労働者としてユダヤ人の下で働くか、それが嫌なら都市難民、さらには親類縁者を頼ってヨルダンなど周辺アラブ諸国に逃れるしかなかったであろう。パレスチナ経済難民の始まりである。

 ただパレスチナ難民の中でも多数を占める政治難民は第二次大戦後のイスラエル独立戦争(第一次中東戦争)で生まれた。イスラエル独立後の3年間に70万人近いユダヤ人が流入、それとほぼ同数のパレスチナアラブ人が政治難民となってヨルダンに雪崩れ込んだ。アラブ人がユダヤ人に押し出された格好である。ヨルダン川西岸のトゥルカルムの町で隣同士であった教師のシャティーラ家と医師のアル・ヤーシン家の2家族もそのような難民の一つであった。シャティーラ家は当時16歳の息子アミンを伴ってヨルダンに逃れている。

(続く)

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