石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

鬼の居ぬ間に:中東の政治的空白に暗躍する国々(1)

2020-12-03 | 中東諸国の動向

(注)本レポートは「マイライブラリー」で一括してご覧いただけます。


http://mylibrary.maeda1.jp/0520PoliticalVacuumInMe.pdf

(英語版)
(アラビア語版)

はじめに:中東に政治的空白をもたらしている米国と西欧
 米国と西欧諸国の中東に対する影響力が一時的にではあるが弱まっている。米国は来年1月の政権交替を控え、今後の中東への対応が定まっていない。西欧諸国は今年末に迫った英国のEU脱退、すなわちBrexitの影響がはっきりせず、加えて新型コロナウィルス禍(Pandemic)による経済・社会の混乱は収まる気配が見えない。米国、西欧共に中東問題に関与する余裕がないのである。

 特に米国の場合、バイデン・民主党政権の新しい中東政策がトランプ・共和党政権時代と大きく変わることは必至である。トランプ政権はイラン核合意から脱退しイランへの経済制裁を強化する一方、エルサレムへの米大使館移転、ヨルダン川西岸入植及びゴラン高原併合の容認などイスラエル寄りの姿勢を明確にした。バイデン次期大統領はイラン核合意復帰を明言しており、イスラエル問題についてもトランプ政権の政策を変更することは間違いなさそうである。

 トランプ政権下で大いに得点を稼いだイスラエル、逆に経済が疲弊し青息吐息のイランは共に固唾をのんでバイデン政権の新中東政策を見守っている。その他の中東各国あるいは中東に少なからぬ利害を持つすべての国々が米国の出方を注視している。と同時にこれらの国々はユーラシア大陸西端の西ヨーロッパ諸国が今後どのような中東外交を繰り広げるかにも大きな関心を寄せている。しかし現在は米国も西欧諸国も身動きが取れず明確な中東政策を打ち出せる状態ではなく、中東は政治的空白の状態にある。その間隙を縫って利害関係国が暗躍しているのが現在の中東と言えよう。

 ロシアは黒海から地中海、さらにはインド洋に向かって着々と軍事拠点を拡大しつつある。これまでNATOの忠実な一員としてEU加盟を夢見てきたトルコはギリシャ・東欧などのキリスト教国家に行く手を阻まれている。そのトルコはイスラムに目覚めかつてのオスマントルコのような中東の覇者を目指している。イスラム国家に囲まれたユダヤ国家イスラエルは米国トランプ大統領の強力な支援を受けてUAEなどと国交を回復、アラブの分断に成功した。イスラエルの次の標的はイランであり、そのためには手段を選ばないであろう。そのイランは米国の経済制裁で極度に疲弊しているが、闘争意欲は旺盛である。バイデン次期米国大統領の出方をうかがいつつ、富国強兵に余念がない。中東の軍事衝突・地域紛争は終わることがない。

 そのような軍事衝突を横目に見ながらユーラシア大陸をまたにかけて経済進出に熱心なのが中国であり、その象徴が「一帯一路」政策である。そして経済・金融面で忘れてはならないのがオイル(天然ガス)マネーを武器に存在感をアピールするGCCの小国UAEあるいはカタールであろう。

 各国はパワーゲームを繰り広げている。しかしその動きに取り残されそうな国がある。サウジアラビアとエジプトである。両国は中東の大国と見なされているが、エジプトはイスラエルのアラブ分断政策によりアラブ盟主としての地位が危うい。サウジアラビアは石油を浪費するばかりで新たな国造りは砂上の楼閣に終わる恐れが出ている。

 来年から始まる米国の民主党政権、英国のEU離脱(BREXIT)、そしてコロナウィルス問題の終焉(ポスト・パンデミック)を控え、現在の中東は政治経済の空白時期と言えよう。本稿はこのような空白の時代、欧米と言う鬼の居ぬ間に暗躍する各国を概観しようとするものである。

(続く)

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荒葉一也
Arehakazuya1@gmail.com
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