石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

BPエネルギー統計2022年版解説シリーズ22(価格篇2)(完)

2022-08-11 | BP統計

(注)本シリーズは「マイ・ライブラリー」で一括してご覧いただけます。

http://mylibrary.maeda1.jp/0563BpWorldEnergy2022.pdf

 

6.石油と天然ガスの価格(続き)

(原油価格連動型の日本とスポット調達のEUの明暗!)

(2)2000年~2021年の天然ガス価格の推移

(図http://bpdatabase.maeda1.jp/6-G01b.pdf 参照)

 天然ガスの取引価格には通常US$ per million BTU(百万BTU当たりのドル価格)と呼ばれる単位が使われている。BTUとはBritish Thermal Unitの略であり、およそ252カロリー、天然ガス25㎥に相当する[1]

 

 市場の自由取引にゆだねられた商品は一般的には価格が一本化されるが(一物一価の法則)、天然ガスについては歴史的経緯により現在大きく分けて三つの価格帯がある。LNGを輸入する日本では原油価格にスライドして決定されている。巨額の初期投資を必要とするLNG事業では販売者(カタール・オーストラリアなどのガス開発事業者)と購入者(日本の商社、電力・ガス会社などのユーザー)の間で20年以上の長期安定的な契約を締結することが普通である。この場合価格も両者間で決定されるが、その指標として原油価格が使われているのである。

 

 これに対してヨーロッパでは供給者(ロシア、ノルウェー、アルジェリアなど)と消費者(ヨーロッパ各国)がそれぞれ複数あり、パイプライン事業者を介して天然ガスが取引されており、EU独自の価格体系が形成されている。また完全な自由競争である米国では天然ガス価格は独立した多数の供給者と需要家が市場を介して取引をしており需給バランスにより変動する市況価格として形成される。

 

 ここでは日本向けLNG価格(以下日本価格)、英国Heren NBP index価格(以下英国価格)、ドイツ平均輸入価格(以下ドイツ価格)及び米国Henry Hub価格(以下米国価格)について2000年から2021年までの推移を比較することとする。なお参考までに百万BTU当たりに換算した原油価格も合わせて比較の対象とした。

 

 2000年の日本価格は4.72ドル、英国価格2.71ドル、ドイツ価格2.91ドル、米国価格4.23ドルであり、当時の原油価格は4.83ドルであった。英国価格が最も低く、ドイツ価格がそれに次いで低く、日本、米国及び原油価格は4ドル台で原油が最も高かった。2003年には米国価格が一時的に他の価格のいずれをも上回った。

 

 2004年以降原油価格の上昇に伴い天然ガス価格もアップし、2005年の価格は米国価格8.79ドル、原油価格8.74ドル、英国価格7.38ドル、日本価格6.05ドル、ドイツ価格5.83ドルとなり、日本向け価格はドイツ価格に次いで安くなった。2009年から原油価格は再び急上昇したが、この時3地域の天然ガス価格は明暗を分けた。日本価格は原油価格に連動して上昇の一途をたどったのに比べヨーロッパ価格は緩やかな上昇にとどまった。そして米国価格は逆に下落した。この結果2012年は日本価格16.75ドルに対し米国価格は2.76ドルとなり、日本価格は実に米国価格の6倍を超えたのである。

 

 2014年から2016年にかけては原油価格が暴落したため、2016年のガス価格は3地域とも大幅に下落した。中でも原油価格にリンクした日本向け価格は大きく下がり、2016年は6.93ドルと対前年の3分の2になった。2017年、18年と原油価格は連続して上昇、日本向け価格は10.07ドル、英国価格及びドイツ価格もそれぞれ8.06ドル、6.64ドルに上昇したが、米国価格は3.12ドルにとどまった。この結果、米国と日本の価格差は3.2倍になった。

 

 コロナ禍による経済停滞により2019、2020年は原油価格が下落した(2020年は百万BTU換算で7.27ドル)。この時英国価格及びドイツ価格も大幅に下落したが、原油価格を後追いする日本価格はほぼ横ばいに推移している(9.94ドル)。

 

2021年に入り景気回復の兆しが見え、同時にCO2排出量の少ない天然ガスの需要が急増した。その影響を最も受けたのはスポット調達が中心の英国価格あるいはドイツ価格である。特に英国価格は前年の3.42ドルから一挙に5倍近い15.80ドルに急騰している。またドイツ価格も2倍強の8.94ドルとなった。これに対して2021年の日本価格は原油価格上昇の影響はあったものの、前年の1.3倍(10.07ドル)のアップにとどまっている。一方、米国価格は3.84ドルであり、日本及びヨーロッパとの価格差は拡大している。

 

以上

 

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        前田 高行         〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601

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[1] 東京ガスHPhttp://www.tokyo-gas.co.jp/IR/library/pdf/investor/ig1000.pdfより。 

 

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