(英語版)
(アラビア語版)
2022年8月
Part I:「イスラエル、イラン核施設を空爆す」
33. 虚空に消えた「ダビデの星」(中)
インド洋に浮かぶディエゴ・ガルシア島は同海域最大の米軍基地である。イギリス領であるが、島全体が米国に貸与されている。いずれの国からも干渉を受けない米軍の聖地。そこで『アブダラー』と彼が操縦するF-35にはどのような運命が待ち受けているのであろうか。祖国への安全な帰還か、それとも-----------。
彼の頭にかすかな疑問が生まれた。
<それにしてもイランの原発施設を空爆したあと、自軍の給油機が来ないというトラブルの情報を受けてからまだ1時間程度しか経っていない。それなのに米軍の給油機が目の前に現れるなんて一寸話がうまく出来過ぎている感じもするのだが-------。>
<彼らの目的は我々を救うことだったのだろうか?>
彼は状況の急激な変化で意識が少し混乱しただけだ、と自らに言い聞かせた。しかし、その時彼の中で何かが弾けた。
<これから新たな使命が始まるのだ>
と囁く内なる声が聞こえる。幻覚なのであろうか。彼の肉体が今や何者とも知れぬ別の生命体に乗っ取られたような感じであった。もはや自分で自分が制御できない状況に陥っていた。
彼は残り少ない燃料をエンジンに吹き込むと操縦桿を引き給油機の下をすり抜けて一気に急上昇を開始した。
思いもかけない行動に米軍の戦闘機も給油機も一瞬虚を突かれたが、気を取り直した戦闘機が追走体制に入った。
『アブダラー』機はぐんぐん上昇しつつあった。まるで地球の重力圏を突破しようとするかのように------------。
もちろん戦闘機のスピードで重力圏を脱出することなど不可能である。しかも重力圏を脱出したその先の真空と暗黒の宇宙に何が待ち受けていると言うのであろうか。
高度計が3万メートルを超えた辺りで上昇スピードは急激に鈍りだした。揚力が無くなり、燃料も底をついたようである。米軍機はすでにそのかなり手前の高度にとどまり『アブダラー』機の行動を監視する態勢に入っていた。超高度による機体の損傷とパイロット自身の生命の危険を恐れたからである。
つい先ほどまでマッハ以上を示していた速度計の針がゼロ表示に向かって逆回転し始めた。速度ゼロになれば地球の引力に引き戻され、いずれどこかに墜落する。墜落地点はペルシャ湾か?アラビア半島か?それともイラン領内か?
(続く)
荒葉一也
(From an ordinary citizen in the cloud)
前節まで:http://ocininitiative.maeda1.jp/EastOfNakbaJapanese.html