石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

どうなる?カショギ事件の幕引き(4完)

2019-04-20 | 中東諸国の動向

(注)本レポート(4回連載)は「マイライブラリー」で一括してお読みいただけます。

http://mylibrary.maeda1.jp/0464KhashoggiCase.pdf

 

5.暴露報道でサウジに反撃するカタール

 イスラム同胞団に対する支援を理由にカタールは2017年以来現在もサウジアラビア他アラブ4カ国から外交断絶及び経済制裁を受けている[1]。カタールが受けた影響は決して小さくなく、もし同国に天然ガスと言う強力な味方が無ければ、早晩サウジにひざまずいていたであろう。GCC内で孤立した同国はトルコ或はイランとのつながりに活路を求めた。これはイラン、トルコと対立するサウジアラビアにとっては誤算であったろう。

 

 苦しい外交を強いられるカタールにとってカショギ事件は千載一遇の巻き返しのチャンスであった。カタールはアル・ジャジーラTVなど支配下のメディアを通じてカショギ事件の真相を次々と暴露した。すでに触れた遺体焼却報道もその一つであるが、その他にも独自の取材ルート、トルコ当局からリークされる情報或は米国ワシントン・ポストなど欧米メディアのニュースを孫引きしてサウジを非難した。当然のことながらサウジアラビアのメディアはこれら外国ニュースを報道せず、また事件に関する裁判報道など自国内のニュースも全く公表しない。そのためカショギ事件を追うにはカタールのメディアが最適である。

 

勿論同国の報道にはまゆつば的なニュースやサウジを貶めるためのニュースも垣間見られる。それでもカタールは一連の暴露報道でサウジの制裁に反撃、さらに国際社会にアピールして留飲を下げていることは間違いない。なお同国はサウジが主導権を握るOPEC(石油輸出国機構)から脱退するなど他の側面でもサウジ離れを加速させている[2]。今後カタールはオマーン、クウェイトなど必ずしもサウジと歩調を合わせない国々を語らってサウジアラビアにゆさぶりをかけるかもしれない。

 

カタールもトルコと同様「時の過ぎゆくままに(As time goes by)」サウジアラビアが沈むのを見ているだけで良いのである。

 

6.今後を占う

 日々激動する政治・外交の舞台ではカショギ事件そのものはMbSの思惑通り急速に風化して行くであろう。サウジ政府自身は強引に事件の幕引きを図ろうとしている。米国、トルコ、カタールなどの各国にしてもこれ以上事件の真相を暴いたところでメリットは少ない。あとは各国ともサウジ政府(及びMbS)に事件をちらつかせることで自国に有利な取引を行うことになろう。メディア或は国際人権団体であれば明らかな証拠を示さないままサウジアラビア政府或はMbSを非難することは可能であろうが、政治の世界ではその手法は長続きしない。国際政治・外交に自由平等や人権と言った正義のきれいごとは通用しないからである。

 

 一方MbSは石油を武器に資源の乏しい国々の一本釣り外交を展開、或は失墜した信用を回復するため国際会議で存在感を示そうとするに違いない。前者の二国間外交のひとつが最近のMbSのパキスタン、インド、中国訪問であろう[3]。そして後者の国際会議でのアピールの場と目されるのがG20サミットである。今年のG20サミットは大阪で開催されるが、来年はサウジアラビアがホスト国として11月21-22日にリヤドで開催することが決まっている[4]。MbSとしては6月の大阪サミットで国際舞台への完全復帰を狙っているものと思われる。そのためMbSは今回のG20で安倍首相に次回ホストとして列強のお歴々にとりなしてもらおうと考えているに違いない。ただG20首脳の中でMbSの味方は今のところトランプ米大統領一人しかいない。他の首脳の多くはMbSに疑惑の目を向けており、二国会談には消極的とも考えられる。ホスト役の安倍首相にとってMbSは少々厄介者かもしれない[5]

 

 もっと大きな今後の問題は国内経済問題であろう。MbSはビジョン2030でいくつかのメガプロジェクトを立ち上げたが、実現するには外国民間企業の技術と資本の導入及び国内民間企業の参画が不可欠である。しかし民間企業との関係に関する限り一昨年の汚職摘発事件と今回のカショギ事件は大きなマイナス要因となった。サウジの国内民間経営者は汚職摘発事件でMbSに不信を抱き非協力姿勢に徹している。そして海外の民間経営者はカショギ事件のダーディーなイメージを嫌い、サウジアラビアへの投資・技術移転を躊躇している[6]

 

 アラムコの社債発行に海外金融機関が群がり一見サウジアラビアに対する欧米の姿勢が元に戻ったように見えるが、これはあくまで金融の世界の話である。マネーには主義主張はなく、正義や倫理などの問題ともほぼ無関係であろう。しかし一般市民或は消費者と向き合うことが運命づけられている金融以外のサービス業や製造業の世界は別物である。

 

以上

 

本件に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

荒葉一也

Arehakazuya1@gmail.com



[1] レポート「カタールGCC離脱の可能性も:カタールとサウジ国交断絶」(2017年7月)参照。

http://mylibrary.maeda1.jp/0416GccDispute2017July.pdf 

[2] ‘Qatar gives notice of its withdrawal from OPEC’, 2018/12/3, OPEC Press Release

https://www.opec.org/opec_web/en/press_room/5261.htm

[3] ‘Saudi Crown Prince starts Asia trip pledging $20b for Pakistan’, 2019/2/18, Gulf News

https://gulfnews.com/business/saudi-crown-prince-starts-asia-trip-pledging-20b-for-pakistan-1.62146620

[4] ‘Dates set for G20 Leaders’ Summit in Saudi Arabia’, 2018/4/17, Arab News

http://www.arabnews.com/node/1484056/saudi-arabia

[5] レポート「サウジ皇太子と安倍首相の電話会談が語るもの:焦るムハンマド」参照。

http://mylibrary.maeda1.jp/0461MbsAbeMar2019.pdf 

[6] レポート「サウジ・ビジョン 2030 に赤信号:皇太子を警戒する内外の民間経営者たち」参照。

http://mylibrary.maeda1.jp/0458MbsAndPrivateSectors.pdf 

 

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