天然ガスに国際政治が絡み大荒れの東地中海 (下)

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(アラビア語版)

一致するロシアとトルコの利害
　ヨーロッパ向け天然ガス輸出を有力な外貨獲得源と位置づけるロシアは、ウクライナとのガス紛争を回避するため、バルト海のNordstreamに続き、黒海からブルガリアを経由してヨーロッパに至るパイプラインSouthstream建設を目指した。その後同計画はトルコ経由ルートに変更された。それがTurkstreamである。１月８日にイスタンブールでロシア・トルコ両国大統領列席のもとTurkstreamの完工式が行われた 。

　一方、完工式のわずか数日前、イスラエル、キプロス、ギリシャ３カ国は東地中海に海底パイプラインを敷設する計画East Med Pipeline構想を打ち出した 。これは将来イタリアなど西ヨーロッパ向け輸出も視野に入れたものであり、Turkstreamの強力なライバルになる。トルコはこれを見過ごすことができなかった。イスラームを信奉するトルコにとってユダヤ教のイスラエル、キリスト教(ギリシャ正教)のギリシャとはいずれも宗教的な対立関係にある。またキプロスとは領土問題で戦火を交えた緊張関係が今も続いている。さらにトルコの永年の夢であるEU加盟を阻止しているのもギリシャとキプロスである。トルコはリビアとEEZ(排他的経済水域)協定を結び、East Med Pipelineを阻止する作戦に乗り出した 。

　国際海洋法上ではトルコとリビアは領海あるいはEEZが直接接することはない。しかしトルコは自国のユーラシア大陸棚とリビアのアフリカ大陸棚が遭遇していると言ういささか強引な理屈をつけて両国間のEEZ協定を正当化している。このEEZはイスラエルからヨーロッパへのパイプラインを阻止しようとする目的が明白である。またこれはキプロス封じ込めにもつながるものである。(図参照)

幾重にも重なる東地中海天然ガスパイプラインの問題
　TurkstreamとEast Med Pipelineには幾重にも重なる問題が隠されている。トルコとキプロスの長年にわたる抗争は２国間の問題であると同時にヨーロッパとの関係で見るとトルコは軍事同盟であるNATOの最前線東方基地としてキプロス以上に重要な存在である。しかしながらトルコはEU加盟の道筋が見えず、その障害の一つがギリシャあるいはキプロスの反対である。さらに人道問題ではトルコがシリアの政治難民のヨーロッパ流出を食い止めており、またリビアはアフリカ大陸の経済難民の出発地となっている。ヨーロッパ諸国としては難民流入抑制で両国との協力関係が欠かせない。

　これら二国間あるいは地域問題に加え、ヨーロッパの天然ガス市場を巡る米国とロシアの駆け引きがある。ロシアは歳入の大きな割合を天然ガス輸出に依存しており、ヨーロッパ向けはその中核である。そのためロシアはパイプラインの増強に余念がない。しかしロシアの動きをこれまで見逃してきた米国の態度に変化が現れた。米国はロシアを押さえつけようとする旧ソ連以来の基本戦略に加え、ヨーロッパをLNGの輸出市場ととらえてロシア排除に乗り出したようである。その理由は米国がシェールガス大増産の結果、天然ガスの輸出国になろうとしていることである。米国はバルト海の第二Nordｓｔreamを工事中断に追い込み、さらにTurkstreamの施工業者に経済制裁をちらつかせている。米国最大の盟友イスラエルのEast Med Pipeline実現にトランプ政権が介入する可能性は高い。

　世界一の強国となった米国トランプ政権のアメリカ・ファースト政策の前では、ドイツはおろかフランスなど西欧主要国、さらにロシアも歯が立たない。まして中東の大国と言われるトルコがとてもかなう相手ではない。東地中海の天然ガス問題もトランプ政権の出方次第と言えよう。

　但し、楽観的見方をすれば、トランプ政権はこの問題に深入りすることはなさそうである。何よりも損得第一の大統領にとって東地中海のガス問題で得る利益は大したことがないからである。彼のグレートゲームの目標は大統領選挙に勝つことであり、そのためには経済問題で中国を、そして政治問題でイランを屈服させることに尽きるであろう。

完

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荒葉一也
Arehakazuya1@gmail.com