石油と中東

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SF小説:「ナクバの東」(69)

2023-02-24 | 荒葉一也SF小説

(英語版)

(アラビア語版)

2023年2月

Part III:キメラ(Chimera)

 

69. 果てしなき時空間の旅(1)

民族浄化の能力を持つキメラは最凶である。最凶のヒトに寄生した最凶のキメラ。その将来がどうなるのか? それはキメラ自身にとって望ましくない将来であった。なぜなら寄生体のキメラは宿主であるパレスチナ女性と生死一体である。即ち宿主であるパレスチナ人が絶えればキメラ自身も絶滅することを運命づけられているからである。

 

 キメラはそのことを本能的に察知した。そこで自己複製したキメラは宇宙のどこかに存在する創造主のもとに帰還することを決意した。キメラ自身が決意したというよりも、そうすることがキメラのDNAに書き込まれていたと言うのが正しい。

 

 キメラは、パレスチナ少女ルルから叔父である戦闘機パイロットのアブダッラーに転移し、そしてイラン核施設攻撃に加わったアブダッラーが戦闘機内で咳をした時、彼の胸に吊り下げられたロケットに乗り移った。

 

その直後イラン上空の成層圏で突然起こった核爆発。パイロットの首から千切れて宇宙空間に放り出された小さなロケットは高熱で留め金は溶けて口が開き、内蓋に貼られた写真は跡形もなくなった。爆発による強烈な衝撃波でロケットは地球と反対の方向に猛烈なスピードで飛び始めた。

 

ロケットが高熱と衝撃波に晒されたのはごく短い間にすぎず、すぐに無重力と絶対零度の広大な宇宙に包まれた。ロケットの中に潜んでいたキメラはロケットを飛び出して宇宙空間にさまよい出た。ウィルスは絶対零度の中で冬眠状態に入った。地球の重力圏を離れ、果てしなき時空間の旅が始まった。キメラは創造主のもとに帰還を目指したのであった。

 

 「何処へ」、「いつまで」、「何のために?」----------。

 

 しかしそのような疑問はキメラ自身のものではない。それはあくまで地球と言う宇宙空間の微細な天体に住む、「ヒト」と呼ばれる生命体の疑問に過ぎない。「ヒト」は知識のない、自ら経験したことのない、或いは経験できないことに疑問をさしはさむ。地球の外に広がる宇宙空間については知らないことが多すぎる。まして経験はほとんど無いに等しい。

 

わからないと言うことは恐怖である。そこで「ヒト」は自らに疑問を投げかける。自問自答すれば、答えが見つかるまでの間は(それがいつになるかはわからなくとも)恐怖心を多少なりとも抑えることができる。裏返して言えばヒトが自問自答するのは恐怖心を抑えるためなのかもしれない。

 

(続く)

 

 

荒葉一也

(From an ordinary citizen in the cloud)

前節まで:http://ocininitiative.maeda1.jp/EastOfNakbaJapanese.html

Part III:キメラ(Chimera)

 

69. 果てしなき時空間の旅(1)

民族浄化の能力を持つキメラは最凶である。最凶のヒトに寄生した最凶のキメラ。その将来がどうなるのか? それはキメラ自身にとって望ましくない将来であった。なぜなら寄生体のキメラは宿主であるパレスチナ女性と生死一体である。即ち宿主であるパレスチナ人が絶えればキメラ自身も絶滅することを運命づけられているからである。

 

 キメラはそのことを本能的に察知した。そこで自己複製したキメラは宇宙のどこかに存在する創造主のもとに帰還することを決意した。キメラ自身が決意したというよりも、そうすることがキメラのDNAに書き込まれていたと言うのが正しい。

 

 キメラは、パレスチナ少女ルルから叔父である戦闘機パイロットのアブダッラーに転移し、そしてイラン核施設攻撃に加わったアブダッラーが戦闘機内で咳をした時、彼の胸に吊り下げられたロケットに乗り移った。

 

その直後イラン上空の成層圏で突然起こった核爆発。パイロットの首から千切れて宇宙空間に放り出された小さなロケットは高熱で留め金は溶けて口が開き、内蓋に貼られた写真は跡形もなくなった。爆発による強烈な衝撃波でロケットは地球と反対の方向に猛烈なスピードで飛び始めた。

 

ロケットが高熱と衝撃波に晒されたのはごく短い間にすぎず、すぐに無重力と絶対零度の広大な宇宙に包まれた。ロケットの中に潜んでいたキメラはロケットを飛び出して宇宙空間にさまよい出た。ウィルスは絶対零度の中で冬眠状態に入った。地球の重力圏を離れ、果てしなき時空間の旅が始まった。キメラは創造主のもとに帰還を目指したのであった。

 

 「何処へ」、「いつまで」、「何のために?」----------。

 

 

 しかしそのような疑問はキメラ自身のものではない。それはあくまで地球と言う宇宙空間の微細な天体に住む、「ヒト」と呼ばれる生命体の疑問に過ぎない。「ヒト」は知識のない、自ら経験したことのない、或いは経験できないことに疑問をさしはさむ。地球の外に広がる宇宙空間については知らないことが多すぎる。まして経験はほとんど無いに等しい。

 

わからないと言うことは恐怖である。そこで「ヒト」は自らに疑問を投げかける。自問自答すれば、答えが見つかるまでの間は(それがいつになるかはわからなくとも)恐怖心を多少なりとも抑えることができる。裏返して言えばヒトが自問自答するのは恐怖心を抑えるためなのかもしれない。

 

(続く)

 

 

荒葉一也

(From an ordinary citizen in the cloud)

前節まで:http://ocininitiative.maeda1.jp/EastOfNakbaJapanese.html

 


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