石油と中東

石油(含、天然ガス)と中東関連のニュースをウォッチしその影響を探ります。

「OPEC+(プラス)」協調減産の状況

2019-03-11 | OPECの動向

 昨年12月6日の第175回OPEC総会とその翌7日開かれた第5回OPEC・非OPEC閣僚会合においてOPEC11カ国及び非OPEC10カ国が2017年1月以降に実施してきた協調減産[1]を今年1月以降も継続することが決定された。

 

 OPEC加盟国は現在14か国であるが[2]、このうち米国の経済制裁を受けているイラン、内戦状態で石油生産が減少しているリビア並びに米国の経済制裁及び内政の混乱で生産が極度に落ち込んでいるベネズエラは今回の協調減産の対象外とされた。加盟全14か国の昨年11月の生産量は3,230万B/Dに達していた。

 

 一方、非OPEC協調減産国は世界最大の産油国の一つであるロシアを中心に、メキシコ、カザフスタン、オマーン、アゼルバイジャン、マレーシア等の10カ国から成り[3]、合計生産量は約1,800万B/Dである。OPEC14か国と合わせると生産量は5千万B/Dを超え、全世界の50%強を占め、原油価格を左右する影響力がある。因みに協調減産体制を組むOPEC・非OPECの21カ国は通常「OPEC+(プラス)」と呼ばれている(以下「OPEC+」と記する)。

 

 昨年末の会議でOPEC+は今年1月以降合計で120万B/Dを減産することを決定、1月に21カ国の国別減産割当量がOPEC事務局から発表された[4]。減産の基準となる生産量(Reference Production)は2018年10月の各国の生産量が基準とされ(クウェイトなど一部を除く)、減産量はOPEC11カ国812千B/D、非OPEC10カ国383千B/Dの合計1,195千B/Dとされた。国別ではサウジアラビアが322千B/D(基準生産量10,633千B/D、自発的生産レベル10,311千B/D)と最も多く、次いでロシアが230千B/D(同11,421千B/D、11,191千B/D)である。両国の減産量は全体の46%を占めており、OPEC、非OPEC別に見ると、サウジアラビアはOPEC全体の40%、またロシアは非OPEC全体の60%を背負っている[5]

 

 OPEC月例レポート2月号によれば新しい協調減産方式が始まった今年1月のOPECの生産量は30,809千B/Dであり、前月(2018年12月)比795千B/D減であった。OPEC最大の産油国サウジアラビアの生産量は10,213千B/Dで、同国に課された自発的生産レベル(目標値)10,311千B/Dを超える減産を行っている。

 

 サウジアラビア、ロシア及び米国の生産量を直近の報道で見ると、サウジアラビアの2月の生産量は10,136千B/Dであり1月をさらに下回っている[6]。さらに同国石油相によれば3月及び4月の生産量は980万B/Dの見込みで1千万B/Dを切ることは確実のようである[7]。一方ロシアの1月生産量は11,380千B/Dであり、自主目標の11,191千B/Dを達成していない[8]。これについて同国石油相は、油田が極寒地帯にあるため急激な減産が不可能であり、5月迄協調減産枠を達成することは困難であると釈明している。ところが米国は原油価格の高値安定を反映してシェールオイルの大幅な増産が続いており、2月の生産量は1,210万B/Dに達し、世界最大の産油国になっている[9]

 

 原油価格は昨年末から上昇に転じ、英Brent原油は65ドル、米WTI原油は56ドルと堅調な推移を示している。OPEC+の協調減産は価格の下落を食い止めることが最大の目標であり、その点では現在のところシナリオ通りに進んでいる。しかしサウジアラビア、ロシア及び米国の世界三大石油生産国について見ると現状はサウジアラビア一国だけが重荷を負い、ロシアはこれまでの生産水準を大きく下げることなく、米国に至っては増産により漁夫の利を得ている有様である。

 

 世界の景気に目を転じると需要面では中国の景気後退或は環境問題にからむ石油から天然ガスへの転換など石油の需要に先行き不安があり、サウジアラビアが期待する需要の増加(または現状維持)は難しい情勢である。勿論価格が下落すれば米国のシェールオイル生産が真っ先に減少し、サウジアラビアの減産に歯止めがかかる可能性もあるが、価格下落のもとでの増産ではサウジアラビアにとって実質的な収入増加に結び付かず虻蜂(あぶはち)取らずになる。

 

 OPEC+は4月に再度会議を開き、協調減産の効果を見極めたうえで5月以降の方針を検討するとしているが、このままではサウジアラビアが貧乏くじを引く結果になりかねない。直近の報道によれば、サウジ石油相は4月25-26日の臨時会合における減産方針見直しは時期尚早であり、6月26-26日の会合で検討すべきであると述べている[10]。盟友のUAE及びクウェイト両国の石油相も同様の趣旨の発言を行いサウジ石油相をバックアップしている[11]。サウジアラビアのムハンマド皇太子は脱石油を目指しVision 2030の実現に必死であるが、石油収入が不足すれば経済不安を助長しかねない。サウジアラビアは正念場にあると言えよう。

 

以上

 

本件に関するコメント、ご意見をお聞かせください。

前田 高行

maeda1@jcom.home.ne.jp



[1] レポート「OPEC減産合意の経緯」(2017年2月3日)及び「OPEC・非OPEC22カ国が協調減産を来年末まで延長」(2017年12月10日)参照。

http://mylibrary.maeda1.jp/0397OpecProductionCut.pdf 

http://mylibrary.maeda1.jp/0428OpecMeetingNov2017.pdf 

[2] OPEC加盟国(1月生産量の多い順):

サウジアラビア、イラク、UAE、イラン、クウェイト、ナイジェリア、アンゴラ、ベネズエラ、アルジェリア、リビア、エクアドル、コンゴ、ガボン、エクアトール・ギニア

ちなみにOPEC創設期からの加盟国であったカタールは昨年末にOPECを脱退している。

[3] 非OPEC協調減産国(昨年10月生産量の多い順):

ロシア、メキシコ、カザフスタン、オマーン、アゼルバイジャン、マレーシア、バハレーン、南スーダン、ブルネイ、スーダン

[4] 2019/1/18付けOPEC Press Release参照。

 https://www.opec.org/opec_web/en/press_room/5357.htm 

[6] ‘Saudi February crude oil output fell to 10.136m bpd’ on 2019/3/8, Gulf News

https://gulfnews.com/business/saudi-february-crude-oil-output-fell-to-10136m-bpd-1.62536964

[7] ‘Saudi Arabia’s energy minister Al-Falih says no OPEC+ output policy change until June’ , 2019/3/10,  Arab News

http://www.arabnews.com/node/1464666/business-economy

[8] ‘Russian oil output down in January, misses global deal target’ on 2019/2/2, Arab News

http://www.arabnews.com/node/1445731/business-economy

[9] ‘Oil drops 1 pct as economic outlook weakens, US supply surges’. 2019/3/8, Arab News

http://www.arabnews.com/node/1463846/business-economy

[10] ‘Saudi Arabia’s energy minister Al-Falih says no OPEC+ output policy change until June’,

2019/3/10, Arab News

http://www.arabnews.com/node/1464666/business-economy

[11] ‘UAE to continue to cut output to help markets rebalance’, 2019/3/10, Gulf News

https://gulfnews.com/business/energy/uae-to-continue-to-cut-output-to-help-markets-rebalance-1.62571920

及び

‘Kuwait oil minister: Oil prices are good for producers, consumers’, 20193/10, Arab News

http://www.arabnews.com/node/1464411/business-economy

 

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