(英語版)
(アラビア語版)
2022年7月
Part I:「イスラエル、イラン核施設を空爆す」
29. バーチャル管制:砂漠に消えた二番機(中)
快晴にもかかわらず「ブルジュ・ハリーファ」は霞んで見えた。大都会ではスモッグのため地上が霞むことは珍しくないが、超高層ビル全体がかすんでいる。「マフィア」は魔法の絨毯に乗って千夜一夜の不思議な世界を覗いたような気持ちで眺めていた。その大都会のすぐ先はもう砂漠である。人々はその砂漠を「ルブ・アルハリ」と呼ぶ。アラビア語で「空白の四分の一」を意味する広大な砂漠である。アラビア半島の四分の一を占め、ごく最近まで満足な地図すら無かった空白地帯ということから名付けられたのである。
戦闘機が向かうその砂漠は今、地上と空が一体となった赤茶けた幕に覆われ地平線が見えない。そしてその幕が海岸線にひしひしと近づきつつあった。この時期特有の「砂嵐」の襲来である。超高層ビルがかすんで見えたのはその前兆だったのだ。2機の戦闘機はその砂嵐に突っ込もうとしている。こんな砂漠のど真ん中にジェット機が着陸できるような滑走路があるのだろうか?「マフィア」は恐怖と不安に駆られて先導の米軍機に行き先を確かめたい衝動に駆られた。しかしこちらからの交信は禁じられており、先導する米軍機はまるで何事もないかのように高度を下げつつ砂嵐の中へと突き進んでいった。「マフィア」は観念し黙って追走した。
砂嵐の中に突入すると猛烈な逆風のため機体は木の葉のように揺れ、真昼間と言うのに夕暮れ時のように暗くなり時々先導の米軍機を見失うほどであった。高度計が地上まで数百メートルを示したその時、先導機から呼びかけがあった。
「この先に誰も知らない米軍の滑走路があり、貴機はそこに緊急着陸してもらう。ここから先は基地の地上管制官が誘導するので周波数を○○ヘルツに切り替えよ。当機は所属基地に戻る。グッド・ラック。」
言い終えた米軍機は機首を左斜め上方に向けて「マフィア」の視界から飛び去っていった。入れ替わりに今度は管制官の声が飛び込んできた。
「こちら管制塔。こちら管制塔。貴機がこちらに向かっているのをレーダーで確認した。着陸準備体制に入りそのまま直進せよ。」
砂嵐で視界は殆どゼロのため管制官の誘導だけが頼りである。「マフィア」は微塵も疑わず管制官の指示に従ってずんずんと高度を下げた。
(続く)
荒葉一也
(From an ordinary citizen in the cloud)
前節まで:http://ocininitiative.maeda1.jp/EastOfNakbaJapanese.html
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