BPエネルギー統計レポート2014年版解説シリーズ:石油+天然ガス篇2 埋蔵量(2)
(2)国別の石油・天然ガス合計埋蔵量
(世界一の埋蔵量を誇るイラン!)
(2-1)2013年の国別埋蔵量
(表http://members3.jcom.home.ne.jp/maedaa/3-1-T01.pdf参照)
(図http://members3.jcom.home.ne.jp/maedaa/3-1-G02.pdf 参照)
埋蔵量を国別に見ると、原油と天然ガスの合計埋蔵量が最も多い国はイランの3,695億バレル(以下いずれも石油換算)であり、世界全体の13%を占めている。イランは石油埋蔵量では世界4位(1,570億バレル)であり、天然ガスの埋蔵量(33.8兆㎥、石油換算2,125億バレル)は世界一位である。
イランに続くのがベネズエラ、サウジアラビア及びロシアであり、それぞれの埋蔵量はベネズエラ3,334億バレル(内訳、石油2,983億バレル、天然ガス351億バレル)、サウジアラビア3,176億バレル(石油2,659億バレル、天然ガス518億バレル)、ロシア2,896億バレル(石油930億バレル、天然ガス1,966億バレル)である。以上4カ国は原油と天然ガスの比率が各国により大きく異なっている。イランは原油と天然ガスの比率が42%対58%で比較的バランスが取れているが、ベネズエラは原油の比率が89%と圧倒的に高く、サウジアラビアも原油84%に対して天然ガスは16%に過ぎない。これに対してロシアは逆に原油32%対天然ガス68%であり、天然ガスの埋蔵量が多い。
原油と天然ガスの埋蔵量の比率で見ると、イランのように両者のバランスが比較的均等な国は米国(原油43%対天然ガス57%)であり、ベネズエラ或いはサウジアラビアのように原油の比率が高い国はカナダ、イラク、UAE、クウェイトなどである。一方ロシアのように天然ガスの比率が高い国にはカタール、トルクメニスタンなどがある。
ロシアに次いで埋蔵量が世界で五番目に多いのはカナダの1,870億バレル(原油1,743億バレル、天然ガス127億バレル、以下同じ)である。これに続く6位以下の国とその埋蔵量はカタール(1,803億バレル、251億バレル、1,552億バレル)、イラク(1,726億バレル、1,500億バレル、226億バレル)、UAE(1,361億バレル、978億バレル、383億バレル)、クウェイト(1,127億バレル、1,015億バレル、112億バレル)、トルクメニスタン(1,105億バレル、6億バレル、1,099億バレル)、米国(1,030億バレル、442億バレル、588億バレル)の順である。
注目すべきことは同じGCC産油国でも天然ガスが豊富なカタールに対してUAE、クウェイトは少ない。これらの国はいずれも発電或いは海水淡水化プラントの燃料として国内の天然ガスの需要が大きい。このためUAE、クウェイトなどは夏場にピークを迎える電力・水のために天然ガスを輸入しなければならないのが実情である。また世界一の石油輸出国であるサウジアラビアでもガス不足は深刻な問題であり国内ガス田の開発が急がれている。
(続く)
本稿に関するコメント、ご意見をお聞かせください。
前田 高行 〒183-0027 東京都府中市本町2-31-13-601
Tel/Fax; 042-360-1284, 携帯; 090-9157-3642
E-mail; maeda1@jcom.home.ne.jp
9/1 国際石油開発帝石 マレーシア サバ州沖深海S鉱区におけるサントス社への権益の一部譲渡について http://www.inpex.co.jp/news/pdf/2014/20140901.pdf
9/3 石油連盟 内閣改造について(会長コメント) http://www.paj.gr.jp/paj_info/press/2014/09/03-000703.html
9/4 BP Statement on Gulf of Mexico http://www.bp.com/en/global/corporate/press/press-releases/statement-on-gulf-of-mexico.html
(石油と天然ガスは一体として考えるべきである!)
はじめに
BPの「BP Statistical Report of World Energy 2014」をもとに本シリーズで石油及び天然ガスの埋蔵量、生産量及び消費量(天然ガスについては貿易量も含む)のデータを抜粋して解説したが、最後に石油と天然ガスを合わせた形でその埋蔵量、生産量及び消費量についての解説を試みる。
石油と天然ガスは常温常圧の状態で前者が液体、後者が気体の違いはあるものの本来は同じ炭化水素資源である。石油は運搬・貯蔵等の利便性に優れ、また用途としては燃料用のほか、石油化学原料にもなるため古くから広く利用されてきた。
これに対して天然ガスは主成分がメタン単体であるため燃料として使用されることがほとんどであり、石油化学原料(メタノール、エチレンなど)としての利用は未だ少ない。加えて天然ガスは大気中への拡散を防ぐため密閉状態で運搬しなければならない。このため従来は生産地から消費地までのパイプラインが必要であった。しかし運搬・貯蔵方法としてガスを極低温で液化するLNGの製法が普及した結果、遠く離れた消費地に大量のガスを供給するLNG貿易が確立した。こうして世界的なエネルギー消費の増大に対して天然ガスは石油の代替エネルギーとして需要が拡大している。さらに天然ガスは石油に比較してCO2の発生量が少ないため環境問題の観点からも強い需要がある。
石油と天然ガスはそれぞれの発展度合いの違いにより現在も別々に取り扱われることが多いが、エネルギーとして見れば両者は殆ど変わらないのである。石油生産国の多くは天然ガス生産国でもあり、また石油消費国も同時に天然ガスの消費国である。生産国と消費国はそれぞれが石油と天然ガスのベストミックスを探っている。
本稿では石油と天然ガスを合わせた埋蔵量、生産量及び消費量についてBPのデータをもとに解説を試みることとする。なお天然ガスから石油への換算率は10億立方メートル(以下㎥)=629万バレル(1兆㎥=62.9億バレル)として計算した。
1.世界の石油と天然ガスの埋蔵量
(2013年末の石油・天然ガスの合計可採埋蔵量は2.85兆バレル!)
(1)2012年末の石油と天然ガスの合計埋蔵量
(図http://members3.jcom.home.ne.jp/maedaa/3-1-G01.pdf参照)
2013年末の世界の石油埋蔵量は1兆6,879億バレルであるが、これに対して天然ガスの埋蔵量は186兆㎥であり、これは石油に換算すると1兆1,680億バレルである。石油の埋蔵量は天然ガスより多く、両者を合わせた合計埋蔵量は2兆8,559億バレルとなる。
これを地域別に見ると、中東は1兆3,135億バレルであり、世界全体の埋蔵量の46%を占めている。続く欧州・ユーラシアは5,039億バレル(18%)であり、この両地域で世界の埋蔵量の64%を占めている。その他の地域については中南米3,779億バレル(13%)、北米3,033億バレル(10%)、アフリカ2,196億バレル(8%)、アジア・大洋州1,377億バレル(5%)である。
本シリーズの石油篇及び天然ガス篇で触れたそれぞれの地域別埋蔵量と比較すると、中東は石油埋蔵量が全世界の48%を占めているが、天然ガスのそれは43%であり、石油の比率が高い。これに対して欧州・ユーラシアの石油と天然ガスの埋蔵量はそれぞれ全世界の9%及び31%であり、天然ガスが石油の4倍に達している。
(続く)
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(注)本シリーズは「マイライブラリー(前田高行論稿集)」で一括してご覧いただけます。
http://members3.jcom.home.ne.jp/3632asdm/0322BpGas2014.pdf
7.天然ガスの価格(続き)
(かつてはEU、米国の方が日本より高かった時代もあった!)
(2)日本のLNG価格を1とした場合のEU、米国の天然ガス価格
(図http://members3.jcom.home.ne.jp/maedaa/2-5-G02.pdf 参照)
ここで取り上げた日本とEUと米国の天然ガスの価格は日本とEUがCIF価格であり、米国はパイプラインの受け渡しポイントHenry Hubにおける価格である。従って3者、特に米国と日本を単純比較することはできないが、ここではその点を含んだ上で日本のLNG価格を1とした場合の2000年から2013年までのEU及び米国との格差を比較すると、まず2000年のEU年間平均価格は日本の0.61倍、米国は0.89倍であった。つまりEU価格は日本より4割安く米国価格は1割程度安かったのである。
その後日本に対するEUの相対価格は上昇する一方米国の相対価格は下落、2002年には共に日本の0.8倍程度となった。しかし2003年には米国Henry Hub価格が上昇、日本との相対価格は1.18倍に逆転した。原油価格が安定したため原油にリンクした日本のLNG価格が低く抑えられたのである。その後も米国の価格は上昇、2005年には米国価格は日本の1.45倍まで格差が広がった。つまり2003年から2005年までの3年間は米国の天然ガス価格の方が日本のLNG価格より高かったのである。一方EUの対日相対価格も徐々に上昇し2005年には日本よりわずかに低い0.97倍になっている。ところが2006年になると今度はEU価格が上昇し、2006年、2007年の2年間はEU価格が日本価格を上回った。
しかし2008年以降は日本の価格が急上昇したのに対しEU価格は大きな変動が見られず、米国はシェールガスの開発が本格化し日本とは逆に価格が急速に下落した。その結果、2008年には日本を1とした場合EUは0.92倍、米国は0.71倍となり日本の価格が最も割高になっている。その後3カ国の価格格差は年々拡大し、2010年にはEUの相対価格は日本の0.73倍、米国は0.4倍となり、米国(Henry Hub)価格は日本のLNG CIF価格の半値以下になったのである。2013年時点では格差はさらに広がりEUは日本の0.66倍、米国はわずか0.23倍にとどまっている。大まかに言えば日本のLNG価格は米国の4倍以上と言うことになる。
今後この格差がどうなるか予断を許さないが、豪州、東アフリカ等世界各地で天然ガスの開発が進み、また米国のLNG輸出が開始されるとLNGのスポット価格は下がる可能性がある。またパプアニューギニア、豪州、モザンビーク、米国シェールガスなどのLNGプロジェクトに日本企業が資本参加することで安定的な価格と量の確保が可能となる。原油価格の動向次第では日本のLNG輸入平均価格が下がる可能性もあると言えよう(既に2013年の日本向けLNG価格にその予兆が見られる)。
歴史を遡って見ると、LNGが本格的に市場に登場したのは1997年にカタールと日本の中部電力が長期需給契約を締結した時からである。この時、米国或いはヨーロッパにおけるパイプラインを介した天然ガス価格はLNG価格算定の参考にならず原油価格とリンクした価格体系が編み出された。
1990年代後半は1980年代のOPEC支配の時代が終わり第二次オイルショック時には40ドル/バレルに達した原油価格が1998年には12ドル台にまで暴落し原油は市況商品とみなされるようになっていた。従ってこの時点でLNG価格を原油価格にリンクさせることは長期的な安定取引を望むカタール及び日本の双方にとってメリットがあったことは間違いなかったのである。
現在のEU或いは米国との価格差をとらえて、日本企業のLNG取引の稚拙さを非難する声があるがそれはあくまで結果論と言えよう。エネルギー資源の無い日本にとって石油及び天然ガスを長期安定的に確保することが至上命題であり、その時々の価格の高低に一喜一憂することは余り意味のあることとは思えない(勿論輸入価格を低く抑える努力が必要であることは論をまたないが)。
(天然ガス篇完)
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