イレグイ号クロニクル Ⅱ

魚釣りの記録と読書の記録を綴ります。

「椅子がこわい-私の腰痛放浪記」読了

2020年03月08日 | 2020読書
夏樹静子「椅子がこわい-私の腰痛放浪記」読了

夏樹静子の1997年の著作にこんなものがあった。この作家も相当な腰痛に悩まされていたようだ。この本にはその様子を、「背中に鉄板の甲羅が張り付いたようだ。」と表現されている。
約4年間にわたって苦しみぬいた後にひとりの医師に出会いその苦悩から脱却できたという話だ。

筆者はその医師と出会う前、ありとあらゆる治療法を試しては挫折する。正攻法は筋力アップであったり、ストレッチ。ちょっと眉唾物では鍼、灸の類。もうちょっと眉唾になると新開発の電気治療器。完全に怪しいのは手をかざしたら治るというものや気功、家の庭の池を埋めるというのまでやり、さらに霊媒師までも駆り出すけれども著者の腰の痛みは治らない。
ぼくもずっと腰痛に悩まされている。最初に医者に診てもらったのはもう20年くらい前になるだろうか。それ以来それほどもよくならずに来ているが、こんなにあれこれする暇もなく、もっともお金がなかった。特殊なことをしたのは2年間ほど脊椎ブロック注射というのに通ったことくらいだろうか。そういえば内視鏡手術の権威という医者にも無理やりコネを伝って行ったことがあった。その時はけんもほろろに、「俺のところに来るには10年早い。」という感じであった。作家はこれだけいろいろやっていながらほとんどその治療法を信用していなかったけれども、僕は逆に、医者からは、「そんなもの腰痛のうちには入らない。」と思われていたのかもしれない。

そんななか、ひとりの心療内科の医師から電話を受け取った。著者と親交があったジャーナリストととのつながりのある人であった。そのジャーナリストが亡くなる最後の仕事として書いたコラムに著者の腰痛のことが書かれてあったという奇遇な縁である。
その医者の見立ては、「心身症」という結果だった。器官的疾患ではなくて心の病であるというのである。体に異常がなくて各所に痛みが出るようなときは心身症を疑うことになるそうだが、それは心の病が脳の中で痛みを作り出していることがあるという事実があるからだそうだ。

そしてその治療法に、「絶食療法」というものが選ばれた。人間は絶食することで脂肪が糖に変わり脳で消費するようになる。そのときに感覚が鮮明になり脳が引き起こす痛みを抑制してくれるようになるそうだ。約2か月の期間、治まらない激痛と主治医への不信感と戦い、その苦痛に加えて主治医は、「夏樹静子」という作家でいることの重圧がその痛みを引き起こしているのだと伝え、最終的には作家である自分を捨てよという。
そんな治療を終えてしばらくしたころ、確かに痛みは徐々に引き、本のタイトルは、「椅子が怖い」であるけれども気が付くと椅子にも普通に座れるようになってきたというのがこの本の物語だ。

以前に、NHKの「ためしてガッテン」だっただろうか、脊椎の神経がヘルニアのようになっている人でも腰痛を発症する人としない人がいるというような内容の放送をしていたことがあった。そのときにも同じように、腰痛には精神的な側面もあると言っていたが夏樹静子の場合もそれに当たっていたようだ。
痛みから真向に立ち向かうのではなく、それをありのままに受け止めるというのが心身症からくる腰痛を和らげる方法であると書いていたけれども、それはいったいどのようにすればいいのだろうか。それは僕の今の頭痛にも効くのだろうか。『信念を持つとか、プラス思考とか、感謝とかその種の前向きな姿勢を自分に求めることはもはやどこを叩いてもできない相談だった。』というのは神経症の治療に向かう直前の作家の心境であるが、まさに今の僕にぴったりと当てはまる。

西行は、『敗けたものが敗けたことをおおらかに受け入れ、敗け惜しみなく朗らかにその宿命に遊べば歌が生まれる』と言ったそうだが、いつになったら僕の心にそんな境地が現れるのだろうか。
印鑑を押す場所がひとつ右に寄ったことを忘れて押し間違えた時のみじめさはたまらない。
広島に住み、この春にリストラに応じた同業他社で働いていた友人は、再就職先を探してもガイショウみたいな仕事しか残っていない。きちんとしたシステムを持っていて給料もそれなりに貰えるのであれば文句は言えないと言っていたが、確かにそうなのかもしれない。クビにならないだけましだと思わなければならないのだろう。僕たちはまったくつぶしのきかない世界で働いているのです。というコメントが今さらながらに身に滲みる。

しかし、今のすべてを受け入れて腰痛と頭痛を克服するにはどうすればいいのだろうか・・。
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