イレグイ号クロニクル Ⅱ

魚釣りの記録と読書の記録を綴ります。

「そっとページをめくる 読むことと考えること」読了

2024年02月19日 | 2024読書
野矢茂樹 「そっとページをめくる 読むことと考えること」読了

タイトルが気に入って借りてみたが、この本がどんな内容なのかはまったく知らずに借りた。小説なのか、エッセイなのかもまったくわからなかった。たまにはこういった本の選び方もいいのではないかと思った。

選んだ本は著者が書いた書評を集めたものであった。著者は哲学者だが2017年4月から2019年3月まで朝日新聞で書評を書いていたそうだ。僕も毎週土曜日の書評欄は必ず読んでいるので知らず知らずのうちに読んでいたはずだ。書評に関心があっても、それを書いた人にはそれほど関心を持っていなかった。申し訳ない・・。しかし、それほど純粋に書籍について主観を交えずに書かれていたということだから関心を持たれていないということはある意味書評を書いた人にとっては名誉なことなのかもしれない。
朝日新聞での書評の書き方というのは、まず、担当の記者たちが選んだ100冊ほどの本の中から自分が読んでみたい本を選ぶ。それらを読んでみて書評するかどうかを決める。朝日新聞の書評は400字、800字、1100字の3種類があるらしく、この本は何字で書評しようかと自分で決める。持って帰っても書評しなかった本を別の人が書評したりすることもあるらしい。

たくさんの本の書評が集まった本の感想文というのはどう書いていいのかわからない。取り上げられている本の感想を書くというのもそれを読んでいないのだから無理な話だし、著者の書評のしかたを書評するというのもなんだか変な感じがする。
書評というのはその本の内容を正確に読者に伝えるというのがその使命だが、僕の感想文は特にその本の内容を正確に書き残しているわけでもなく、その本の核心であろうがなかろうが自分の価値観に合っているなと思う部分だけを取り出して書いているだけだから書評の書き方が参考になるというものでもない。
“はじめに”の部分で、『自分と同じ考えが書かれてあるとその本はいい本だとほめて、自分と違う考えが書かれているとこの本はだめだとけなす人』がいると書かれているがそれはまさに僕のことだ。著者はそういう読み方というのはつまらないという。『一度読んだだけではよくわからないというのはチャンスであり、二度、三度と読んでみて本の中に潜っていって、聞こえてくる声に耳を澄ます。』というのが本を読む醍醐味だというのだ。
確かにそう思う時は多々ある。この本、もう一度読んだらもっと内容がよくわかるのにと思うものの、残りの人生、そんなにたくさんの本を読めるわけでもなくとにかくたくさん読みたいと思う気持ち勝ってしまう。不可逆的人生のなかではその本の解釈が正しかろうが間違っていようが残念ながら大したことではない。だからやっぱり今までと変わらないスタイルで本を読み続けるのだと思う。

著者が哲学者だと感じるのは、「子供の難問」という本を取り上げているということだ。書評というよりも読み込んで解説しているという感じであったが、子供の質問のうち、「ぼくはいつ大人になるの?」という文章と、「好きになるってどんなこと?」という文章だ。
その答えは自分自身の存在意義というものにつながる回答のように思えた。あえてこの本を取り上げたというのは哲学者ならではの感覚である。
子供の疑問とはいえ、その回答はう~んとうなされるものであったので簡単にまとめておこうと思う。

「ぼくはいつ大人になるの?」という質問に対しては、『かけがえのないものがあるのだということを知ることである。』と答える。さらに、『そのかけがえのない何かを失い、諦めること』で切なさや懐かしさという感情が生じるのだという。
それが大人になるということらしい。
そういえば、僕にはかけがえのないものなど何ひとつないな~。と、この部分を読みながら思っていたのである。

「好きになるってどんなこと?」に対する答えは、『新しい世界に踏み出すこと。』であると答える。好きな人やものができると、それに対してもっと知りたいと思う。それが新しい世界に踏みだすことだというのだが、ここはなるほどとわかる。じゃあ、「好き」の反対の「嫌い」はどうだろう。あるものを嫌いと思うためには嫌いなところを探さなければならない。と、いうことは嫌いなところを探すために関心を持たねばならない。それはすなわち「新しい世界に踏み出している。」ということになる。ならば、本当に嫌いになるためには「無関心でいなければならない。」という。そのものを自分にとって意味も価値もない状態に据えるのである。なるほどとは思うのだが、これは結構難しそうだ。ある意味修業が必要ではないのかとも思えてくる。
最後に、この回答をした哲学者は、「自分を愛さなくては、人を愛することはできないが、人を愛さなければ、自分を愛することはできない。」と語る。エヴァンゲリオンの中で綾波レイが語る言葉と同じだが、庵野秀明もこの本を読んでいたのだろうか・・。

せっかくの書評集なので、その文章を読んで、僕も読んでみたいと思った本を記録しておく。
「大人のための社会学」 井手 英策 宇野 重規 坂井 豊貴 松沢 裕作
「新しい分かり方」佐藤雅彦
「新哲学対話」飯田隆
「思考としてのlandscape地上学への誘い」石川初
「タコの心身問題」ピーター・ゴドフリー・スミス
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