外国で一時的個人的無目的に暮らすということは

猫と酒とアルジャジーラな日々

中国旅行(3) 上海の印象~老西門界隈~

2012-06-15 17:36:52 | ウイグル・中国

老西門界隈



上海には初日と、最後の2日間に計3泊したが、この短い期間に、この街は私のハートをかっさらってしまった。

その第一印象は圧倒的で、私は呆然としながらこう思ったものだ。
「こんなにステキな国が隣にあるのに、私は今までいったい何をしておったのか?!
わざわざイタリアやシリアくんだりまで行く必要なんか、なかったんじゃないのか?!」

上海で滞在した宿は「老西門」という、下町情緒がたっぷり残った庶民的な地域にあった。
「山の手より下町」、「新築の高層ビルより廃屋寸前のボロ家」、「お洒落なカフェより赤ちょうちん」、「高級レストランより屋台」という私の好みを考慮して、友達がここのユースホステルに予約を入れておいてくれたのだ。

上海といえば、高層ビルだらけの近代的な大都会を思い浮かべる人が多いと思う。旅行前は私もそうだった。そのため、この街には今まで全然興味が持てなかった。都会なんてどこの国でも似たり寄ったりで、あんまり面白くないからだ。だから地下鉄の老西門駅を出て、宿を目指して歩きながら周りの風景を見渡したとき、完全に意表を突かれたのだった。

入り組んだ路地の両側に、粗末な住宅や商店、安食堂などが立ち並んでいる。黒ずんだ壁、突き出たトタンの庇、今にも外れそうな窓枠、無秩序に張り巡らされた電線・・・軒先には洗濯物がずらりとぶら下がり、その下を自転車やバイクや、荷押し車が慌ただしく通っていく。道端の屋台からはいい匂いが漂い、人々がその周りに群がっている。食料品店の店番のおばさんは、数人のお友達とトランプに熱中していて、その足元では犬が丸くなってお昼寝中・・・なんだかこの風景、どこかで見たことある。そうそう、ナポリの路地裏がちょうどこんな感じだった。

宿にチェックインして、少し休憩したあと、付近の市場を散策した。
市場といっても屋台はあまり出ていないので、商店街と呼ぶほうが正確かもしれないが、道の両側にえんえんと連なる小さな商店が、店の前の路上にまで思いっきりはみ出して、品物を広げて売っているため、まるで青空市場にいるかのような錯覚を覚えるのだ。ときは夕暮れどきで、次第に薄暗くなる空の下、夕食のための買い物を急ぐ人々で混雑していた。売っている商品の種類は多種多様。タライに入れられ、ひっくり返ってバタバタしている亀、木のかごの中でぼんやりとうずくまるカモ、得体の知れない水色の卵、盛大に湯気を立てる饅頭の蒸籠・・・この喧騒、この混乱は、カイロのスークにも負けないかもしれない。

夕食をとったのは、宿の並びにある、テーブル席が3つしかない狭苦しい食堂(二階席もあるようだったが)だった。隣のテーブルでは、若い男の子と女の子の2人連れが食事をしており、もうひとつのテーブルでは、おじさん3人組がビールや、強そうな透明のお酒を飲みながら、なにか熱心に語り合っている。私たちは空いているテーブルに腰を下ろし、お店の人に、隣の2人連れが食べている魚料理を指さして、あれが欲しいと注文した。その様子を見て、女の子のほうが英語で話しかけてきたので、しばらくおしゃべりする。男の子の方は(恋人ではなくて、弟だった)英語が話せないようで、黙ってにこにこして聴いている。向こうのテーブルのおじさんたちも、なんだか嬉しそうにこちらを眺め、この女の子に話しかけて、私たちについて何か質問していた。好奇心旺盛なのだ。

この老西門界隈の下町ムードは、私のハートを瞬時にわしづかみしてしまったが、なににもまして私の心を打ったのは、ここの人々が人生を楽しんでいる様子だった。
彼らは遊ぶのが上手なのだ。子供が遊んでいる姿は、なぜかあまり見かけなかったが、大人たちのほうは、路上に机や椅子を持ち出して、寄り集まっておしゃべりをしたり、ゲームに興じたりしているのをよく見かけた。これは上海のこの界隈だけではなくて、中国各地でみられる現象ではないかと思う。その昔バリ島を旅したときも、路上に座ってタバコをふかしたり、観光客に声をかけたりして、のんびり一日を過ごす人々をよく見かけたが、それは男性に限られていた。でもここでは、女性も男性に負けず劣らず、路上で遊んでいる。
道端で麻雀にふけっているおばあちゃんたちや、トランプするおばさんたち、将棋の親戚みたいなゲームに熱中しているおじさんたち・・・それはいつまでも眺めていたくなるような、素敵な光景だった。


生地からこねて、ネギ入りのお焼き(何とか餅?)を作るおじさん。私たちも買って食べたが、塗ってあるタレが香ばしくて美味しかった。



市場風景



卵屋さん



巨大なきゅうりのようなもの(冬瓜?)を切る八百屋さん





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中国旅行(2) 下準備

2012-06-08 00:07:25 | ウイグル・中国

果物屋の看板猫を撫でる 上海にて




中国を個人旅行するにあたって、私がやった下準備とは、もちろん語学学習である。
中国では英語があまり通じないらしいし、いちおう語学マニアのはしくれ(?)として、多少なりとも現地の言葉を勉強しておくのが当然の義務やわ!と思いついたのだ。
我ながらヒマで物好きである。

問題は、「どの言語を勉強するか」、である。
もちろん中国に行くのだから、中国語(の標準語である北京語)は必須だが、主要な滞在先のウイグル自治区では、ウイグル語も使用されているのだ。長年の占領の結果、ウイグル人も中国語が話せるわけだが、私はできれば彼らと、彼らの言語で話したかった。それに、ウイグル語はトゥルク語系の言語なので、トルコを勉強した私には、比較的とっつきやすいように思えた。

そんなわけで、出発前の約1ヶ月間、中国語とウイグル語の学習に精を出すことになった。
「上海に行くんやったら、中国語の上海方言も勉強しといたほうがええんやないか?」と、私の心の中に住んでいる陽気なおじさん悪魔が囁いたが(彼は「ラジオスペイン語講座礼賛」の記事にも登場した)、黙殺することにした。冗談もたいがいにしてほしいわ、そんなにできるわけないやん!

中国語に関しては、書店で超初心者用のテキストを購入して、発音練習と、基本文例・重要語彙の丸暗記をする一方、NHKラジオ講座も聴き始めた。
こんな短期間で文法を覚えるのはムリなので、文法学習は省略して、丸暗記に徹することにする。中国語の文法はわりとシンプルだそうだから、実はさほど時間がかからないのかもしれないけど。

それにしても、中国語の発音は、なんであんなに難しいんでしょう?
ムリ!似たような発音の子音がたくさんありすぎる。区別して発音しようと思ったら、舌がつりそう。有気音と無気音の違いを聞き分ける、なんていうのも、耳のあまりよくない私には不可能。それにあの「四声」はなんなん?あの4パターンの「音の上がり下がり」を間違ったら、別の意味の単語になってしまうって、どういうことやねん!だいたい、似たような発音の単語が多過ぎて覚えられへん!やっぱり中国語なんか勉強するんじゃなかった・・・などと、ひたすらボヤきながら、暗記作業をしていた私。
結局、頭に入ったのは、「これください」、「いくらですか?」、「高すぎる、もっと安いのはありませんか?」、「トイレどこですか?」、「冷たいビールありますか?」などの、サバイバルに必要な最低限のフレーズのみであった。

中国語に比べたら、ウイグル語は比較的楽だった。
先ほども触れたように、ウイグル語はトゥルク語系の言語であり、トルコ語の親戚筋にあたる。そのため、文法構造がトルコ語に酷似しているし、共通の語彙も多い。数字なんか、ほとんど一緒。またウイグル語の表記には、なぜかアラビア文字が用いられているが、アラビア語学習経験者でもある私には、とりたてて問題はない。
ただし発音がトルコ語とかなり違うので、聞き取りは困難だし、もちろんトルコ語と全く似ていない単語もたくさんあるから、それらは一から暗記しないといけない。

一番の問題は、ウイグル語のテキストが手に入らないことだった。
ネットでざっと調べたところ、現在入手可能なウイグル語の独習書は、大学書林の「現代ウイグル語四週間」のみのようだった。しかもこの本は、税抜きで7500円もするのだ。さすがマイナー言語である。2週間の旅行のために、わざわざそんな高い本を買うわけにはいかないので、その代わりに、インターネット上で見つけたウイグル語学習用サイト、「ウイグル語ことはじめ/マレビトの目から見たウイグル/新疆瓦版」で勉強することにした。
このサイトの最大の特徴はなんといっても、「恋のかけひき」関係の例文が多いことである。
例えば・・・

「君と会いたかった」
「オレは君が好きだ」
「君はオレのこと好きかい?」
「私もあなたのこと、好きには好きよ」
「でも友だちとして好きなの」
「お前がいなくちゃ生きられないんだ」
「私のことは忘れて」

といった具合である。
観光旅行で数日滞在するだけの私が、こんなフレーズを口にすることがあるかどうか、はなはだ疑問だったが、サイトの筆者によると、ウイグル男性は脊髄反射で女性を口説くらしいので、必要に迫られることがないとも限らないのかも・・・というわけで、好奇心も手伝って、私はこれらの例文の丸暗記に励むこととなった。

ウイグル語の発音や表記の規則、場面別の文例、ジャンル別の単語リストなどが、笑いのツボを直撃する愉快な説明文とともに載せられていて、非常に素晴らしいサイトなのだが、残念なことに、「トイレどこですか?」、「バス停はどこですか?」、「テイクアウトします」、「メニューを見せていただけますか?」などの、旅行に必須のフレーズがほとんど載っていなかった。また文法説明が少ないため、覚えた例文が応用しにくいのだった。

1ヶ月間の学習の後、私の中国語は、「トイレはどこか質問できても、相手の返事が全く理解できない」程度であり、ウイグル語のほうはというと、「ナンパをさりげなく断ることはできるが、トイレの場所を質問することが出来ない」といった、非常に微妙なレベルであった。

実際に旅行してみて、このお勉強がどのくらい役に立ったの?という質問には、「さっぱり役に立たなかった」と、「あんまり役に立たなかった」の中間くらいだった、と答えるしかない。買い物や観光、ホテル探しなどの際に多少は役に立ったものの、それ以上ではなかった。やはり私には語学の才能がにゃい・・・はっきり言って、時間の無駄だったかも。ウイグル人の若者はぜんっぜんナンパしてくれなかったし、ふん、なにさ~。



アパックホジャの霊廟 カシュガルにて


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中国旅行(1) あらまし

2012-06-03 23:06:15 | ウイグル・中国

上海の下町、老西門界隈の、とある商店にて。 ヒモに繋がれた猫を抱き上げる、ラブリーな中国人のお兄ちゃん



4月の終わり頃から5月の上旬にかけての2週間、中国を旅してきた。

毎日毎日、自宅(友達の家だけど)にひきこもってボンヤリし、やたらに酒を飲んでは朝までだらだらネットするという生活に心底うんざりし、たいくつ~、アタシこのままじゃ認知症にかかっちゃう~、と焦っていた矢先に、「ゴールデンウィークあたりに上海に行かない?」と、友達誘いがかかったので、のってみたのである。

友達は上海と杭州に行きたいと言っていたが、私はどうせ中国に入国するのなら、ぜひウイグル自治区に行きたい、行く行く絶対行く~、と主張した。
そもそも私は、中国という国にあまり興味がなかったのだが(というか、東アジアになぜか興味が持てなかった)、中国(つまり漢民族)の支配下にあるチベットやウイグルなどの少数民族、特にトルコ系ムスリムのウイグル人には、前々から関心を寄せていたので、この機会に、彼らが日々どんな暮らしをしているのか、実際に自分の目で確かめたいと思ったのだ。ほんの数日間の旅行だし、しかも言葉の問題があるので、ごく表面的な現象を眺める程度で終わるだろう、とはわかっていたが・・・。

色々検討した結果、関空から上海へ飛び、杭州へ移動して西湖を観光したのち、また上海に戻って空路でウルムチ入りし、最終的にはウイグル自治区の西の果て(つまり中国最西端)の都市、カシュガルまで行くことになった。カシュガルからはウルムチ、上海経由で帰国である。

上海・杭州間の移動は鉄道、それ以外は全て航空機を利用することになった。
私としては、帰りは鉄道でのんびり移動して、風景を眺めたかったのだが、現地で旅行会社に相談したところ、特急に乗っても、カシュガルからウルムチへは約24時間、ウルムチから上海へは48時間くらいかかり、しかも運賃は航空運賃と大差ありません、と言われて考えを変えた。あんまり体力ないのに、そんな長い時間電車に乗ってたら死んじゃうかもと、つい弱気になっちゃって・・・。そのかわりカシュガルに5泊して、ゆっくりすることにした。

ちなみに飛行機なら、カシュガル・ウルムチ間は約1時間半、ウルムチ・上海間は約5時間半である。カシュガル・上海間の直行便もあるそうだが、その時期は満席だということだった。


私の旅の行程は以下の通り。参考までに(なんの?)載せますが。

4月27日 関空からJALで上海へ 上海泊
4月28日 上海から杭州へ鉄道で移動し、西湖観光 杭州泊
4月29日 鉄道で上海へ戻り、中国南方航空でウルムチへ ウルムチ泊
4月30日 ウルムチ市内観光 ウルムチ泊
5月1日 日帰りでトルファン観光 ウルムチ泊
5月2日 ウルムチから海南航空でカシュガルへ移動 カシュガル泊
5月3日~5月6日 カシュガル観光 カシュガル泊
5月7日 カシュガルから四川航空でウルムチへ移動 ウルムチ泊
5月8日 ウルムチから中国東方航空で上海へ移動 上海泊
5月9日 上海観光 上海泊
5月10日 上海からJALで関空へ

(友達は5月4日にカシュガルを出発して、ひと足先に帰国した)


日本の外に出るのは、昨年5月にエジプトから帰国して以来、約1年ぶりだし、しかも中国に足を踏み入れるのは生まれて初めてなので、たいへんわくわくし、1ヶ月ほど前から下準備することにした。さて、この下準備とは、いったいなんでしょう?

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