ミーロの日記

日々の出来事をつれづれなるままに書き綴っています。

生命力

2017-05-19 15:13:43 | 介護
先月、誤嚥性肺炎で入院した父だったが(父、再び入院)、思いのほか回復が早くて、わずか一週間あまりで退院したのだったが、それから数日後、また熱を出して緊急入院となり、現在も入院が続いている。

今回は前回の肺炎よりもさらに事態は深刻で、胸の写真を見せてもらうと、わずか数日間のうちに両肺に白い部分がたくさん広がっていた。

父はと言えば、呼びかけにもほとんど答えることなく、意識が混濁していて、ずっと眠り続けているような状態が今も続いている。

前回の嚥下性肺炎の時に医師から説明されたが、この病は繰り返すことが多く、退院した翌日に悪くなって、また入院といったことも十分あり得るとのことだった。

まさにお医者様のおっしゃるとおりになってしまった。

血液検査の結果、白血球の数値が異常に高いため、再び点滴で抗生物質の投与がされた。

食事はもちろんできない。というか、父の意識がはっきりとしないので食事どころか、ふだん飲んでいる肺炎以外の薬さえ飲むことができない。

「今日はすこし良くなっているだろうか?」と淡い期待をもって病院へ行くのだが、父はいつも目をつぶったままで、呼びかけるとすこ~し目をあけてくれるようになったものの、まだ眠っている時間が圧倒的に長かった。

「今日からリハビリを始めます」
ちょうど私が父の見舞いに行っている時に、病室に入ってこられた作業療法士さんに言われた。

「リハビリを始められるということは、父はよくなっているのでしょうか?」と聞くと、作業療法士さんは「白血球の数値はすこしずつ下がってきていますが、全体的には良くありません。リハビリというのは、手足が硬直しないように動かしてあげることです」とおっしゃった。

あんなに体格の良かった父の手足は細い木枝のようになってしまった。

また胸はあばら骨が浮き出てしまった。

作業療法士さんは父の小枝のような手足を軽く動かして、あばら骨の浮き出た胸の部分をやさしくマッサージしてくれた。

時折、父の喉がゴロゴロと鳴った。

「こうしてマッサージをしていると、肺の中からもゴロゴロと音がするんです。これは肺にも痰が入っているということなんですが、こうしてマッサージをしてなるべく痰を口の方へあげようとしています」と作業療法士さんはおっしゃった。

そんな父の入院生活も一週間以上が経った昨日、担当の医師から「話があるので病院へ来てください」との連絡がきた。

妹と二人で行くと、話とは父の現在の状況と今後の治療方針だった。

お医者さんのお話によると、心配していた白血球の数はほとんど平常時まで下がったそうで、肺の炎症がすこし消え始めているとのことだった。
「入院した時、実はとても危険な状況で、そのままお亡くなりになってもおかしくなかったのですが、よくここまで治りましたね。まさに奇跡的です」とお医者さまはおっしゃった。

先生のお話は大変うれしかったのだが、それでも父の様子が入院前に比べて格段に悪くなっているというか、弱っているのがはっきりとわかる。
このままでは高齢者住宅へ帰っても、以前の生活には戻れないのではないだろうかと思った。

そのことをお医者さまに聞くと、高齢者の場合は肺炎は治ったとしても、長く絶食していることで、飲み込む力が無くなってしまうことがあって、それが原因で死亡したり、なかなか元の場所に戻ることも難しくなるそうだ。

そこで、もしも口から食べることができなくなった場合の選択肢としては、「胃ろうにする」または「胃管と点滴にする」というのがあるそうだ。(この場合、何もしないで見ているというのはないそうだ)

胃ろうはしないことに決めているので、残された選択肢は「胃管と点滴」。

お医者さまは言った。
「胃管は鼻からチューブを入れるのですが、やはり違和感があるので、患者さんによっては無意識に引き抜いてしまう方もいるんですね。お父さんももしかしたらそうするかもしれません。そうなった時、お父さんの手にミトンをはめてチューブを抜けないようにしますが、それでもかまいませんか?」

これを聞いて思わず妹と顔を見合わせた。

以前も父は入院中にミトンを手にはめられたことがあって、その時は「とってくれ~とってくれ~」と言って、本当にかわいそうだった。

今回もそれをするかもしれない?
それに胃管で鼻からチューブで栄養を送るというのも痛そうだ
「胃管をしたら、すこし寿命が伸びるのですか?」と聞いたのは妹だった。

すると医師は「伸びるかもしれないし、変わらないかもしれない。お父さんは今、身体のエンジンを止めようとする時期にきているのだと思います。エンジンを止めようとしているのに、どんどん栄養を流し込んで無理に引き留めておくことが、はたして彼(先生は彼と言った)の為になるのかと僕は思います」と言った。

この言葉はまさに私たちも思っていたことだった。

しかし、これがまだ若くして逝った母だったら違っていただろうと思う。
なんとしても、母には逝ってもらいたくなかったから、できる限りの治療をお願いしていただろう。

でも今、父の86歳という年齢を考えた時、「もう十分に生きたし頑張ったよね、もう楽になっていいよ、お父さん」という想いが湧いてくる。

「胃管もやめてください」そうお願いすると、お医者さまは「わかりました。では点滴だけにします。ところで、これはお父さんが口で飲み込むことがまったくできなくなった場合です。まだまだ口から飲み込むリハビリは続けますので、それにかけましょう」とおっしゃってくれた。

父の病室に戻ると、作業療法士さんが飲み込むリハビリをする為に、トロミをつけた水と医療用の小さなゼリーを持ってきてくれた。

父に飲んでもらうために、呼びかけるのだが、父は少し目を開けるとまた目を閉じてしまった。

「意識が覚醒していないので、リハビリ自体できないことが多いんです」と作業療法士さんは残念そうにおっしゃった。
隣では妹が涙ぐんでいる。
どうしたらいいのか・・・私にできることは、父の寝顔に向かって感謝想起を送る事だけだ。

ひたすら父に向って感謝の言葉を心の中で送った。

非科学的と思われる方もいるかもしれないが、私はそうは思っていない。
人間の意識は時にすごい力を発揮する。

一緒にいた妹も父に向って呼びかけ続けると、父は薄目を開け、徐々に目が開いている時間が長くなり、しまいにはぱっちりと大きな目が開いた!(父の目は二重まぶたの大きな目なので・・・)

作業療法士さんもここぞとばかりベッドをあげて、父の上半身が起き上がるようにして「これから、これを食べますよ」と言ってコップに入った水とゼリーを父に見せた。

すると、なんと父は自分の口を開けて、歯のない口の中を指をさした。

「入れ歯が入っていない。入れ歯を入れてほしい」という意思表示だった。

すぐに作業療法士さんが入れ歯を父の口の中に入れて、スプーンで一さじの水をすくって飲ませると、父はもぐもぐしながらごっくんと喉を鳴らして飲み込んだ。

「飲んだ~!!」妹と私と作業療法士さんの三人で歓声をあげてしまった。

そのあとも父は水を飲み、小さなゼリーも完食することができた。

そしてしばらくの間、大きな目を開けて私たちを見ていたのだが、さすがに疲れたのか、また眠ってしまった。

こういった父の様子からはまだまだ生命力のようなものを感じる。

父にあとどれくらい寿命が残っているのか分からないが、最後の最後まで命を輝かせてほしい。

私も後悔しないように、お父さんのことずっと見ているからね。







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