「世界の中で輝く日本、希望にあふれ、誇りある日本を創り上げる大きな夢に」「国民一丸となって、共に進もうではありませんか」。安倍首相の施政方針演説をテレビニュースで聞いた。こそばゆいくらいの未来志向に、奮い立つ気持ちになった人も大勢いたことだろう。
安倍首相は権力者として、厚顔なだけでなく、何を言えば国民が喜ぶかを熟知している。「美しい未来」に期待している庶民の心をつかむことに長けている。「桜を見る会」や「モリカケ」の問題など、安倍政権の政治の私物化、二人の閣僚が辞任した責任など、「小さなことだ」と言わんばかりだ。
政治評論家や野党は、「美辞麗句を並べただけで中身がない」「説明責任を果たしていない」と批判するが、評論家の指摘はともかく、野党は「我々ならこういう政策を行う」とビジョンを示して論争すべきだろう。国民の多くが、「問題はあるが安倍さんしかいない」と感じてしまうのは、批判しか聞こえてこないからだ。
朝日新聞は、「(今国会は)長期政権のゆがみを正し、政治や行政への信頼を回復するとともに、政策論議を深めること」と提案している。しかし、安倍政権は自らに「ゆがみ」があるとは考えていないし、政治や行政への不信があっても、「国民一丸となって」「令和の新時代の国創りを」と呼び掛けているのだから、全くかみ合わない。
人は「負の部分」を見せられるより、「夢」がある方が好きだ。だから野党は、「無意味な美辞麗句」などと切り捨てるより、政策の問題で対決すべきだろう。野党がどのような国創りを目指すのか、そこが見えないから支持が広がらないのだと思う。